2021年10月1日金曜日

【中村猛虎第一句集『紅の挽歌』を読みたい】24 中村猛虎句集『紅の挽歌』 福永虹子(句会亜流里 同人)

  猛虎句集の紅の挽歌 10句選


余命だとおととい来やがれ新走

卵巣のありし辺りの曼殊沙華

この空の蒼さはどうだ原爆忌

ボケットに妻の骨あり春の虹

光らざれば生き永らえし蛍かな

雪ひとひらひとひら分の水となる

遺骨より白き骨壺冬の星

英泉比良坂竜胆を超えるべからず

僕たちは三月十一日の水である


特選は

たんぽぼがよけてくれたので寝転ぶ


 色々悩んだ末にこの句を選ばせていただきました。奥様への挽歌の数々、胸がいっばいになりました。必死に病と闘い、願い叶わず亡くされた後も、ボケットにお骨を忍ばせて生きていかれるなんて、なんと素敏なご夫婦だろうとうらやましく思いました。

 原爆、東日本大震災に寄せる思いの深さにも心打たれました。どれもこれも大好きです


 その中にあって、本句は、哀しみや怒りが直接詠みこまれず、作者の無垢な心が素直に表現された句だと思います。たんぽぼを押しつぶして寝転ぶのを躊躇し、自分がよけたのではなく、たんぼぼがよけてくれたという謙虚さ、木当に心優しい方だと思いました。尾崎放哉の自由律俳句のような雰囲気の中で俳句の伝統を踏まえた素晴らしい句であると思います。


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