鈴木庸子句集『シノプシス』2011年11月3日ふらんす堂/2286円
夏ある日ものみな白く見えにけりを行方が激賞したという。これはなかなかいい。
句集は、題名が、シノプシス、各章がシャンゼリゼ、ピアソラ、マイナスイオン、バスケットシューズ、スイッチバック、モノクロ、ハッカドロップというカタカナばかりの章となっている。俳句そのものにはカタカナは少ないから、ちょっとけれんみをねらった句集構成といえようか。
子宮などなくてもをんな冬の月
かたまつてゐて傷ついて青くるみ
秋尾敏句集『悪の種』2012年12月15日本阿弥書店/2500円
さめざめと泣く瀧もあり山の裏
匿名の木に覗かれている焚火
序文に志を語り、跋は「私をつくったもの・私がつくろうとするもの」、解説に松岡秀明の「越境と超越――秋尾敏論」を載せるという、秋尾を語りきったいささか饒舌な句集となっている(これは「俳壇」の連載記事<俳人クロニクル>を転載したためであろう)。電気工作(つまり理工系ということだ)、音楽、批評、そして俳句実作の順番で語るのが秋尾のキャリアにはいいらしい。「吟遊」を退会したという記事があって納得した。
「枻(かい)」創刊号平成25年1月1日発行/1000円
あをあをと畦の走れる雪の前 橋本榮治
考へることを止めたり枯葎 雨宮きぬよ
おほいなる肺活量や野分雲 関光義(百磴集巻頭)
ロスタイムのやうに釣瓶落しの日 平野典代(枻集巻頭)
「郭公」創刊号平成25年1月1日発行/1000円
大いなる山に山影去年今年 井上康明
国生みの神の足あと秋の雲 保住敬子(郭公集巻頭)
「舞」第33号平成25年1月10日発行/1000円
寒の雨傘一本を頼みとし 山西雅子
月にちかづくちかづけるまでゆくよ 小川楓子
「WEP俳句通信」第71号平成24年12月14日発行/857円
坊城:磐井さんは何しろボクたちのことが嫌いだから、すぐ何かっていうと、反伝統、という。
星野:愛情のある嫌い方でしょうね。
岸本:ヘーゲルの弁証法ですね。
坊城:結局、磐井さんとしては自分はどのへんゆきたいのだろう。
岸本:磐井さんは「王国」を超越した「法王」になりたいのかな。
坊城:磐井さんって、評論家になるより、俳人になるほうが面白かったんだよね。
星野:それって、俳人じゃないってこと?俳人だと思うよ、俺は。
坊城:まあ、いいよ。当分会わないからいいんだけど(笑)。
星野:読みでがあるよ。
坊城:よく出来ているけれど、磐井さんの主観的に書かれたところが分かりにくいの。
星野:そこがあるんだよね。
岸本:筑紫さんの文章は、文章の句読点の丸のあと、見えない字で「ナーンチャッテ」と書かれていることがときどきありますよ(笑)。
「絵空」創刊号平成24年10月15日発行/500円
「絵空」第2号平成25年1月15日発行/500円
創刊号
白日傘町の抜け道知り尽くし 中田尚子
蛇楽しト音記号になつたれば 山崎祐子
小説は真ん中あたり小鳥来る 茅根知子
虫売のしづかにものを食みにけり 土肥あき子
第2号
福島の福ふつくらと筆はじめ 山崎祐子
先生が歩いてゆきし恵方道 茅根知子
雑炊を吹きくたびれてしまひけり 土肥あき子
何もかも酢橘をかけて誕生日 中田尚子
「ジャム・セッション」創刊号2012年8月20日発行/非売品
「ジャム・セッション」第2号2012年12月28日発行/非売品
いずれにしても、江里自身、確定判決後面会の機会を失った中で、相手の現状をよく掴めない者同士が、打ち合わせなしで行う即興演奏めいたものになる、と言う理由で「ジャム・セッション」と名付けられた。
すでに中川智正の俳句作品は「戦後俳句を読む」の方で触れたのでここには取り上げない。江里とゲスト俳人の作品をあげることにする。
この椎も春を聴くかや顔寄する 江里昭彦
恍惚としている海の虹を消せ
草雲雀頭蓋に蒼き夢茂り 齋藤慎爾
水澄みて<フクシマ>帰るところなし 望月至高
なお、第2号からは中川の「私をとりまく世界について」の連載が始まった。確定死刑囚がどのような情報環境のなかにおかれているかを詳細に伝える。基本的には、我々の想像を絶する極めて厳しい条件下にあるのは間違いない。「交流者」という不思議な言葉がこれら情報環境のキーワードとなっている。外部の情報はもちろん、中川から外部への情報も極めて限られた状況であったという。唯一の例外は、アメリカの軍人がアルカイダのテロ対策に資する目的で情報を集めに来た時で、この時は拘置所側の特別な許可がおりたという。ぞっとする話である。
一方で不思議なのは、このような厳しい状況の中で、その厳しい状況を語る「私をとりまく世界について」が何故公表されているのかである。当然、「検閲」「抹消指導」が行われているわけである。中川が意図しているものと、私がこの雑誌で読むものとはずれているにちがいない。この文章を読みながら、「検閲」「抹消指導」の向こう側にある中川の意志をわれわれは想像しなければならない。
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