2025年11月21日金曜日

【連載】現代評論研究:第18回総論・「遷子を通して戦後俳句史を読む」座談会⑤(仲寒蝉編集) 

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出席者:筑紫磐井、原雅子、中西夕紀、深谷義紀、仲寒蝉(司会)

 

5.家族・家庭と遷子について述べよ。

筑紫は〈全く関心がない〉と言う。

は興味がないと言う。

中西は俳句から見る遷子は〈良き家庭人だった〉と言う。

 

百舌鳴くや妻子に秘する一事なし  (『山国』)

 に明治生まれの潔癖さを読み取り〈この句が遷子の全句の中にあって、家族への愛情表現の最たるもの〉であり〈句の調子としても、気骨ある遷子の高い精神を描いた他の作品と同列に並べられることができるもの〉と評価する。

 次に示すように『雪嶺』の息子を描いた句に親の本音を、娘の結婚の句には〈手放しで喜ぶ良き父の姿〉があり世の父親と変わらないと言う。

 かすむ野に子の落第をはや忘る

帰省子に北窓よりの風青し

秋の苑子を嫁がせし父歩む

 

 横道に逸れるが、その中で2句目の「青し」に注目する。『草枕』の「梅雨めくや人に真青き旅路あり」の〈「真青き」には将来への不安とともに、まっさらな手付かずの美しい未来を思わせるものがある〉と述べ、上の句の〈「風青し」にも青年の前途を祝福するものが含まれている〉と指摘する。それを踏まえて〈遷子の「青」に寄せる清澄な思いは生涯変わらなかったのではないか〉と言う。

 ただ華やぎを添えるものではあっても家族を描いた句は『雪嶺』では傍流。家族を描いたものでは『山河』の死の前後の父を描いたものが良かったと言う。

深谷は〈私的な要素であるため「戦後俳句史」を語るうえでは適さない部分かも知れない〉と断わりつつ〈敢えて言えば戦後の家庭像がありのままに描かれており、遷子の実直な人柄があらわれている〉と述べる。

は『雪嶺』には息子の反抗や受験、娘の結婚を詠んだ句があるが〈内容としては市井の優しい父親の域を出ていない〉と言う。また『山河』にある〈老いた父母を詠んだ句は淡々としており患者を見る目とほとんど変わるところがない〉が、〈母の句の幾つかは彼にとって母は永遠に若く気風のいい存在だったことを示している〉と述べる。

 

5のまとめ

 5人中2人が興味なしと回答している。回答のあった3人に共通していたのは、遷子はよき家庭人、よき父親であったということ。ただ家族を題材にした俳句については中西が『山国』の「百舌鳴くや妻子に秘する一事なし」を評価した他は遷子の句業の脇役的存在との認識であった。個々では中西が『山河』の死の前後の父を描いた句を、仲が母を描いた句を評価している。