2023年7月14日金曜日

救仁郷由美子追悼⑪  筑紫磐井

●LOTUS16号(2010年4月)

日昇り日没す

日入る(おく)黄泉戸喫を食む妻よ

草に触れ山々谷河足裏よ眼

秋空の天使と遊ぶ水子神

風音や堅胎帰還す木漏れ日に

気味悪き赤子や婆か葉で隠す

名付けし名悪魔は我が子座す仏陀

雷神の怒り注ぐ森悲しき雨音

鬼っ子や逃げ一目散にすすきが原

鬼っ子兄は追われ良われて骨直立

もうおっおっおた孤児の歌声谷上る

山呼ぶも岩塞ぐは蛇の道

夢や(なれ)現われまするか野茨よ

全部耕衣要素分解笑い鯰

妻ひとり救えぬなんぞ野菊原

友の死や拾いつづける落椿

ゆらりゆらりはいとの足元花十字

祭は集い顔作りつつ異邦びと

反抗し犯行閃光夏季の海

我皆々嫌って死んだ「永山則夫」

病者嫌者並んだ肩と鐘の盲

泥に座す皮膚くずれる于握れと手

十六()飢餓の希望の即身仏

彼の地の鬼とんぶりひとつ舌にのせ

太陽が染める砂塵や爆撃の村

貧しさも飢えに至らぬ虎落笛

山遠き労働の夕足裏あり

 若勇者へ三句

遼立国(リョウリツコク)花木々風と鳥の歌

瑠璃鳥来開く窓より白き花

春曙光越え行く峰に飛龍在り