2016年10月14日金曜日

【記事抜粋】<「俳句四季」10月号>最近の名句集を探る46 / 前北かおる句集『虹の島』



●<抜粋「俳句四季」10月号>
(「最近の名句集を探る」は4人が毎回3冊の句集を論じ合うものであるが、今回取り上げた座談会では、虚子などの「句日記」のあり方など句集のあり方について集中的に議論しており、珍しい話題であるので該当部分を特に引用した。)



最近の名句集を探る46
齋藤愼爾・稲畑廣太郎・佐藤文香・(司会)筑紫磐井



▼前北かおる句集『虹の島』

筑紫 ・・・最初の句集は前北かおるさんの第二句集『虹の島』(ふらんす堂)です。この句集、全ての句に前書きで目付と詠んだ場所、句会名がついていて、一種の句日記形式となっています。また編集方法がちょっと変わっていまして、「あとがき」を読むと、自選したものを杉原祐之さんに読んでもらってから、自分が教えている慶応志木高校の生徒95名に、1ヶ月かけて1200句を朗読してその中から300句を選んでもらったそうです。つまり、高校生が選んだ句集という事ですね。帯にも「志木高生95人の選ぶ『虹の島』ペスト10」と題して10句が得票数つきで載っています。最高得点は句集名になった「虹の島年に何皮も合歓の咲く」の51票。


佐藤 この前書き制は『ラフマニノフ』によると『虚子五句集』に倣ったそうです。

筑紫 なるほど、そうなんですね。幾つか句を挙げます。・・・「ナイターのゆつくり落つるホームラン」。ありきたりですが、こういう写生句は意味だけではなくて、詠み上げた時の響きや語感も合わせてある風景や雰囲気が生まれてくるような気がします。「水変へて戻す五葉や台所」。「台所」なんていいですね。・・・ ちょっと変わった句では、「夏蝶の殺気を帯ぶる速さかな」。「夏蝶」の形容に「殺気」は珍しいなと思いました。

佐藤 私はこの句集の編集方法にはあまり賛成できません。「あとがき」によると「長女が誕生した」「まことにめでたい」ので「古例に則って、句集を出版することにした」とあります。その後「わが家の幸せの日々の象徴が、夫婦の結婚十周年、両親の結婚三十五周年を祝ったハワイ旅行だ。
この旅を記念して、『虹の島』と題した」とも書いてありました。句集の最初にはお子さんの写真も入っている。更にご自分の生徒さんに句を選ばせていて、こういう方法で作るなら、ご自分の個人的なアルバムでいいのではないか、句集として世に問うものの出し方ではないのではないかな、というのが大きな感想でした。

でも好きな句は幾つかあって、例えば「かまきりを覗く仲間に入れてもらふ」。まだ白分にはかまきりがあんまり見えていないところから始まっているのが面白い。・・・ただ「レインボーレッツエンジョイ夏帽」。こういう句を句集に入れるのはどうなんでしょう。


筑紫 たぶん高校生が選んだんでしょうね。


佐藤 私もそう思いました。


筑紫 前北さんとしては、どんなプロセスを取ろうが結果として出来た俳句を見てもらえればいいという気持なのかもしれませんね。


佐藤 私もプロセスはどうだっていいと思うんです。でもそれをいざ書物として人に見せるということになったときに、そのプロセスについてそこまで自分で言う必要があるのか、そこが疑問でした。できればそのプロセスが見えない方が前北さんの句は生きるんじゃないのかなと思います。


稲畑 この句集の作りは、虚子の『五句集』に拠ったというのは確かにその通りなんてすが、虚子の場合はまず「ホトトギス」に句日記として出していたものから選ぶわけでしょう。句集の見た目としては前北さんと同じだけど、「ホトトギス」に発表したという前提があって初めて句集に生きてくると思うので、そこがちょっと違うと思うんです。

内容はともかく、形式的に何から何まで虚子と同じ事をしようという姿勢を持たれると私としてはちょっと困るところもあります。虚子の俳句や理念を勉強して自分のものにされるのは結構ですが、虚子の咯好まで真似るのはどうかなと思っています。

ただ、この句集、俳句はいいです。・・・「紅にささやきて白冬の薔薇」。これは虚子の「白牡丹といふといへども紆ほのか」を思い出しますが、ちゃんと自分の句になっています。・・・ 磬井さんが採られた「ナイターのゆつくり落つるホームラン」もいいですね。「ゆつくり落つる」という滞空時間の長さで、どこの球場か想像できると思います。(以下略)


齊藤 僕は初めて知る作家だけれども、本井英さんのお弟子さんだというから、本井さんがどんな教え方をしているかということを想像しながら読みました。

いいと思ったのは「光ファイバーのほどけて花芒」。こういう句は僕らアナログ派にはとてもじゃないけれど読めない。まず光ファイバーというのがよくわからない。でも悪くない俳句ということは直感でわかる。日常化した新しい文明の利器を詠み、俳句として成功していると思う。・・・後半からはあまり選べなかった。「秋蝶の骨突き出づる冀かな」くらい。帯の、高校生が選んだベスト10の中では「金環のあらはれそめて三日川」だけは採っています。

ただこの句集は文学とはほど遠いですね。句集の前半には今挙げたように採れる句もあるけど三分の二くらいは採れなかった。


稲畑 これは全部生徒に選ばせたのですかね。

筑紫  「あとがき」にそう書いてはありますね。まあ最終的に句を差し替えたりはしているかもしれないですが。

稲畑  『虚子五句集』の最初から四つ目の句集までは虚子の自選なんです。最後の『七百五十句』だけは虚子の死後に出ているもので、高浜年尾と星野立子の二人が選んでいます。つまり他選の句集なんですが、「ホトトギス」の重鎮の方で、あれは虚子の句集としてはあまり認めたくないと仰る方もいます。他選の句集には難しい点もありますね。

筑紫 賛否は置いて、こういう句集の作り方をする人は他にいないのは問違いないと思います。「ホトトギス」系の若手として前北さんには頑張って欲しいですね。




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