2023年5月26日金曜日

【連載通信】ほたる通信 Ⅲ(34)  ふけとしこ

    タカラヅカ

余花の雨さらさら人を濡らしけり

タカラジェンヌ過ぎ木蓮に残る花

稽古日や雀隠れに雀ゐて

楠の花散る休演日の鉄扉

わが色と決めし牡丹も崩るるよ


     ・・・

 季節外れの話題。同名故に起きたこと。

 ホトケノザとホトケノザ。漢字でも仏の座と仏の座。でも、かたやキク科、かたやシソ科で二種は全く異なる植物である。当然、間違いが起きる。シソ科の草の方は宝蓋草と漢名で書かれることもあるが、そうすると今度は読める人が減る。


 最近、これはまずいのでは……と思ったことがある。

 知らない人から句集を頂いた。表紙に春の七草があしらってあった。優しい色合いの綺麗な絵である。いわゆる〈芹薺御形繁縷仏の座菘蘿蔔これぞ七草〉 なのである。可憐な絵であるが、何か違和感がある。ちょっと待って~となった。〈セリ・ナズナ…〉で始まる春の七草のホトケノザは黄色い花をつける。それが赤紫色の花に描かれている。仏の座がタビラコまたはコオニタビラコ(田平子・小鬼田平子)ではなく三階草(宝蓋草とも)になっていたのである。

 

 是ならば踏んでも来たり佛の座 梅室

という愉快な古句もあるが、タビラコは田面や畦道などに生えて、七草粥に摘まれるとき以外は踏まれているような野草なのである。

 同じ名前を持つ故の間違いではあろうが、それにしても、校正の手順を踏んで出来上がった句集であるだろうに、著者自身も編集担当者も見落としてしまったのだろうか。信じられないことである。その前にこの装画に関わったイラストレーターもこの草を知らなかったということになる。世に出すことの怖さを知ったことであった。

 私は偶々両方の草の名も姿も知っていたから、すぐに分かったのだが、あり得る間違いではある。

 そういえば、かつてこんなことがあった。七草粥用に「七草セット」なるものが正月七日に合わせてスーパー等で売られる。手に取ってみた。何か赤紫の物が見える。え? よく見るとシソ科のホトケノザが入っていた。パッケージには丁寧に七種の草の効能が書いてあり、出荷元の農場の名も書かれていた。

 手に取っただけで終わったし、クレームがあったかどうかも知らない。


 七草は庭にあるからとりに来よ 今瀬剛一

 「対岸」5月号に見かけた句である。

 こんな庭で摘ませて頂いた七草なら間違いはないだろう。羨ましくもある。

 かつて

  仏の座光の粒がきて泊まる としこ

  畦道は昔へ続く仏の座   同

を発表したことがあった。私が季語として使ったのは春の花、シソ科で赤紫の唇形の花を咲かせる方だったのだが、どっちの草を思われるだろう? という思いも少しはあった。俳誌等で鑑賞して下さった方もあったが、書き手により双方に受け取られていて苦笑した。こんな場合ならどちらでも構わないともいえるけれど、新年の季語「春の七草」ときちんと表す場合には黄色い花を咲かせるキク科のタビラコでなければ成立しないのではなかろうか。

        (2023・5)