2013年6月7日金曜日

平成二十五年 歳旦帖(全編) 


















【あ行】

●網野月を(「水明」同人)
時代の所為にしてはいけないごまめ炒る
アメリカンドックにディスペンパック去年今年
愛してるって不思議な言葉薺摘む

●飯田冬眞(「豈」同人)
若水の断末魔聞く指紋かな
 掬ひ損ねる貘の初夢
福寿草宦官の沓滑らかに

●池田澄子(句集『たましいの話』『拝復』他。「豈・船団・面」所属。)
車線変更して新年に入りにけり
太箸の夕べは夜になりたがる
久し振りとは老(ふ)け合つて牡蠣雑炊

●池田瑠那(「澤」同人。俳人協会会員。)
去年今年すばる輝き増しにけり
水巡る地球のけふの初手水
書初の春の払ひの勢【きおい】かな

●上田信治(1961年生れ。「週刊俳句」運営スタッフ)
そこにはない襖の開いて御慶かな
おしぼりが正位置にある福寿草
元日の夜もまないたの白さかな

●内村恭子(「天為」同人)
年用意金銀紅白色絵皿
鳥は風つないで来たり冬木立
そしてまた船は出てゆく大旦

●大井恒行(一九四八年山口県生まれ。句集に『風の銀漢』、著書に『教室でみんなと読みたい俳句85』など。)
歳旦の箸置き幾つ窓秋忌
白き蛇みずうみ渡る幻氷期
非常停止ボタン四度使われ年の暮

●岡村知昭(一九七三年生まれ、「豈」「蛮」「狼」所属)
空腹の僧の饒舌おおみそか
はにかみへあくびで応え鏡餅
セーターを脱いでしまわぬ射的かな

●小川春休(「童子」「澤」)
御降やすこし休みてまた酌むも
這ひ出でて餅食うてまた眠るとは
   西村麒麟の夢の生活とは
初仕事とて文鳥の餌捏て

●小沢麻結(「知音」同人)
日銀短観データを拾ひ初仕事
塔の如枯木あの辺りがリンク
寒紅のなほ揺れてゐる心かな

●小野裕三(「海程」「豆の木」所属)
郵便車平らかに行く七日かな
人の日の婆はひとまず鎮座する
餅花に届く掌ありにけり

【か行】

●北川美美(「豈」「面」)
元朝の庭にさしこむ志
鏡文字映して読まん年賀状
渋滞の橋ゆれつづく二日かな

●北村虻曳(たるにゆ・1978-1993; 北の句会・2003-; 定型短詩集「模型の雲」・2004 冨岡書房; 歌会sora・2005-; 豈・2006-)
掘りあげて棒に絡める蛇の玉
室伏が振り回してもS字型
その始め無に点りたるウロボロス

●栗山心(「都市」所属)
繭玉のやや紅の濃き祇園かな
輪飾や京野菜売る古き店
二日はやマクドナルドに待たさるる

●小林千史
初旅の涙わかれてきしごとく
酔うてゐて声かすかなり七福神
初夢で「きみと話がしたいのだ」

【さ行】

●榮猿丸(「澤」)
嫁が君極楽鳥の餌皿に来
起震車の卓の下なり着ぶくれて
福寿草ひと訪ひくればテレビ消す

●佐川盟子
雪をはく跡にこなゆきふるゆふべ
所作に気をとられていたり初詣
御降や雪は水へと眉の上

●しなだしん(「青山」)
元旦へぶらさげてある束子かな
神のみな目の垂れてゐる宝船
火の中に炎くづれて雪になる

●柴田千晶(「街」)
胡麻油の底に生家の初明り
餅花を背中に挿して叔父来る
葬列の海まで続き冬うらら

●杉山久子(「藍生」「いつき組」)
昇り龍背におどらせて初湯かな
 一気飲みする珈琲牛乳
草の芽のひかりスキップ加速して

●関悦史
   二〇一二年師走の総選挙後なほ
おぞましきポスター満つる初日かな
新年の七時のプロパガンダかな
一ツ目の猫が尿せり初山河

●仙田洋子(「秋」「天為」同人 句集『橋のあなたに』『雲は王冠』『子の翼』『仙田洋子集』、他に『親子で楽しむ こども俳句教室』など)

幼子のよろこびはしる初日かな
初春や地中に眠るものあまた
御降のかくもあまねく秋津島
鏡餅宇宙に燃ゆるものいくつ
幼子のしきりにさはる鏡餅

【た行】

●月野ぽぽな(「海程」同人)
元旦の空ていねいにやぶきます
夕暮れはうすむらさきの手毬唄
初夢にマンハッタンの音まじる

●筑紫磐井(「豈」・俳人協会評議員)
西村麒麟の向こうを張って五句
定年の龍が蛇にと改りぬ
晩年に一寸先の影法師
網の上で笑止と餅がころがるよ
シンプルなライフを嘉しとお正月
幸うすき女と撮(うつ)る年賀状

●津髙里永子(「小熊座」同人)
七種のフリーズドライてふ極み
繭玉の枝を縛りしこと内緒
日脚伸ぶ茶房の壁の遺作展
下半身肥大症気味水仙花
ゴムの木のゴムの葉冴ゆる歯科医院

●外山一機(『鬣TATEGAMI』所属)
 平成二十二年歌会始御製歌
  木漏れ日の光を受けて落ち葉敷く小道の真中草青みたり
児(こ)守(も)れ
霊(ひ)の飛(ひ)花(か)
梨(り)を享(う)けて
御(お)乳(ち)は慈(じ)救(く)
 平成二十三年歌会始御製歌
  五十年の祝ひの年に共に蒔きし白樺の葉に暑き日の射す
夷(い)ぞと
兄(せ)の胆(い)は
妃(ひ)の徒(と)死(し)に
喪(も)に撒(ま)きし
 平成二十四年歌会始御製歌
  津波来し時の岸辺は如何なりしと見下ろす海は青く静まる
頭(づ)並(な)み
腰(こし)解(と)き
乃(の)木(ぎ)氏(し)へ廃(はい)家(か)
躰(なり)仁(ひと)
 平成二十五年歌会始御製歌
  万座毛に昔をしのび巡り行けば彼方恩納岳さやに立ちたり
満座(まんざ)舞(ま)ふ
二夫(にふ)が潮路(しほぢ)の
叫(ひめ)く
流刑(りうけい)は

【な行】

●仲寒蝉(「港」「里」)
つくづくと垢見つめをる初湯かな
読初の栞に古き宝くじ
初山河静止衛星から画像
若冲の象となりたる福笑
死刑ある国に生まれて雑煮餅

●中西夕紀(「都市」主宰)
門松や今は昔の江戸見坂
初空のいづこへ急ぐ伝書鳩
腰掛けてわが足浮けり初山河

●西村麒麟(「古志」)
お雑煮を食べて雑煮を食べにけり
拉麺を欲すれどまだ雑煮あり
お雑煮はそのうち飽きるさう言へず
本当に雑煮の餅は一つで良い
大好きとまでは行かざるお雑煮よ

●野口る理
のど飴の光宿せる御慶かな
妹の伊勢海老を組み立ててゐる
嫌はれず好かれず舌を出し新年

【は行】

●羽村美和子(「豈」「WA」「連衆」同人)
去年今年何もなかったように原子炉
今年の顔どれにしようか福笑い
初明かり鋭角に伸びる未来都市
しなやかに踊るロボット初東風す
破魔矢さす活断層のど真ん中
お降りのビニール傘の親子透け

●原雅子(「梟」同人)
常なるを以て佳かりし御慶かな
隈取りに男をあげし初芝居
ぬか雨や日を経て固き切山椒

●福田葉子(「豈」同人)
遠近の島を夢みて年送る
 兵役もなき国の駅伝
火山湖に神の水湧く淑気かな

●福永法弘(「天為」所属。「石童庵」庵主。)
石童山粛然としてけさの春
雪を催す庵の門松
刻既に鶏はまだまだまどろみて

●藤田踏青(「豈」同人)
見つめ尽くせば巳詰め尽くした自画像となる
逢引の冬の花火と金魚鉢
山は静かに河は激しく受胎する

●堀田季何(「澤」「吟遊」「中部短歌」所属)
神いづれ白骨化する宝舟
どの神も嗤笑してをり宝舟
瓊玉も神も模造品(レプリカ)宝舟
宝舟船頭をらず常(とは)に海
宝舟瓦解しぬふと日の射せば
宝舟すこしはなれて宝船
宝船しろがね積むやくがね尽き
懇ろにウラン運び来宝船
宝船沈めて渦やうすびかる

●堀本吟(昭和17年犬山市生(戦中派)。松山市育ち。生駒市在住。「船団」を経て「豈」同人。「風来」同人。大阪で超ジャンル「北の句会」を存続十年。評論集『霧くらげ何処へ』(1992年。深夜叢書)。句集を出せと言われつづけているのにちっともまとまらない。)

昭和26年天狼賞受賞の津田清子を思い『無方』までの道のりを讃える
歳旦や「天狼」一月号巻頭
晴着は賞の白きセーター
復た往かん砂漠も初日照るならん

【ま行】

●前北かおる(「夏潮」)
去年の雲ほどけて残る御空かな
北斎が富士描く鳰が水尾を引く
四歳の本厄福寿草の毒

●松尾清隆(「松の花」同人)
別冊の付録のやうに粥柱
傀儡女の箱の中より愛別離
別珍を天鵞絨と呼ぶ松の内

●松本てふこ(「童子」同人)
あの星はぎよしや座カペラと除夜詣
炬燵寝の母や身体をねじりつつ
元日やサッカーボールの影長き

●湊圭史
おめでとうを言うと笑いが込み上げる
新年の猫のおでこのルンバかな
ポチ袋からぎゅっぎゅっとにぎる音

●三宅やよい(「船団の会」所属。)
初富士と同じ高さにラブホテル
日が落ちて正月映画回り出す
獅子舞の獅子に噛まれる列につく

●村井康司(「鏡」同人)
媽祖廟の極彩色に初日かな
ぱぱと云はれ馬鹿とも云はれ大旦
せりなづなクミンオレガノ舌に苔

●もてきまり(『らん』同人)
危機無音まこと初蝶申します
虚無といふ賑はひ新春雷門
鬱屈をやや甘く煮て八ッ頭

【や行】

●山崎祐子(「絵空」「りいの」「万象」)
鳴き砂に拾ふ流木二日かな
人日の丸大根を抜きし穴
神の井の碧きより汲み水祝

●山田耕司(「円錐」同人)
黒松や箒に雌も雄もなく
春泥を舟のかたちにして去れり
逢着はたちしよんべんで掘る凍土

●陽美保子(「泉」同人)
初春や菓子の銘なる紫野
 袖の乱せし福笑の目
鳥雲に漁網一枚繕ひて

●依光陽子(「屋根」「クンツァイト」)
道枯れて人揺れてゐる影や影
繪の中へとび込む人や賀状来る
執拗に蜜柑の白を剥く汝よ
安らかに鷹を眠らす木の声は
くちばしの十全にして大旦

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