2023年9月29日金曜日

第37回皐月句会(5月)

投句〆切5/11 (木) 

選句〆切5/21 (日) 


(5点句以上)

9点句

触れゆきてどれも好きな木夏隣(依光陽子)

【評】 〈触れゆきて〉が良いですね。これから躍動してゆく木々の命に触れて〈夏隣〉を実感されたのが、伝わってきます。──飯田冬眞


8点句

筍を焼きをる方が拾得か(仲寒蟬)

【評】 寒山拾得の故事を踏まえている。詳しくは森鴎外の「寒山拾得」参照。とはいえ、寒山拾得でセットになってしまっているため、寒山と拾得それぞれの独自の性格はよくわからない。天台山国清寺の食堂係が拾得、その余りものを貰うのが寒山、これで辛うじてこの句とつながる。しかし、風狂の士であり、寒山は文殊菩薩、拾得は普賢菩薩と謎解きされると全く分からない。いやこの物語に出て来る、豊干、道翹、閭丘胤全員胡散臭い。それを鴎外も面白がっている。こんなフィクションの世界の句なのだ。──筑紫磐井


7点句

朧夜の母は指狐と話す(中村猛虎)

【評】 おかしな後味が残る句だ。そもそも指狐と話せる朧夜限定の母は居る(居た)居ない?そして指狐とはヒト狐どちらの言語で通じ会えるのか?と言う様に、気づけばすっかり術中にはまり、狐に抓ままれているのはこの句に立ち止まった読者。──妹尾健太郎

【評】 お母様はお狐様らしい。葛の葉か・・・。──仲寒蟬


はんざきのまなうら飛行船がくる(望月士郎)

【評】 はんざき、じーっと動かない山椒魚。空への、ゆったり動く飛行船への、あこがれか。イメージの句だが妙にリアリティを感じる。──山本敏倖


ゆふがたの匂ひのしたる潮干狩(依光正樹)

【評】 潮干狩の匂いの表現が面白い。──辻村麻乃


6点句

白玉や褒めるところを探しつつ(西村麒麟)


バナナ剥く無能の王と呼ばれつつ(渡部有紀子)

【評】 こういう王はいいなあ。側近さえしっかりしていれば平和なんだが。──仲寒蟬

【評】 失地王のことではありますまいが、無為の瞬間のようで、好ましいです。──佐藤りえ


5点句

カーネーション童話の中の母に会ふ(近江文代)


下手な歌けふも聴かされ熱帯魚(仲寒蟬)


箱庭やわれに優しき昼の月(堀本吟)


(選評若干)

乳ほる猫口さんかくに風薫る 4点 田中葉月

【評】 「口さんかく」がかわいらしい。仔猫は本当にそんな感じ。──仲寒蟬

【評】 猫を飼いたい。しかし住宅がペット不可なのでYouTubeで猫動画を見て我慢している。特に生まれたばかりの捨て猫を保護する動画がたまらない。はじめは上手くいかなかったのが、哺乳瓶で上手にミルクを飲めるようになった時の口元がまさに「さんかく」。「風薫る」の季題が健やかさを感じさせてぴったり。気持ちのいい句だと思った。──依光陽子


まぐはひの網戸に穴のあいてをり 4点 仙田洋子

【評】 こんな家(連れ込み宿??)はダメでしょう。もともと網戸だから声はダダ洩れだろうが他にもいろいろなものが洩れそう。──仲寒蟬


娘と居りて親を思へりこどもの日 1点 辻村麻乃

【評】 わかる気がします。──渕上信子


御殿場とお台場似たる南風 1点 依光正樹

【評】 いやいや「場」が同じなだけで全然違うだろう。あ、「御(お)」も同じか・・・。──仲寒蟬


海なせる若芝の端の乳母車 1点 平野山斗士

【評】 保育業界ではハギーとかカートと呼ばれるもの。ベビーカーと呼べば一人用だ。上五からの広がりと下五の締まり方。好感が持てる。──依光正樹


混濁の地に届かんと九尺藤 1点 水岩瞳

【評】 藤のうちでも特別な令名ある藤を出すからにはそれを如何に描写するかに、心を砕くことになりましょう。そうして、この上五の表現。納得いたしました。──平野山斗士


おどろいて我を見てゐるあをとかげ 2点 佐藤りえ

【評】 私が蜥蜴を怖がったら、「蜥蜴の方がもっとあなたを怖がっているのよ」と言われた。蜥蜴を見るたびに思い出す。 ──渕上信子


南吹く焼きそばパンを屋上で 4点 飯田冬眞

【評】 読み下して下五の意外性に惹かれました。ビルの屋上を思います。日が溢れ空が広く、南風を直接存分に味わえそうです。 ──小沢麻結


陰険と言はれ走らす夜汽車かな 2点 夏木久

【評】 うっかり読むとシチュエーションがどうも普通じゃない。自転車とか自動車ならまだしも、「汽車」はそんなの恣意的には走らせることはできない。できるのは、JRの人とか交通関係の仕事人たちであろう。しかも、昔「汽車」といわれていたが今では「電車」とか「列車」と呼ばれる。それを承知で、こんな句にした作者は、このすり替え方がまことに陰険なのである。さしずめ、職場で我慢して帰ったサラリーマンや、夫婦喧嘩で言い負かされた男が、夜中にプラモデルの「汽車」を走らせてうっ憤を晴らしている、という情景が目に浮かぶ。それなら、フツーの生活詠だ。が、なんだかすさまじいストレスやエモーションを感じさせるところが気になったし、気にいった。──堀本吟