2019年9月27日金曜日

【抜粋】〈俳句四季10月号〉最近の名句集を探る第64回――齋藤慎爾・今泉康弘・野口る理・司会 筑紫磐井

▼佐藤リえ句集『景色』
筑紫 今回最後の句集は佐藤りえさん『景色』(六花書林)です。
 佐藤さんは昭和48年生まれ。今年46歳の方ですね。もともと短歌を作られていて、歌集も出されていたと思います。「豈」の同人です。
 これが第一句集ですが、詠み方としては、先月から五冊読んできた中でもとりわけ頼りないような、漂うような詠み方で、それが個性なのかもしれません。逆に言うと、先月最初に読んだ人牧さんの句集から比べると、ここまで俳句は変わってきているんだなという気はしました。
 口語だけど旧漢字を使っていたり、定型のきっちりとしたリズムで作っている句はそう多くないので、散文的というのか、短歌の影響も少しあるのかもしれないなと思います。
人間に書けない文字や未草」。よくよく考えると不気味な句のような気がします。
 もうちょっとリアルに不気味なのは「ゴーヤ爆ぜて独居老人留守の家」。これは爆弾だったら人変なことですね。「まだ誰も帰つてこない茸山」。この句は伝統俳句でもありそうな気もしますけれど、欠落感、ちょっと怖いなという感じもあります。
 でもそればかりではなくて、「ここへ来て滝と呼ばれてゐる水よ」。発見と言えば発見かもしれないですね。「生存に許可が要る気がする五月」。なるほど、そういうふうに感じる人もいるのかなと思う句です。
繁殖も繁茂もをかし額の花」。先月号で取りしにげた中嶋鬼谷さんに「西行忌花と死の文字相似たり」という句かおりましたが、こちらは「繁」の字に一字変えるだけで動物から植物へと移っていってしまう、そういう面白さがあります。
 多分これは伝統俳句の句会に出しても大丈夫だと思うんですが「罪よりもわづかにかろき繭を煮る」。あとは「日傘など呉れて優しい男かな」。なかなか正面からこれだけ詠める人はいないのではないかなという気がします。
アントニーからウイルス削除の小鳥来る」。「アントニー」が何だかわからないけど面白い。「バスに乗るイソギンチャクのよい睡り」。これは雰囲気が楽しいですね。
 佐藤さんはこの句集を出したばかりで豆本のような句集も出していまして、この句集からの一部と新しく作った句でまとめて『いるか探偵QPQP』という自家製の句集ですが、テーマは推理小説で、最後に小説がついています。序文がわりの結末のない小説ですね。非常に構成力があり、新しいことを次々にやろうとしている方のようですね。

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