2014年12月26日金曜日

 登頂回望その四十六 / 網野月を

(朝日俳壇平成26年12月14日から)
                          

◆大空の時惜しむごと落葉舞ふ (横浜市)田中靖三
長谷川櫂と大串章の共選である。長谷川櫂の評には「三席。大空を舞う木の葉。あれは悠然と過ぎゆく時を惜しんでいるのだ。」と記されている。
落葉にとって綺羅を飾る最たる時間が枝から離れて地表に着くまでの時間なのである。評には「悠然と」とあるが然程長い時間ではない。むしろ刹那的な時間であろう。作者はその短い時間の、擬人的に言えば落葉の心境に気が付いたのである。桜花ならば良くある表現であり、捉え方かもしれないが落葉ではより少ないだろう。加えて「大空の時」を「惜しむ」のであって、自由を謳歌する様が見えてくる。人の身体には堪えるが落葉の為には少々強めに風が吹いて少しでも長く「大空の時」を「惜し」んで欲しい。

◆日本中口から漏れる寒さかな (長岡京市)寺嶋三郎
稲畑汀子の選である。評には「一句目。寒い冬がやって来た。日本国中の人達が寒さを口にするが、その捉え方が面白い。」と記されている。評の通り面白い表現である。評には「日本国中の人達が」とあるが、「日本国中に」であろうと考える。それぞれの言葉は異なるだろうが、当季の時候の挨拶は文字通り異口同音に寒いことである。今年は十二月と云うのに寒さが日本中に速駆けでやって来た感がある。「口から漏れる」ことばが息白くあることと同じように思われるところがある。


◆動かざる寒さに街の人動き (札幌市)菅原ヤツ子
稲畑汀子の選である。切れの無い句であるが、その中に「動かざる」と「動き」が同居して言葉遊びにもなっている。極寒にも拘らず人々は仕事に所用に奔走している。少なからず人間の悲哀を感じさせるところにただ言葉遊びに止まらない句の奥行きが出ている。

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