2023年4月21日金曜日

ほたる通信 Ⅲ (33)  ふけとしこ

指を丸めて


チョコレート色に吹き出て石榴の芽

舟置いてみたき池の面鳥の恋

青き踏む影が素直についてくる

三月や土竜が指を丸めて死

春帽子フジタの猫が目を逸らす


・・・

「春の大山」

 これがオオヤマとは知らなかった。タイトルを見た時、私は鳥取県のダイセンだと思ったのだ。

 ところが、読んでみると阪神タイガースの4番打者のことだった。大山悠輔という人だそうだ。

 当時小学生5年生の男の子、勿論タイガースファンの彼が書いた詩のタイトルなのだった。

全く知らなかったのだが、ツイッターで大評判になった詩なのだそうだ。


 あったかいし6時だ。

 サンテレビを見よう。

 西のピッチングに、近本のヒット。

 でもこれがいちばん、春の大山。

 ホームランに、ヒット たまにダブルプレー。

 まあまだ春だから。

 春の大山 打つんだ。

    

と続く。2019年に小学校の課題「春」で出来た詩なのだそうだ。申し訳なくも野球に疎い私には(中学・高校の頃は好きだった)大山も西も近本も後の章で登場する岩田、糸井の各選手も分からない。今も阪神に在籍なのかどうかも知らないし。当時の新聞記事によると大山選手は春先にはなかなか調子が上がらないのだとか。だからこの阪神ファンの小学生をして「まあまだ春だから」「打つんだ」と言わせているのだ。あれから4年が経っている。彼は中学生になっているはず。今もきっと阪神ファンだろう。因みにサンテレビというのは神戸市のテレビ局。阪神の試合がある日にはきっちり18時から試合終了まで放送する。見たことがないが、そのはずである。

 昔小さな俳誌の編集を手伝っていた頃、印刷所の主人がまさにトラキチそのものであった。ある時訪ねたら仕事そっちのけでせっせと紙を切っていた。紙吹雪を作っているのだという。今日は早仕舞いして甲子園へ行くのだと張り切っていた。打ったら撒くんや、勝ったら勿論撒くで~! その紙を大きな袋にいくつも作っていた。どうやって持って行くの? いや、呑まへん奴がおるから車出させるんや。おやまあ……掃除する人が大変やわ。迷惑と違うの? ええねん、ええねん、たまのことやから許してもらうんや。滅多に行かれへんねんからな。

 社長でも主人でもなく大将と呼びたい人だった。勝てば祝杯、負ければ自棄酒でシーズン中は何かと大騒ぎしていたのに、あっさり鬼籍へ入ってしまわれた。

 この「春の大山」を読んだらきっと大喜びしただろうに。

 野球選手の名前も少しは覚えた方がいいだろうか。

 あ、大谷さんは知ってます!

(2023・4)