2013年5月10日金曜日

平成二十五年 花鳥篇 第二

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   中西夕紀(「都市」主宰)
蛙にも涙のありて瞬く
内科三番声の良き医師朝桜
パソコンときゆつと消えけり春の闇


   前北かおる(「夏潮」)
さゆらぎの収まるときの雪柳
アネモネや青山フラワーマーケット
軽暖のかたかたと道築く音


   関悦史(「豈」同人)
紳士下着売場に春はTバック
P・K・ディックのレプリカ話すディックの忌
暗黒の平成にして花見人


   田代夏緒
九割の夢は叶はずしやぼん玉
臆病の寄り添ひ合ひて雪柳
花嫁の花はなずなの花のこと


  小野裕三(「海程」「豆の木」所属)
観音堂跡の生活百千鳥
春塵捲く白日に棲む八咫烏
花いくさ宝石商に奇策あり


   三木基史(1974年生まれ。「樫」森田智子に師事。現代俳句協会会員。)
忍音や大杯を裏返す
陵の花橘を持て余す
全山を枕としたり時鳥


   網野月を(「水明」同人)
初花よきっとはじめに散るものよ
背景が気になって仕方無いさくら花
桜散るあなたの返事待ちわびて


   林雅樹(「澤」同人)
狂ひたるヘルダーリンに若葉眩し
新樹精を放つ夜道を行く女
山に逃げ下着泥棒時鳥


       堀本裕樹
海鳥にのみつつぬけや春の宵
首すぢに蛭のやうなる落花かな
惜春の地をひた這へる草鞋虫


    下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
つかまへて花盗人はおばあさん
犬が尾で笑うてくれし春の宵
ララララと木五倍子の花の咲いてゐる


    依光正樹(「クンツァイト」主宰、「屋根」会員)
新しき匂ひの雨に巣鳥かな
春水や音のなき炉が家の中
こでまりに隠れてゐたる雨の蜂
案じたる人も戻りし蓬餅


    依光陽子(「クンツァイト」「屋根」)
道に出て道ををかしむ暮春かな
山桜桃蕩児と呼ばれながら逝く
ひこばえのいづれ真萩の一叢に



    小沢麻結(「知音」)
春の朝友呼ぶ如く女神の名
時止める術のひとつに花の雨
葉桜やその言葉今よみがへる


    飯田冬眞(「豈」同人、「未来図」所属)
リラの花ポニーテールの声ひびく
三鬼忌や懲りずにブーケつかみ取る
花筵夜のほてりを紡ぎあふ
亀鳴くや湯舟に浮かぶ蒙古斑
真夜中に歯を磨くごと春惜しむ


    茅根知子 (「絵空」同人)
夏至の日の空より船の戻りけり
コップから水のあふるる明易し
真昼なり金魚と白い洗面器

    佐川盟子
うすうすと花粉の乾く雨のあと
墜ち昇り墜ち昇りして鳥の恋
夏兆す瑠璃沼にわが影落ちて


    月野ぽぽな(「海程」同人)
白蝶のとても静かな大騒ぎ
またもテロ桜すみずみまで慄え
桜散る犀の眠りの中ほどを


    小久保佳世子(「街」同人)
チューリップムスカリ戸口に松葉杖
鶯や枕の中に耳ひとつ
燕の巣整体院まで三つほど


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