霧に住む
間紙にかすかな裂け目鵙が鳴く
秋蝶の白にまみれてゐる一樹
雨粒の零れんばかり猿茸
木耳の白を育てて霧に住む
百合の実をすくと一本有馬篭
・・・
とても短い。しかもまばら。
わが睫毛のことである。
ある時目蓋が痒くてたまらなくなった。こすってはいけないと思いつつ、我慢できずにこすった。
ばらばらと睫毛が抜けた。両の目共に。広げた本の上に小さな睫毛が次々に落ちた。その後とても違和感があって鏡を見るとほんの数本を残してつるつるになった目蓋があった。気持が悪い。何とも落ち着かない。その内にその残りの数本も抜け落ちてしまった。
え? 私、睫毛が無くなったの? 鏡を見ても指で触ってもつるつるである。睫毛ハゲってことかしら。
つけまつげというのもあるけどねえ、と考えてみたが、それも厭だ。人もそうだけれど、動物たちの睫毛がしきりに思われた。猫でも山羊でも駱駝でもそうだ。あれはみんな眼球を保護しているのだ……。
ということは、私の眼は全くの無防備ということになる。やっぱりゴミや埃が入りやすい。目が気になって外も歩けない。眼鏡をかけるのもうっとおしい。
一年近く経った頃だっただろうか。細い毛が生えてきた。驚いた。
ああ、復活してくれたんだ、と嬉しかった。
ただ、先述の通り、短くて疎らなのだ。無いよりマシ、程度のものである。
知り合いの薬剤師に「薬害じゃないの? 変なクスリでも飲んだんでしょ」とからかわれたが、そんな覚えはないし。
あれからの歳月を、頼りない睫毛のままで暮らしている。
睫毛てふいとも小さき木の葉髪
というどなたかの句があったように思うが……。
やっぱり目蓋を無暗にこすったりするものではない。
(2026・10)