2022年11月25日金曜日

第193号

   次回更新 12/9



 豈65号 発売中! 》刊行案内

 第45回現代俳句講座質疑(13) 》読む

【俳句新空間16号鑑賞】「特集・コロナを生きて」を読む  佐藤りえ 》読む

■令和俳句帖(毎金曜日更新) 》読む

令和四年夏興帖
第一(9/30)早瀬恵子・辻村麻乃・大井恒行・仙田洋子
第二(10/7)池田澄子・加藤知子・杉山久子・坂間恒子・田中葉月
第三(10/14)ふけとしこ・なつはづき・小林かんな・神谷 波
第四(10/21)小沢麻結・小野裕三・曾根 毅・岸本尚毅
第五(10/28)瀬戸優理子・浅沼 璞・関根誠子
第六(11/25)鷲津誠次・木村オサム・青木百舌鳥・望月士郎・浜脇不如帰


■ 俳句評論講座  》目次を読む

■ 第30回皐月句会(10月)[速報] 》読む

■大井恒行の日々彼是 随時更新中! 》読む


俳句新空間第16号 発行 》お求めは実業公報社まで 

■連載

【連載通信】ほたる通信 Ⅲ(28) ふけとしこ 》読む

北川美美俳句全集26 》読む

澤田和弥論集成(第15回) 》読む

【抜粋】〈俳句四季10月号〉俳壇観測237 宗田安正氏の業績——龍太と修司の最大の理解者

筑紫磐井 》読む

英国Haiku便り[in Japan](33) 小野裕三 》読む

句集歌集逍遙 ブックデザインから読み解く今日の歌集/佐藤りえ 》読む

中村猛虎第一句集『紅の挽歌』を読みたい インデックス
25 紅の蒙古斑/岡本 功 》読む

篠崎央子第一句集『火の貌』を読みたい インデックス
17 央子と魚/寺澤 始 》読む

中西夕紀第四句集『くれなゐ』を読みたい インデックス
18 恋心、あるいは執着について/堀切克洋 》読む

渡邊美保第一句集『櫛買ひに』を読みたい インデックス
7 『櫛買ひに』のこと/牛原秀治 》読む

なつはづき第一句集『ぴったりの箱』を読みたい インデックス
18 『ぴったりの箱』論/夏目るんり 》読む

ふけとしこ第5句集『眠たい羊』を読みたい インデックス
11 『眠たい羊』の笑い/小西昭夫 》読む

加藤知子第三句集『たかざれき』を読みたい
2 鑑賞 句集『たかざれき』/藤田踏青 》読む

眞矢ひろみ第一句集『箱庭の夜』を読みたい インデックス
11 鑑賞 眞矢ひろみ句集『箱庭の夜』/池谷洋美 》読む

『永劫の縄梯子』出発点としての零(3)俳句の無限連続 救仁郷由美子 》読む





■Recent entries
葉月第一句集『子音』を読みたい インデックス

佐藤りえ句集『景色』を読みたい インデックス

眠兎第1句集『御意』を読みたい インデックス

麒麟第2句集『鴨』を読みたい インデックス

麻乃第二句集『るん』を読みたい インデックス

前衛から見た子規の覚書/筑紫磐井 インデックス

寒極光・虜囚の詠~シベリア抑留体験者の俳句を読む~㉜ のどか 》読む

およそ日刊俳句新空間 》読む
…(今までの執筆者)竹岡一郎・青山茂根・今泉礼奈・佐藤りえ・依光陽子・黒岩徳将・仮屋賢一・北川美美・大塚凱・宮﨑莉々香・柳本々々・渡邉美保 …
11月の執筆者(渡邉美保)

俳句新空間を読む 》読む
…(主な執筆者)小野裕三・もてきまり・大塚凱・網野月を・前北かおる・東影喜子




筑紫磐井著『女帝たちの万葉集』(角川学芸出版)

新元号「令和」の典拠となった『萬葉集』。その成立に貢献した斉明・持統・元明・元正の4人の女帝、「春山の〈萬〉花の艶と秋山の千〈葉〉の彩を競へ」の天智天皇の詔を受けた額田王等の秘話を満載する、俳人初めての万葉集研究。平成22年刊/2,190円。お求めの際は、筆者までご連絡ください。 

北川美美俳句全集26 

  「豈」65号で、「特集・北川美美全句集」を組み、美美の俳句作品587句と回想・鑑賞5編を掲載した。昨年の三橋敏雄句集を論じた『「真神」考』の刊行に続き北川美美の資料がほぼ完備したことになる。

 blogのシリーズでは北川美美全句集編纂のために資料を掲載してみたのだが、所期の目標をほぼ達成できた。これからは2冊の本に漏れた資料や、人間北川美美を浮き彫りにするような資料を載せてみたいと思う。

 以下は、そのひとつとして、皐月句会の投稿作品を掲げる。立ち上げから亡くなるまでのわずかな期間の投稿であるが、美美が人生の最後に力を込めて運営した句会であり、思い出深いものがある。すべてコロナ流行中の期間の句である。

 

●皐月句会(デモンストレーション(0回)~第9回)[2020.4~2021.1]


都市部より人病んでゐる花のころ

世界中死の予感して四月来る


鶯や昨日の庭に手を入れて

囀りやたしかに空の空は空


文字投げて葭簀に戻る文字うつり

金玉糖いつか見て来し地平線


にごりえの男女生涯裸なり

冷し珈琲森の小さな美術館


ひろしまの遺品とならむサンドレス

物かげに生死のさかひ原爆忌


はつあきの白くかがやくひざ頭

黎巴嫩ベイルート煙のごとし秋の暮


JFK忌後部座席の物をとる

ありとある脚長くなる長夜かな


大根の永久の白さや入歯は金

半月はにわりや酸性の湯をくぐらせて


北へ行く紺屋の煙低くあり

本閉ぢて眼を閉ぢてゐる安寧に


鉢合わせの去年の御慶も誰も来ず

手鞠歌肉屋の娘は二九じゅうはちに


ほたる通信 Ⅲ(28)  ふけとしこ

       捩れる度に

紅葉や蹄の跡に溜まる雨

鰯雲救急搬送口が開き

唐辛子捩れる度に辛くなる

ドラキュラの欲しがりさうな冬林檎

冬麗や斑模様の虫の翅


・・・

 某月某日。句会の場。

「昆虫食の自動販売機があったわ」

「え? どこに?」

「すぐそこ、橋の所」

 帰り道皆でぞろぞろと見に行った。

「ウワッ!」

 販売機にはもろ昆虫達の絵が描かれていて〈サプライズお土産にいかがですか〉との大書も。

「ちょっとリアル過ぎない?」

「全くねえ」

「誰か買ってみる?」

「ワタクシ遠慮させていただきますわ」

 ということでその場を離れたのだった。

 昆虫食のことをよく聞くようになった。遠くない未来、食糧難の日々がやってくる。そうなれば昆虫も食糧として重要になってくる。いわゆるゲテモノ食いではなく、切実なこととして、ということである。

 しかし、考えてみれば

  ざざむしの佃煮ついに届きたる  山尾玉藻

  ざわざわと蝗の袋盛上がる    矢島渚男

のように句にも詠まれているし、歳時記にも記載されている。

 この例のようにザザムシやイナゴが有名で、昔から、焼いたり煎ったり佃煮にしたりして食べられてきたのである。

 どこかのお年寄りのグループが、蜂の子を捕りに行くのだと準備をしているのをテレビで見たこともあった。この時の蜂の子はクロスズメバチの幼虫のことで、アシナガバチなどとは大きさが違う、旨いし食べ応えもあると皆張り切っていた。土中にある蜂の巣を引き出して幼虫を掴みだしていた。何しろ相手は蜂である。編集の後に流される映像を観ている方は気楽なものだが、取材陣はさぞかし戦々恐々、大変だっただろうと、少々同情もした。

 昆虫食とは成虫のみならず、幼虫も含めてのことであろう。今は専ら珍味としての扱いだが、かつては食料として採っていたのが本当のところだと思う。

 過去にそうだったように、人も獣も飢えで死ぬ思いをしていれば、草だろうが木だろうが茸だろうが、食べられそうなものは片っ端から食べるだろう。

 そんな日が近いのだろうか。

(2022・11)


澤田和弥論集成(第15回)続・新酒讃歌

 続・新酒讃歌

澤田和弥  

 新酒のことを「今年酒」とも言う。今年できた酒だから今年酒。確かに。今年できたばかりの酒には旨い肴を合わせたい。新人さんにはご祝儀をはずむのが筋というものだろう。まあ、結局はどちらも私の胃に入るのだが。

 酒屋から「新酒、入りましたよ」と一声。

  まづ夫と口もとゆるび今年酒  森谷美恵子

 夫婦揃っての酒飲み。共通の趣味があるのはよいこと。「ゆるび」がいかにも酒飲みを表している。ゆるりゆるりと味わいながら、話に花も咲き。仲良きことは美しき哉。読んでいるこちらも嬉しくなる。酒飲みであればなおのこと。

 さて肴は。

  今年酒鯖もほどよくしまりけり  片山鶏頭子

 〆鯖。最高である。青魚は全くダメという方もいらっしゃるが、好きな方はとことん好き。好みが極端にわかれる。私は「とことん」の方。しまりすぎては酸っぱいうえ、身も固くなる。「ほどよく」。それがよい。山葵醤油で口中に投ずれば、ふわりと広がる味と香り。脂が佳い。にくづきに「旨」と書いて、脂。旨さは脂の旨さ。肉も魚も同じこと。ここへ新酒をクイと一口。辛口がよい。脂をスッと流せば、また一口欲しくなる。秋鯖と新酒。絶品の組み合わせ。焼いてもよいし、味噌煮にしても。心地良い秋風を頬に感じつつ、名月の下でゆったりとした時間を堪能したい。そう。したい。したい、のである。

  甘海老のとろりとあまき今年酒  片山鶏頭子

 同じ作者が今度は甘海老。せっかく、秋鯖をなんとか我慢したのに、今度は甘海老だなんて、なんとご無体な。したい、じゃなくて、する。秋になったら絶対に堪能するの。もう決めた。〆鯖と甘海老を肴に、新酒をがぶがぶ呑んじゃうから。おっと。失礼しました。噛んだ途端にとろりと口の中に広がる甘さ。あの濃厚なとろりへ新酒をキッと一口。絶妙の味覚。舌も頭も大喜び。〆鯖の酸いと甘海老の甘み。それらを包み込む酒の懐の深さ。たまらぬ美味。嗚呼、ほんとたまんない。

  よく飲まば価はとらじ今年酒  太祇

 ぐいぐいとたらふく。しかも「旨い」「絶品」と褒めちぎれば、お勘定は要らないってことになるんじゃないか。確かに新酒はめでたいもの。祝儀ということで。とはならないのが現実。学生時代、バイト先の居酒屋にて。この頃たびたびいらっしゃるお客さんから「学生は飲みたくても金がなかろう。私が出すから好きなだけ飲みなさい」とのこと。ありがたく、冷酒を一升半ほどいただいた。大満足。

「ごちそうさまでした」

「三千円」

「え」

「三千円よこせ」

 タダ酒なんて、そんなうまい話はない。三千円で一升半飲めたのだから、勿論充分過ぎるくらいなのだが。今、そんなに飲んだら、帰りはタクシーではなく救急車、自宅ではなく病床へレッツゴーとなるだろう。若いとは恐い。もうお会いすることはないであろう、そのお客さんの方がヒヤヒヤしていたに違いないのだが。

  馥郁と流人の島の今年酒  鳥居おさむ

 飲み過ぎの罪により私が流された訳ではない。「流人の島」というと佐渡か、それとも隠岐か。その島の今年の酒が馥郁と香る。流人というと歌舞伎の「俊寛」を思い出す。九世松本幸四郎の俊寛があまりにも壮絶で我も忘れて見入った。歌舞伎を鑑賞しつつ、その馥郁たる新酒をちびりちびりとやりながら。両隣には和服の美女。嗚呼、なんという絵空事。空しくなってきた。「酒だ、酒だ」とでも言いたくなるのは、こういうときか。しっかりとただいま体験させていただいた。

  新酒汲みとどのつまりは艶話  片山依子

 いや、その。確かに「両隣には和服の美女」と妄りな想像をしましたがね。とはいえ、老若男女問わず、酔えば好いた惚れたの艶っぽい話になる。艶のある話ならばまだよいが、下世話なエロ話、所謂下ネタとなると辟易する方も多かろう。私は酔うとそういう話をする、らしい。意識も記憶もないが、周囲はそのように言う。それも露骨な下ネタだ。と周囲は言う。おそらく意識も記憶も「これを残してはなるまい」と自己防衛策を打ったのだろう。  あ。下ネタを言っている前提で話を進めてしまった。間違えた。いや、間違えているのは私の人生ではなく、話の方だ。濡れ衣の可能性は捨てない。絶対に捨ててなるものか。録音装置を酒席に持ってこられたことがある。たらふく飲んだ。録音されていたのは周囲のおしゃべりと私とおぼしき高いびきだけであった。下ネタは皆無。おそらく、自己防衛策の一環なのであろう。

 なんだか「私は下衆です」と懺悔しているような気がする。雰囲気をかえよう。

  胸中の父をよごさず今年酒  岩永佐保

 胸の内に映す亡き父の姿。お酒の好きな人だった。それで母や私を悲しませたこともあった。しかし、それはもう、よい。今、胸の中の父は凛々しく、逞しく、精悍な姿である。何ぴともよごすことはできない。父の愛した酒を、今年の酒を、献杯。澄みわたるその一杯が美しい。

 それぞれの年に、それぞれの今年の酒がある。十人十色、さまざまな思いが人にはある。それでも口にふくんだ旨み、感動はみな同じ。今年の酒を、今この瞬間の己れの胸の内をしみじみと味わいたい。

  とつくんとあととくとくと今年酒  鷹羽狩行


第30回皐月句会(10月)[速報]

投句〆切10/11 (火) 

選句〆切10/21 (金) 


(5点句以上)

11点句

霧の駅ひとりのみんな降りて霧(望月士郎)

【評】怖ろしいことがすんなり書かれている気配。円環構造エンドレスのこの句世界に注がれる視線はどこからのものだろう。列車はもう行ってしまったのか?次の世の霧の駅めざして。──妹尾健太郎

【評】 みんないるんだけど、それぞれがひとり。孤独を霧がつつむ。──仙田洋子

【評】 降りた乗客はみな連れのないひとり客だった…ということでしょうか。霧の中に消えていってしまったような、不思議な句です。──佐藤りえ

【評】 季重なりが面白い。──依光正樹


10点句

東映のやうな波来る野分かな(内村恭子)

【評】 あの映画の始まる前の映像が思い浮かぶ。──仲寒蟬


7点句

月のやや欠け蛸焼きを裏返す(篠崎央子)

【評】 やや欠けているのは月であろうが、たこ焼きも少し歪だったのかも知れない。「やや欠け」が前後のコトバそれぞれに係る読み心地が面白い。──辻村麻乃


蘂といふ字をそのままに曼珠沙華(仲寒蟬)

【評】 写生の深度を、文字から曼珠沙華まで精確に突き詰め、さりげなく凝視、観察。作者の鋭利な感性を具象化している。──山本敏倖


5点句

書庫の灯をたぐりたぐりて秋の蜘蛛(渡部有紀子)

【評】 〈燈火親し〉の季語を変奏してみせた、といった処にて、古びた部屋の埃が読者にまで届いて来そうな趣があります。──平野山斗士


山ぶどう酸つぱし地図のたたみ皺 (飯田冬眞)


そらいろの空箱かさねゆく秋思(望月士郎)

【評】 やや甘いかもしれないが、青春の憂愁を感じる。人間というものは、子ども時代を追い出されると、常にどこかで愁いを感じる存在。──仙田洋子

【評】 空箱と感じが重なるので敢えて空色を「そらいろ」とした芸の細かさ。──仲寒蟬

【評】 言葉の方向は空から心へ、視線は心から空へ。視界も心象も「そらいろ」で、このネガティブでない「秋思」は絵本のようで好きな世界。──依光陽子


(選評若干)

団欒や秋刀魚くひぞめくひじまひ 4点 千寿関屋

【評】 「くひぞめ」「くひじまひ」という畳み掛けが面白い。秋刀魚はもうかつてのような庶民の食べ物ではなく高級魚になりつつあるから。──仲寒蟬


私を断崖と呼べ 野分と呼べ 3点 筑紫磐井

【評】 強靱な言葉。作者がわかるのが楽しみ。私の中では特選扱い。──仙田洋子

【評】 その自意識過剰に思わず笑った。──渕上信子


団欒といふ嘘されど秋ともし 4点 真矢ひろみ

【評】 「されど」ですね。──仙田洋子

【評】 小津安二郎の映画というのは夫婦と娘、父と娘の団欒を描いているようだが、善意又は無意識のウソがそこかしこに見えている。意識して目を凝らさないと見えてこないが、これが小津映画の見方のように思える。

「晩春」「麦秋」という季語が配されるのもいい。──筑紫磐井

【評】 「嘘」という決め付けにドキッとする。春燈なら団欒、でも嘘なので秋灯し。──仲寒蟬


スマッシュの大きくアウト秋の暮 1点 仙田洋子

【評】 実は、散歩の途中でそんなテニスボールを1個、失敬してしまいました。──渕上信子


大八車ごと声遠ざかる螽斯 2点 妹尾健太郎

【評】 大八車に草や藁が乗せられていてその中に螽斯が紛れ込んでいるのね。──仲寒蟬


ラブドールの中に骨あり曼珠沙華 1点 中村猛虎

【評】 近年ではかなり精巧に作られているラブドール。シリコンに覆われた柔らかい肌の奥には骨まで再現されているのだろう。使い古したラブドールが痩せてしまい、萎んだ曼珠沙華のようになったのか。──篠崎央子


想ひ出は嘘かもしれず秋の雲 3点 渕上信子

【評】 上五中七から不意打ちを食らったような感覚を得ます。下五の季題でそうかもしれないと納得させられました。──小沢麻結


のうみそにすだちをかけてつまみにす 3点 山本敏倖

【評】 今回投句を忘れてしまってご免なさい。これは、人間の感情や思考って、自分で自分を食べるわざおぎ、だと見做すとなんだか怖い句ですね。──堀本吟