2023年11月24日金曜日

第215号

           次回更新 12/8


【告知】澤好摩を偲ぶ会 》読む

豈66号発行! 》読む

■令和俳句帖(毎金曜日更新) 》読む

令和五年夏興帖
第一(10/13)仲寒蟬・辻村麻乃・仙田洋子
第二(10/21)坂間恒子・杉山久子
第三(10/27)竹岡一郎・木村オサム・ふけとしこ・山本敏倖
第四(11/3)岸本尚毅・小林かんな・瀬戸優理子
第五(11/10)神谷波・松下カロ・加藤知子
第六(11/17)小沢麻結・浅沼 璞・望月士郎・曾根 毅

■ 俳句評論講座  》目次を読む

■ 第40回皐月句会(8月)[速報] 》読む

■大井恒行の日々彼是 随時更新中!※URL変更 》読む

俳句新空間第18号 発行※NEW!

■連載

【抜粋】〈俳句四季10月号〉俳壇観測249 前衛の軌跡と終焉——澤好摩と岸本マチ子(後編)

筑紫磐井 》読む

【連載通信】ほたる通信 Ⅲ(40) ふけとしこ 》読む

【渡部有紀子句集『山羊の乳』を読みたい】⑮ 各章から 大西朋 》読む
インデックス

英国Haiku便り[in Japan](41) 小野裕三 》読む

【連載】大関博美『極限状況を刻む俳句 ソ連抑留者・満州引揚げ者の証言に学ぶ』を読む⑤ 》読む

句集歌集逍遙 岡田由季句集『中くらゐの町』/佐藤りえ 》読む

【豊里友行句集『母よ』を読みたい】② 豊里友行句集『母よ』書評 石原昌光 》読む

北川美美俳句全集32 》読む

澤田和弥論集成(第16回) 》読む




■Recent entries

中村猛虎第一句集『紅の挽歌』を読みたい インデックス

篠崎央子第一句集『火の貌』を読みたい インデックス

中西夕紀第四句集『くれなゐ』を読みたい インデックス

渡邊美保第一句集『櫛買ひに』を読みたい インデックス

なつはづき第一句集『ぴったりの箱』を読みたい インデックス

ふけとしこ第5句集『眠たい羊』を読みたい インデックス

加藤知子第三句集『たかざれき』を読みたい

眞矢ひろみ第一句集『箱庭の夜』を読みたい インデックス

葉月第一句集『子音』を読みたい インデックス

佐藤りえ句集『景色』を読みたい インデックス

眠兎第1句集『御意』を読みたい インデックス

麒麟第2句集『鴨』を読みたい インデックス

麻乃第二句集『るん』を読みたい インデックス

前衛から見た子規の覚書/筑紫磐井 インデックス

寒極光・虜囚の詠~シベリア抑留体験者の俳句を読む~㉜ のどか 》読む

およそ日刊俳句新空間 》読む
…(今までの執筆者)竹岡一郎・青山茂根・今泉礼奈・佐藤りえ・依光陽子・黒岩徳将・仮屋賢一・北川美美・大塚凱・宮﨑莉々香・柳本々々・渡邉美保 …
10月の執筆者(渡邉美保)

俳句新空間を読む 》読む
…(主な執筆者)小野裕三・もてきまり・大塚凱・網野月を・前北かおる・東影喜子




筑紫磐井著『女帝たちの万葉集』(角川学芸出版)

新元号「令和」の典拠となった『萬葉集』。その成立に貢献した斉明・持統・元明・元正の4人の女帝、「春山の〈萬〉花の艶と秋山の千〈葉〉の彩を競へ」の天智天皇の詔を受けた額田王等の秘話を満載する、俳人初めての万葉集研究。平成22年刊/2,190円。お求めの際は、筆者までご連絡ください。 

【抜粋】〈俳句四季10月号〉俳壇観測249 前衛の軌跡と終焉——澤好摩と岸本マチ子  筑紫磐井

 (前略)

岸本マチ子と沖縄

 澤氏に引き続くように、沖縄の俳人岸本マチ子が7月29日亡くなった。88歳であった。「形象」「天籟通信」「海程」「頂点」「豈」に所属し、「WA」を創刊した。句集に『一角獣』『残波岬』『ジャックナイフ』『うりずん』『縄文地帯』『曼殊沙華』『通りゃんせ』『鶏頭』があり現代俳句協会賞を受賞している。

 しかし岸本氏は普通の俳人と違った怒涛のような生涯を送っている。もともと群馬県伊勢崎市の織元の娘として生まれたが、親の希望で7歳まで男の子として育てられたという。戦中は伊勢崎の空襲で被災、玉音放送も聞いたという。戦後、中央大学に入学し、フェンシングで関東学生選手権に優勝、文武両道の人だった。卒業を控え、沖縄出身の同級生と結婚、学割(!)で沖縄に渡航するが軍政時代から民政府時代の混乱に遭遇。後に琉球放送に入社、退職後フリーのアナウンサーと同時に雑貨卸業を続ける。この間ベトナム戦争、コザ騒動、沖縄日本復帰を経験。『与那国幻歌』『コザ 中の町ブルース』をはじめ多くの詩集を出し、山之口獏賞、小熊秀雄賞、地球賞等を受賞。評伝『海の旅――篠原鳳作の遠景』『吉岡禅寺洞の軌跡』があり、また晩年は沖縄県現代俳句協会編『沖縄歳時記』を中心となって刊行した。生涯沖縄にこだわり続けた作家であった。

 岸本氏の詩の代表作「サシバ」(サシバは春から日本に渡来する鷹の一種で長距離に亘る移動を行う。絶滅危惧種となっている)の中で書いている「あざやかに生きることも/あざやかな女になることもやめた女は/今胸の中に一羽のサシバを飼っている」は岸本マチ子そのものを描いているような気がする。


鞭のごと女しなえり春の雷     『一角獣』

尾をたらす首里正殿の夏木霊    『うりずん』

渺々と大鷲が飛ぶ雲がとぶ     『縄文地帯』

曼殊沙華ふところに咲くテロの街  『曼殊沙華』

かつて色町とくにかげろうひじり橋 『通りゃんせ』

白萩ゆれ夢の中までどどどと兵   『鶏頭』


【渡部有紀子句集『山羊の乳』を読みたい】⑮ 各章から 大西朋

 渡部有紀子俳句の魅力は何といっても句材の幅広さ、語感の端々から感じることのできる、知性と品性のバランスのよさだろう。そして対象物に迫るひたむきさ、何事も真摯に受け止め、取り組む姿勢は、句会を共にして常々感じ入るところである。芯の通った硬派な一集である。一章から一句ずつ取り上げ鑑賞する。


黒曜石

春霙イエスの若き土不踏

 イエス像に見る風貌は老成し達観しているような面持ちだが、よくよく考えてみれば若いのである。ほっそりとした肢体の先の土不踏。春のまだ寒い日、その土不踏を霙が溶けて滑り落ちていく様は切ない。


神の名

立春大吉ピザを大きく切り分けて

 焼き立てのピザを思う存分食べたい分だけ切り分ける。そしてふと熱々のピザを頬張りながらふと今日は立春だと気づく。日々の中にある幸せが立春を「立春大吉」としたことでより豊かに伝わってくる。


ディアナの弓

移されて金魚吐きたる泡一つ

 水槽を洗うために一時的に金魚をバケツなどに移したのか、もしくは金魚掬いで袋に移されたのか。ともかくその金魚が泡を一つ吐いた。何とも心細さを感じる「泡一つ」。泡は金魚のため息かも知れない。


師のなき椅子

朝焼や桶の底打つ山羊の乳

 朝早くから絞る山羊の乳。牛の乳ではなく「山羊の乳」に山暮らしの野趣を感じる。そして勢いよく桶の底を打つ乳の音に五感が刺激され、人も自然もしっかりと目覚めてゆくようだ。朝焼けの中を運ぶ山羊の乳が旨そうである。


王の木乃伊

黄金虫落ち一粒の夜がある

 夜になると門灯や軒の灯にばちばちとぶつかってくる黄金虫。そしてぶつかっては落ちて仰向けになり、必死にもがいている。虚子に「金亀虫擲つ闇の深さかな」という句がある。虚子は大いなる闇の深さへ消えてゆく金亀虫を描いているが、この句は眼前の黄金虫をクローズアップすることで、そこから夜の闇がぽつんと足元に現れるような詩情がある。黄金虫だからこそ、「一粒」という措辞が効いているのだ。

 有紀子ワールドの旅を終えて、またここに来ようと思う、そんな読後感が心地よい。



プロフィール
大西朋
1972年生まれ。
鷹・晨同人。俳人協会幹事。


【告知】豈66号刊!

●第8回攝津幸彦記念賞

准賞 「藍をくる」         斎藤 秀雄

   「むやみにひらく」         川崎 果連

選評 なつはづき・羽村美和子・大井恒行・筑紫磐井


●特集Ⅰ・救仁郷由美子全句集 

救仁郷由美子全句集 

解説・救仁郷由美子全句集       筑紫磐井


●特集Ⅱ・私の雑誌

『We』はうぃ。っと楽しもう。     加藤知子

「頂点」59年の終焉録          川名つぎお

「川柳スパイラル」の現在        小池正博

生存報告系個人誌「九重」の真実     佐藤りえ

書き続ける装置としての「俳句新空間」  佐藤りえ

「五七五」という場           高橋修宏

「ペガサス」多様な個性と俳句観に導かれ 羽村美和子

川柳誌「晴」ピーカンの日に       樋口由紀子

小さい句誌の小さい歴史         干場達矢

「しょっちゅう躓いている」       森須 蘭

紫ものがたり              山崎十生

わが「山河」のルーツとその変遷     山本敏倖

「奄美の俳句を考える」         大橋愛由等


●句集・俳書評

寺山修司来るー藤原龍一郎『寺山修司の百首』      樋口由紀子 

語り部としての一脈を担うー川名つぎお『焉』      山本敏倖 

託宣のごとく、宣戦布告のごとくー井口時男『その前夜』 江里昭彦 

学び敬い語り継ぐ一書―池田澄子『三橋敏雄の百句』   太田かほり 

カーテンコールは金銀砂子―秦夕美『雲』        佐藤りえ 

The Sleep of Reason Produces Monsters―小池正博『海亀のテント』  中山奈々 

諧謔の花―佐藤りえ『良い闇や』            岡田幸生 


●第64号作品評他

領域の自由              羽村美和子

詩は何処から生まれるのか       野木まりお 

特別寄稿 脳幹は全能の神もがり笛   わたなべ柊


●作品 55名


************************

募集! 第9回攝津幸彦記念賞


●内容

 未発表作品30句(川柳・自由律・多行句も可)

●締め切り 令和6年5月末日

●書式

応募は郵便に限り、封筒に「攝津幸彦記念賞応募」と記し、原稿(A4原稿用紙)には氏名・年齢・住所・電話番号を明記してください(原稿は返却しません)。

●選考委員 未定

●発表 「豈」67号

●送付先

〒183-0052 府中市新町2-9-40 大井恒行宛


【連載通信】ほたる通信 Ⅲ(40)  ふけとしこ

   銀河を

土蜘蛛が糸を放てば秋暮るる

複写紙に足らぬ筆圧文化の日

戦車傾く銀河を渡り損ねしか

南瓜叩く魔女だつた日は無かつたが

黒牛の背に乗るもの狐火も

・・・

「大丈夫ですか」

若い女性の声がした。

ああ、綺麗な人だな。

「頭打たなかったか?」

今度は男性の声。

「救急車が来るからね」

これも男性の声。

吟行の帰り、梅田の地下街の雑踏の中だった。

一瞬頭に靄がかかったような気がした。脚に力が入らない。そのまま寝るような姿勢で倒れ込んでしまった。膝から崩れるというけれど、こういうのをいうのかしら。馬鹿なことを考えていた。

救急隊のお兄さん、

「はい、着いたよ。もう大丈夫だからね」

「名前言える?」

「生年月日は?」昭和が出てこない。西暦で何とかクリアー。

「今日何日か分かる?」出てこない。「えーと、えっと……14日かな」「惜しい! 15日や」流石、大阪の救急隊員だなと、内心ちょっとニヤリ。この時はまだ意識があった。

病院へ着いたのは覚えていない。

検査も色々されたようで、採血とか心電図とかの名残りのようなベタベタやネトネトが腕や胸に残っていた。

気が付いたら、「コロナ陽性。帰宅させても大丈夫だろう」という声が聞こえた。しばらく休んだ後、事務の人がタクシーを呼んでくれた。

そこからまた記憶が無い。タクシー代はちゃんと払ったらしく、釣銭らしい札や小銭がリュックにバラバラと入っていた。

帰宅後、全身の疼痛が始まった。コートだけは脱いだが着替えができない、ベッドへ上がれない。助けようと出される手が触れただけで痛い。水も飲めない。そのまま床で眠り込んでしまった。

3日後には熱もさがり、6日が経つと、全身の不愉快にして強烈な痛みも落ち着いてきた。鼻水と軽い咳は未だ残っているけれど、少し食べられるようにもなった。

ワクチンを打っていてもこの有様である。重症だった人たちはどれだけ苦しかったことだろう。

この度は多くの人たちのお世話になった。有難うございました。

(2023・11)

2023年11月10日金曜日

第214号

            次回更新 11/24


【告知】澤好摩を偲ぶ会 》読む

第 179 回現代俳句協会青年部勉強会「「新興俳句」の現在と未来」 》読む

■令和俳句帖(毎金曜日更新) 》読む

令和五年夏興帖
第一(10/13)仲寒蟬・辻村麻乃・仙田洋子
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第五(11/10)神谷波・松下カロ・加藤知子

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寒極光・虜囚の詠~シベリア抑留体験者の俳句を読む~㉜ のどか 》読む

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…(今までの執筆者)竹岡一郎・青山茂根・今泉礼奈・佐藤りえ・依光陽子・黒岩徳将・仮屋賢一・北川美美・大塚凱・宮﨑莉々香・柳本々々・渡邉美保 …
10月の執筆者(渡邉美保)

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…(主な執筆者)小野裕三・もてきまり・大塚凱・網野月を・前北かおる・東影喜子




筑紫磐井著『女帝たちの万葉集』(角川学芸出版)

新元号「令和」の典拠となった『萬葉集』。その成立に貢献した斉明・持統・元明・元正の4人の女帝、「春山の〈萬〉花の艶と秋山の千〈葉〉の彩を競へ」の天智天皇の詔を受けた額田王等の秘話を満載する、俳人初めての万葉集研究。平成22年刊/2,190円。お求めの際は、筆者までご連絡ください。 

【抜粋】〈俳句四季10月号〉俳壇観測249 前衛の軌跡と終焉——澤好摩と岸本マチ子  筑紫磐井

(今回は1回飛ばして、249号を紹介する。別に澤好摩追悼記事を掲載するためである。)

澤好摩と前衛論争

 澤好摩氏が7月7日に亡くなった。東北への旅行の途次に遭遇した事故によるものであり、七九歳はまだまだ活躍が期待される年齢であった。

 略歴によれば、昭和19年東京生まれ。38年に東洋大学の俳句研究会に入り、「いたどり」「青玄」「草苑」に所属、昭和44年に坪内稔典、攝津幸彦らと同人誌「日時計」を創刊した。昭和46年に「俳句評論」に同人参加し、高柳重信に師事。高柳重信編集の総合誌「俳句研究」の編集事務に長く携わる。重信没後、昭和60年「俳句研究」が角川書店系の富士見書房に転売後、伝説の名雑誌「俳句空間」(書肆麒麟)を創刊する(5号で終了。その後大井恒行の弘栄堂書店に発行を譲っている)。句集には『最後の走者』『印象』『風影』『光源』『返照』があり、『光源』では芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。その他に『高柳重信の一〇〇句を読む』がある。

 私が澤氏と知り合ったのは、攝津幸彦や大井恒行と「豈」の活動に参加してからだった。従ってそれ以前の澤氏のことは攝津幸彦から聞き伝えるところが多かった。しかし、それはまさにいわゆる前衛派の若手作家たちの大爆発であり、その中心に常に澤氏がいたのだった。前述の同人誌「日時計」はやがて、澤好摩の「天敵」、大本義幸・坪内稔典・攝津幸彦の「黄金海岸」に分かれ、さらに「天敵」は「未定」に、「黄金海岸」は攝津幸彦の「豈」と坪内稔典の「現代俳句」となった。特に「未定」は澤好摩、夏石番矢、池田澄子、糸大八、今泉康弘、宇多喜代子、江里昭彦、志賀康、高橋龍、高原耕治、高屋窓秋、豊口陽子、仁平勝、林桂、山田耕司という錚々たる顔ぶれを擁していた(「未定」は2016年に終刊している)。同人誌によりこうした顔ぶれをそろえたことこそ、澤氏の戦後俳壇における大きな貢献であったと思う。ただ澤好摩自身はその後「未定」から離れ、1991年「円錐」を創刊した。近く創刊一〇〇号を迎えると聞いていただけに澤氏の逝去が惜しまれるのである。

 澤氏とは親しくしていただいたが、一度猛烈な批判を受けたことがある。時評風な発言の中で、「円錐」「未定」「豈」などを前衛系と評したことに対して、「円錐」の時評で前衛など存在していない、自分たちは俳句のあるべき姿を模索しているだけだと批判している。伝統と前衛を超克している立場の澤氏の考え方は理解できるが、それでも「未定」「豈」「鬣」「LOTUS」「円錐」がしばしば前衛の現状を語るときにグルーピングされる現象が存在してしまうことも否めないのだろう(「俳句四季」令和4年4月号「前衛俳句とは何か」で堀田季何氏が同じグルーピングをして揶揄的に語られている)。

 そして何より事実、芸術選奨文部科学大臣賞では澤氏の受賞理由に「伝統を踏襲する姿勢とは一線を画し、新興俳句と前衛俳句の流れを汲む作風は、ここへ来て伝統でも前衛でもない、誰も踏み込んだことのない境地へ突き抜けた」と掲げられたことによりこの問題を再考する必要が生まれた。

 その後氏が発行人を務める「円錐」64号・65号(26年1月・5月)で、「今さらながら前衛を語る」を特集し、澤氏自身が「前衛俳句運動」と「前衛」の違い、高柳重信、攝津幸彦、「新撰21」の若手たちの違いを論じている。澤氏の俳句に対する真摯さをよくうかがわせるものであった。この特集は今でもぜひ読み返す必要があると思っている。

 以後あまり澤氏と論じてはいないが、このことを今でも強烈に思い出すのである。


やがて死ぬ景色に青きみづゑのぐ『風影』

鯨ゐてこその海なれ夏遍路   『光源』

花篝嵩減るたびに散る火の粉

水葬や花より淡く日が落ちて

想ふとき故人はありぬ遠白波

猪鍋は丹波にかぎる月夜かな『返照』

(以下略)


【渡部有紀子句集『山羊の乳』を読みたい】⑭ 異郷を旅する言葉、そして心  柏柳明子

 朝焼や桶の底打つ山羊の乳

 古代、西アジアで興った牧畜。羊や山羊を家畜化し乳を利用する営みは時代と共にヨーロッパを含めた多くの地域に普及したといわれる。そんな歴史を踏まえて表題句を読むと、「山羊の乳」という言葉にはいにしえの時間と文明が宿っているかのように見えてくる。季語・朝焼がはからずもそのことを象徴しているようである。だからだろうか、句集『山羊の乳』を読んだ第一印象は「ヨーロッパ、または異郷の雰囲気が漂う一冊」というものだった。

 あとがきによると、渡部有紀子さんは句会の方々と一緒に絵画やギリシャ・ローマ神話の世界を詠むことに挑戦し、そのことが後に世界中の神話や宗教が下敷きになった師・有馬朗人氏の俳句を読み解くのに随分と役立った、とある。それを読んで腑に落ちるものを感じた。

 聖書の人物や関連した季語が出てくる俳句、あるいはギリシャやローマ神話に基づく俳句、そして異郷の古き神々や原風景を思わせる俳句。それらは日本の風景や日常生活等を詠んだ作品の合間合間に顔を覗かせ、本句集に独特の表情と陰翳を与えている。

 以上の観点に基づき、本句集の俳句作品を鑑賞しようと思う。

 まず、聖書に関連した俳句を見てみたい。


春霙イエスの若き土不踏

 洗礼後の荒れ野でのイエスの姿だろうか。「若き土不踏」が厳しい修行と試練の日々を象徴しており、イエスの苦悩の表情まで窺われるようで焦点の当て方が巧みだ。春霙という季語も本格的な春(ナザレのイエスが万人にとっての救い主になる時)を迎えるための最後の辛苦のようで効果的である。


茨の芽イコンの聖母イエス見ず

テンペラの金の聖母や寒卵

 テンペラにより描かれた聖像画・イコン。聖母子像のマリアは確かに嬰児イエスと目を合わせてはいない構図が多い。言われてみればそのとおりで、ハッとさせられる。その驚きを「発見」として生かすことができる俳句という詩形の力を本作品は再認識させてくれる。茨の芽の小さい生命の息吹が愛おしい。

 二句目。こちらの画にはイエスはおらず、聖母マリアだけなのだろう。金色の背景に包まれたマリアが手を合わせ柔らかく小首を傾げている様子が目に浮かぶようだ。寒卵との取り合わせが意外なようで、静謐な存在感が祈りのイメージとも重なってくる。


 一方、聖書に関連した季語の俳句もある。


カトリック歌留多にしかと創世記

 個人的な話で恐縮だが私は教会の幼稚園出身、小学校時代はそこの日曜学校に通っていた。中学年の頃だったか、「聖書かるた」というものをやった記憶がある。聖書の話や教えが書かれたかるただったが、まさか俳句で再びお目にかかるとは思わなかった。今振り返ると、読み物としてもなかなか面白いエピソードが多い旧約聖書「創世記」。どんな読み札で取り札なのか、ドラマティックで絢爛たる絵柄なのか。シンプルな詠みぶりゆえに想像が広がる楽しい一句。


真白なる藁を敷入れ降誕祭

 生まれたばかりのイエスは馬小屋の飼い葉桶に寝かされた。そのエピソードを思い出すと、この句は「降誕祭」の季語を用いながら「聖夜劇」のワンシーンを詠んでいるのかな、とも思う。毎年、クリスマスの頃に劇が行われていた夜の礼拝堂を思い出した。上五「真白」が神の子の誕生に対する寿ぎを厳かに表わしている。


骨太き魚を取分け復活祭

 骨が太い魚は体が大きく身もしまっていそうだ。それを数人で分け合いながら食べる景はエネルギーに満ちており、復活祭との取り合わせは絶妙。磔刑にあいながら三日目に復活したイエスの姿を踏まえ、「生きる」力を肯定した作品という印象を読者に与える。


 では、神話に基づいた俳句はどうだろうか。


大いなるニケの翼や涼新た

銀貨にはニケの立つ船草の絮

 勝利の名をもつギリシャ神話の女神・ニケ。

 一句目、「大いなるニケの翼」と畳み掛けるようなフレーズの後を切れ字「や」で受けている。その疾走感のある詠みぶりからニケの翼の羽ばたく音が聞こえるかのようだ。そして、下五の季語の爽快さが地中海の美しい空と海を想像させ、希望に満ちた古き佳き世界と時間の広がりを読者の前に提示している。

 二句目は銀貨に彫られたニケの姿。船に乗った姿は勝利に向かってひた走る力強さに満ちている。風を得てきらめきつつ飛ぶ草の絮との対比により、十七音の表現に緩急を生み出している。


水の秋ミノスの牛の金の角

 テセウスはアリアドネより手渡された短剣と毛糸によりミノタウロスを倒し、迷宮の入口まで辿り着く。「金の角」が神話と歴史の境目に輝き、水の秋という美しい季語との調和をみせている。


 それにしても聖書の俳句もそうなのだが、日本文化に基づく季語がこうもヨーロッパ(あるいは異郷)的なテーマと違和感なく調和するとは、有紀子さんの手腕はつくづく凄いと思う。師の影響もあると思うが、ともすれば季語が浮いてしまう危険性がある中、これだけの完成度の作品を複数作り、揃えることができるのは素晴らしい。


 上記以外にも、次のような古代の息吹を現代に伝える佳句がある


月涼し仮面真白き古代劇

春星や王の木乃伊を抱く谷


 一句目。真っ白な仮面による古代劇はいくぶん秘儀めいた表情をもち、その景に涼やかな月光があまねく満ちわたっている。

 二句目。「王の木乃伊」の眠りを守るのは谷だけではなく、星の光もそうなのかもしれない。しかも季節は春。一句目の月の光とは異なる柔らかい宇宙からの光が読者の心をもやさしく照らす。また、春星という季語と王の木乃伊から、若きツタンカーメンを発掘したハワード・カーターの姿と人生がどことなく重なってくる。


 また、作者の内なるノマドの精神を彷彿とさせるような句もある。


旅芸人黒き箱曳き冬木立

 「黒き箱」は旅芸人の仕事道具が入っているのだろうが、芸人自身、あるいはその人生のようにも映る。重量感のある「曳く」行為から己が半生を影のように引きずっている姿を想像でき、冬木立という寂びた季語がロングショットの映像として続く。ギリシャを題材にした作品を撮り続けたテオ・アンゲロプロスの映画「旅芸人の記録」の世界観とも響き合うものがあるかもしれない。


 最後に、「神」という言葉が入った作品を見てみたい。


羊皮紙の青き神の名冬の蝶

 パピルスよりも保存が長く効き、経典などの重要文書の記載に用いられた羊皮紙。中七に「青き神の名」とあるということは、ラテン語の聖書だろうか。青いインクで書かれた言葉であり神の名前なのだろうが、「青い神様とその名」のようにも一瞬読めて不思議な印象が残る。冬の蝶の存在感がそのイメージをことさら高めるからかもしれない。そして「神の名」から、愛をもって人と対峙しながら同時に滅ぼすことも可能な絶対の存在への畏怖を感じる。


夕焚火文字なき民の神謡ふ

 文字をもたない民族は世界中にいる。そのため、文明や歴史の成り立ちが不明なことも多い。そんな民族にも言葉があり歌がある。そして、信仰がある。口伝えで継承されてきた民族固有の文化と精神、そして記憶が、あかあかとした焚火とともに暮れつつある天へ昇っていく。静かで美しい作品だ。

 

 現在からあらゆる場所・時代へ、そして神話へ。俳句形式を用い、縦横無尽に空間と時間を旅することができる言葉と心。それが、作家・渡部有紀子の特質のひとつなのかもしれない。この旅の先に生まれる新しい俳句の誕生を祈りつつ、稿を終えたい。


~~~~~

【執筆者プロフィール】
柏柳明子(かしわやなぎ・あきこ)
1972年神奈川県横浜市出身。『炎環』同人。『豆の木』参加。
第30回現代俳句新人賞。第18回炎環賞。第27回豆の木賞。
句集『揮発』(2015年)、『柔き棘』(2020年)。現代俳句協会会員。

【告知】澤好摩を偲ぶ会

 7月7日に亡くなった澤好摩の偲ぶ会がアルカディア市ヶ谷(詩学会館)で11月4日14時から開かれた(円錐の会澤好摩を偲ぶ会実行委員主催)。

 100人を超える参列者がそれぞれ澤氏を偲んだ。

 司会は山田耕司氏。池田澄子氏、小林恭二氏、夏石番矢氏、恩田侑布子氏、仁平勝氏が偲ぶ言葉を述べたが、日頃交友のあった人達以外で意外な顔ぶれの人も参集したことが澤氏の人徳を偲ばせた。それぞれが語り合った後に、円錐同人の横山康夫氏が最後のお別れの言葉を述べた。

 すでに「大井恒行の日日彼是・続」で速報されているので(11月5日号)写真はじめ詳しくはご覧いただきたい。


 当日に間に合わせた「円錐」99号と、「翻車魚」7号も配布された。


「円錐」第99号ー追悼 澤好摩―(編集部/発行所・山田耕司)、[2023年10月]

 急逝した澤好摩の追悼号である。特別寄稿に、坪内稔典、池田澄子、仁平勝、小林恭二、川名大、伊丹啓子、樋口由紀子、恩田侑布子、高山れおな、大井恒行、高柳蕗子、神山刻、宮﨑莉々香、同人によるエッセイは、橋本七尾子、横山康夫、味元昭次、矢上新八、今泉康弘、山田耕司を載せている。特に圧巻は、澤好摩年譜で、澤氏がかわった雑誌特集の印影も載せ、時代の雰囲気をよく伝えている。詳細な記録を残した、澤氏らしい編集者ぶりに時代の雰囲気がよく伝わる。

 なお「円錐」の今後については山田耕司氏の編集後記によれば103号まで発行を継続、同人の意向を踏まえて今後の展開を検討するという。また、全句集も準備されるらしい。


「翻車魚(まんぼう)」7号(佐藤文香・関悦史・高山れおな)[2023年11月]

 澤好摩氏を偲ぶ企画として、高山れおなの「澤好摩の百句」を掲載。第一句集『最後の走者』から最後の句集『返照』、そして直近の「円錐」掲載句までを丹念にひろい、長短の鑑賞を施している。「円錐」第99号の高山れおな「掃除日記別記ー澤好摩百句執筆の事」はこの百句鑑賞の舞台裏を語っていて面白い。「鬣」第87号[2023年5月]の「特集澤好摩の一〇〇句を読む」と併せて、澤氏の全作品を鳥瞰するために欠かすことのできない資料となるであろう。

英国Haiku便り [in Japan] (41) 小野裕三


カリフォルニアの有季定型

 先日、縁があって、カリフォルニアのhaikuコンテストの審査員をオンラインで務めた。Yuki Teikei Haiku Society(有季定型俳句協会)という団体で、日本から移民として米国に渡った夫婦が設立した。夫はアメリカ生まれながら日本の軍隊に徴兵され、また妻は長崎で被爆するなど、複雑な経歴を持つその夫婦は、英語のhaikuを広くアメリカ人に開かれたものにしたいと考えたようだ。「徳富賞」と呼ばれるそのコンテストは、創設者夫婦の名前に由来する。

 彼らは、五七五は必ずしも絶対視しないが、季語は大切だと言う。とは言え、日米の俳句は異質な側面も孕む。

 一つめは、文化。例えば、キルトを扱った句が多くあったが、キルト作りは米国では仲間や家族の絆を象徴するような風習らしく、僕にはニュアンスを掴みきれない。こんな興味深い句もあった。

 first ride to a dance

 in my boyfriend’s old blue Ford

 smell of gardenia

         Kathy Goldbach

 初めて車に乗って行くダンス / ボーイフレンドの古い青のフォード / くちなしの香り

 いかにもアメリカ的な光景で、この「gardenia」は米国では女性をダンスに誘うときに贈る花らしく、とすれば季語が持つニュアンスも日米で違いそうだ。

 二つめは、自然。例えば、青い朝顔(sky blue morning glory)の句があったが、日本の朝顔の儚げな雰囲気に比べて、現地のこの朝顔は雑草めいてたくましいものだと聞いた。

 三つめは、言葉。

 September seashore

 not enough names

 for the blues

Mimi Ahern

 九月の浜辺 / もろもろの青いものへの / 名前が足りない

 この和訳がまずは正しそうだが、bluesは掛け言葉的にも機能する。音楽のブルースの意味にもなるし、気持ちの憂鬱さもblueで表現される。魚の名前でもあるとか。そんなイメージ群がスパークし、日本語の「青」のニュアンスとはだいぶ違いそうだ。

 カリフォルニアという爽やかなイメージの土地で、彼らが「有季定型」を掲げる事実に驚きつつ、それでも、これらの点の違いから句のニュアンスを日米で完全に共有するのは難しいとも実感した。一方で、bluesの句のように、英語の特質を活かして高い詩性を獲得している句も多く見られた。そして何より胸を打つのは、haikuで日米を繋ごうとした徳富夫妻の情熱が、今も人々に生々しく息づいていることだった。そんないろんな意味で、学びの多い審査員体験だった。

 ※写真は当協会制作の動画より引用

(『海原』2023年1-2月号より転載)

第40回皐月句会(8月)

投句〆切 8/11 (金) 

選句〆切 8/21 (月) 


(5点句以上)

11点句

長き夜の本をこぼれし正誤表(仲寒蟬)

【評】 長編大冊に挑んでいる秋の夜長、移動する折に正誤表がこぼれ落ちたことには気づかなかった。そのため重要な訂正を行なわずに作品を読み進めることに。たとえばミステリー、夜とともに致命的な謎が深まる。──妹尾健太郎


10点句

心臓は四部屋リビングに金魚(望月士郎)

【評】 四部屋で切って頂く。心臓には左心室、左心房、右心室、右心房の四部屋。わがリビングには金魚がいる。内と外の二種類の部屋のイメージがぶつかり、次のイメージを誘う。炎上する炎が見えた。──山本敏倖

【評】 人間の心臓は二心房二心室、心室は音で寝室にも通じる。そこへ「リビング」と持って来たところが上手い。金魚のところは他にもやりようがあった気はするが。──仲寒蟬


8点句

チというて蟬の当たりし日傘かな(岸本尚毅)

【評】 確かに「チ」と鳴きますね。この句では、季重なりはあまり気になりませんでした。──仙田洋子


7点句

にんげんの流れるプール昼の月(望月士郎)

【評】 鳥瞰的に書かれている流れるプールの風景が、下五に「昼の月」を置くことでさらに高く、まるで宇宙からの視たような感覚になる。ここで描かれている「にんげん」は愚かな存在として等しいただの生命体だ。冷めた眼。──依光陽子


6点句

信金の出張所ある避暑の町(岸本尚毅)

【評】 「信金」と「出張所」と「避暑」の距離感、浮遊感が独特です。──佐藤りえ


犬のこゑ夾竹桃のうらがはに(佐藤りえ)


(選評若干)

放蕩や指の味する胡瓜揉み 4点 松下カロ

【評】 胡瓜揉みのこういう感覚も俳句になるんだなあ、となかばあきれて・・。思わずぬいたもののいただいてしまった、という好例。──堀本吟

【評】 「昔をとこありけり」の河内国高安の女を髣髴とさせます。──仲寒蟬


兵ひとり死んでも異常なしの朱夏 3点 水岩瞳

【評】 兵隊、いや人間ひとりの命の軽さ。死んだからといって、世界を揺り動かす人などいない。──仙田洋子


落ちて死すか死して落つるか落蟬は 3点 小沢麻結

【評】 地下鉄がどうやって地下に入ったかと同じくらいどうでもいいことなんだがあの死骸を見るとそう考えてしまう。──仲寒蟬


蝉の穴さびしき風の棲んでをり 4点 田中葉月

【評】 蝉がいなくなった後の蝉の穴にはさびしい風が住んでいるのか。とても共感できる。──仲寒蟬


屍に向日葵の種を撃ち込む 2点 中村猛虎

【評】 銃に向日葵の種を詰めて撃つ?その屍に向日葵は育って咲くのか?屍を栄養にした向日葵は希望それとも絶望の証?なんとも言えないやりきれなさを感じる。──仙田洋子


剥がしても剥がしても眼帯はいちまいの海 4点 堀本吟

【評】 結膜炎になったときの眼帯のガーゼを思い出しました。ガーゼ越しのぼんやりとした明るさは海のよう。──篠崎央子


落蝉を踏めば星空鳴りわたる 3点 真矢ひろみ

【評】 踏む勇気を持たない私は、足元の暗さに思わず踏んでしまったと受け取ります。星空が鳴り渡ったという詩的展開、蟬の命を讃えるような星空に惹かれました。──小沢麻結

【評】 夜の蝉殻の句を見たのは初めて。暗闇で踏みつけたときの毀れる音を星空の音と感じた。美しい虚無感がきらめく。──堀本吟


弔電が読まれ素麺流れけり 4点 松下カロ

【評】 二つの行為には関連性がないものの、人を悼む時にも生きている人は食べるという対比が現実をよく示している。──辻村麻乃


いつの間に裏の婆死に葛の花 3点 仲寒蟬

【評】 孤独な婆。孤独な作者。時間こそ違え、どちらもひっそりと死に、あっさりと忘れられる。──仙田洋子


迎鐘べたべたの日が顔に触れ 3点 西村麒麟

【評】 霊迎のための鍾を衝く。夕方の日はまだ暑い。これもすっきりしない俗っぽい感覚が上手く句になっている。──堀本吟

【評】 如何にも京都の暑苦しい気候を思い出させる。「べたべた」という乱暴な表現が効果的。──仲寒蟬


萩の雨夕べの墨の磨り心地 3点 渡部有紀子

【評】 ちと閑寂すぎるほど閑寂の趣にて、皐月句会のこの場における句の並びの中にあっては一つの文鎮の如き手触りを具えた句と見ました。──平野山斗士


2023年11月1日水曜日

渡部有紀子句集『山羊の乳』を読みたい インデックス

① きちんとの向こうに  鈴木崇 》読む

② 白を択(えら)ぶとき  池田瑠那 》読む

③ 渡部有紀子『山羊の乳』鑑賞  杉原祐之 》読む

④ 生真面目さで以って見つけ出す  上野犀行 》読む

⑤ 雪よりも白く  吉田林檎 》読む

⑥ 「凛と」  今泉礼奈 》読む

⑦ 『山羊の乳』を鑑賞して  星野麻子 》読む

⑧ 「山羊の乳」鑑賞  久世裕子 》読む

⑨ 一句鑑賞文  秋谷美春・堀内裕子・千田哲也 》読む

⑩ 確かめる目線  藤原暢子 》読む

⑪ こどものいる風景  千野千佳 》読む

⑫ 『山羊の乳』書評  嶋村耕平 》読む

⑬ 揺らぎ  板倉ケンタ 》読む

⑭ 異郷を旅する言葉、そして心  柏柳明子 》読む

⑮ 各章から 大西朋 》読む

⑯ 生き物への眼差し 笠原小百合 》読む