2019年7月26日金曜日

第118号

※次回更新 8/16

  【広告】俳句新空間第11号(7月24日刊)

■平成俳句帖(毎金曜日更新)  》読む
令和春興帖
第一(5/24)仙田洋子・松下カロ・曾根 毅・夏木久
第二(5/31)杉山久子・辻村麻乃・乾草川・池田澄子
第三(6/7)田中葉月・大井恒行・岸本尚毅・ふけとしこ
第四(6/14)前北かおる・坂間恒子
第五(6/21)浅沼 璞・網野月を・堀本 吟・川嶋健佑
第六(6/28)内橋可奈子・福田将矢・とこうわらび・工藤惠
第七(7/3)木村オサム・真矢ひろみ・水岩瞳・家登みろく
第八(7/12)内村恭子・林雅樹・神谷 波・北川美美・中村猛虎
第九(7/19)羽村美和子・小野裕三・山本敏倖・仲寒蟬・飯田冬眞
第十(7/26)渕上信子・望月士郎・井口時男・青木百舌鳥・花尻万博

■連載

【抜粋】〈俳句四季8月号〉俳壇観測199
平成回顧特集を並べて見る――平成を代表する俳句・俳人、そして平成俳壇とは何か
筑紫磐井》読む

寒極光・虜囚の詠~シベリア抑留体験者の俳句を読む~⑯ のどか  》読む

渡邊美保第一句集『櫛買ひに』を読みたい 
6 『櫛買ひに』を読む/山田すずめ 》読む

句集歌集逍遙 木下龍也・岡野大嗣『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』/佐藤りえ  》読む

麻乃第2句集『るん』を読みたい
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13  『るん』句集を読んで/歌代美遥  》読む

佐藤りえ句集『景色』を読みたい 
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7 佐藤りえ句集『景色』/西村麒麟  》読む

葉月第1句集『子音』を読みたい 
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7 生真面目なファンタジー 俳人田中葉月のいま、未来/足立 攝  》読む

大井恒行の日々彼是 随時更新中!  》読む


■Recent entries

特集・大本義幸追悼「俳句新空間全句集」 筑紫磐井編  》読む


【抜粋】俳誌要覧2019年版
「結社誌・同人誌のあゆみ2018」 【俳句新空間】  》読む

「兜太と未来俳句のための研究フォーラム」アルバム

※壇上全体・会場風景写真を追加しました(12/28)

【100号記念】特集『俳句帖五句選』


眠兎第1句集『御意』を読みたい
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麒麟第2句集『鴨』を読みたい
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前衛から見た子規の覚書/筑紫磐井
インデックスページ    》読む

「WEP俳句通信」 抜粋記事  》見てみる

およそ日刊俳句新空間  》読む
…(今までの執筆者)竹岡一郎・青山茂根・今泉礼奈・佐藤りえ・依光陽子・黒岩徳将・仮屋賢一・北川美美・大塚凱・宮﨑莉々香・柳本々々・渡邉美保 …
5月の執筆者 (渡邉美保

俳句新空間を読む  》読む
…(主な執筆者)小野裕三・もてきまり・大塚凱・網野月を・前北かおる・東影喜子






「俳句新空間」10号発売中! 購入は邑書林まで


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「兜太 TOTA」第2号
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筑紫磐井著『女帝たちの万葉集』(角川学芸出版)

新元号「令和」の典拠となった『萬葉集』。その成立に貢献した斉明・持統・元明・元正の4人の女帝、「春山の〈萬〉花の艶と秋山の千〈葉〉の彩を競へ」の天智天皇の詔を受けた額田王等の秘話を満載する、俳人初めての万葉集研究。平成22年刊2,190円。お求めの際は、筆者までご連絡ください。

【広告】俳句新空間11号(7月24日刊)

   目次
特集・令和の一句(44名の44句)
平成三十年戊戌俳句帖・下
   春興帖・秋興帖・冬興帖・歳旦帖
前号作品を読む/もてきまり・小野裕三
新作20句(令和新風帖)
   小目次
 青木百舌鳥・網野月を・乾草川・近江文代
 小沢麻結・加藤知子・神谷波・神山姫余
 岸本尚毅・北川美美・五島高資・坂間恒子
 佐藤りえ・関根誠子・高橋修宏・田中葉月
 筑紫磐井・辻村麻乃・仲寒蟬・中西夕紀
 中村猛虎・夏木久・秦夕美・福田葉子
 ふけとしこ・堀本吟・前北かおる・真矢ひろみ
 もてきまり・渡邉美保

【予告】◆高山れおな 第1評論集(近刊)

     『切字と切れ』

 57年ぶりに登場した総合的切字論である本書は、平安時代の前史から現在にいたる切字・切字説を通覧。「切れ」が俳句の本質でもなければ伝統でもなく、「切字説」というカオスから1970年代に生まれた概念であり、錬金術における「賢者の石」にも似た一種の虚妄であることをあきらかにする。平成中後期俳壇を覆った強迫観念を打破する画期的論考!

主要目次
第一部 切字の歴史
 第一章 切字の誕生
 第二章 芭蕉と切字
 第三章 「や」の進撃と俳諧の完成
 第四章 古池句精読
第二部 切字から切れへ
 第五章 「切字/切れ」の現在
 第六章 切字の近代
 第七章 国語学と切字
 第八章 切れという夢

発売元:邑書林
〒661-0033  兵庫県尼崎市南武庫之荘3-32-1-201
☎ 06-6423-7819
E-mail: younohon@fancy.ocn.ne.jp

寒極光・虜囚の詠~シベリア抑留体験者の俳句を読む~⑯  のどか 

第2章‐シベリア抑留俳句を読む
Ⅳ 庄子真青海(しょうじ まさみ)さんの場合(2)


以下*は、『シベリヤ俘虜記』『続・シベリヤ俘虜記』の作者随筆と庄子真青海さんの句集『カザック風土記』を参考にした筆者文。


  雪くるか明日恃む身の傷膿みゆく(シベリヤ俘虜記)
*シベリアの冬の訪れは早い。空はどんよりした雪雲に覆われてきた。明日へ命を繋ぐことがやっとの身である。「身の傷膿みゆく」は、具体的な体の傷(消耗)なのかもしれないが、ノルマのある冬の炭鉱の作業、死と隣り合わせの付きまとう不安、仲間に対する猜疑心いろいろな感情が膿んでいくことを詠んでいるのである。

  女唱寧し明日の斧研ぐ雪明り(シベリヤ俘虜記)
*どこからか女性の歌声か流れてくる。その声を聴きながらしばし安らぎ、明日の斧を雪明りで研ぐのである。シベリア抑留者の中に、日本やドイツの女性もいたようである。
2019.2.23付けの日本経済新聞に121人の日本人女性とドイツ人女性の抑留者名簿が、モスクワのロシア国立軍事公文書館に、残されている事を大阪大学の生田美智子名誉教授が発見したという記事が、載ったことに依っても明らかである。

   抑留句帳抄
  初蝶をとらえ放つも柵の内(シベリヤ俘虜記)
*この句は、復員直後にメモしたとある。
 厳しい冬が終わり、緑の芽吹く収容所(ラーゲリ)に初蝶をみた。手にとらえ愛おしむが、やがてその蝶を放つ。まだ羽柔らかい蝶は収容所(ラーゲリ)の柵を越えられない。力一杯羽ばたき柵を越えて自由になりたいけれども、越えられない自分を重ねるのである。

  生き下手な死臭払えり秋の風(続・シベリヤ俘虜記)
*生来ひ弱でノルマ作業に苦しむ自分。栄養失調により忍び寄る死臭を払うよう秋の風に吹かれるのである。

  立ちて死ぬ男にこぼれ雪の華(続・シベリヤ俘虜記)
*点呼の最中か、作業中なのか仲間が立ったまま息を引き取った。静かに倒れる刹那、体に積もった雪が散華のように散っているのであった。

  死もならぬ力がむしり塩にしん(続・シベリヤ俘虜記)
*厳しいノルマと重労働に体力も消耗し死を意識する毎日ではあるが、弱り切った肉体は生きたいと要求するように、塩にしんをむしり食うのである。
 「続・シベリヤ俘虜記」P.78には、昭和23年長きに渡った抑留生活の栄養失調が起因の「飢餓浮腫」の症状が激しくなり、急遽ソ連陸軍病院のベッドに送られたとある。投薬の殆どない状況で、白パンやミルク入りのカーシャ(粥)などの病院食で命をつなぎとめたとある。
 そんな日々の4月の初め、帰国名簿にその名前をあげられた。その日を「死なぬ」のごろ合わせで覚えている。

【庄子真青海さんの作品を読んで】
 庄子さんの句は、「シベリヤ俘虜記」に29句、「続・シベリヤ俘虜記」に16句が紹介されている。そのうちの6句が庄子真青海句集「カザック風土記」に,収められている。この中から随筆に合う句を選んで紹介をした。 
 庄子さんの作品の冒頭には、「戦争は残酷だ。諸君はそれをどんなにしても美化することはできない。」とW・Tシャーマンという人の言葉が掲げられている。(ウイリアム・テカセム・シャーマンはアメリカの軍人で作家)
 戦場整理や抑留生活を通じて、庄子さんの目に焼き付いた光景は、この言葉のとおりどんなにしても美化できない世界だったに違いない。
    日ソ無名戦死碑建設
  「生きて虜囚の」茜砕きて斧振う 
 この句は、目を覆うばかりの凄惨な現場の戦場整理に当たり、戦争の悲惨さを伝える一句である。平時は、人の命は地球よりも重いと言われるが、戦争の大義名分にあって人の命は、芥子粒ほどに小さくなってしまうのだ。

  昼寝覚め香煙硝煙いずれとなく
  借命や撃たれきらめく宙の鷹

 逃亡は、現実から逃れたいための衝動的な自殺に近い。
 自動小銃で撃たれなくても、厳寒の雪の原野で凍死してしまうからだ。
 しかしながら、人為的に自動小銃であっけなく奪われる戦友の命と撃たれた鷹の命が重なりあい、自分の命もやはり借りの命であると洞察している。
 厳しい境涯にあって命についての洞察に至るのは、それに寄り添う俳句の作用も一因であると筆者は考える。
 『カザック風土記 庄子真青海句集』卯辰山文庫のP.174~175には、無聊をかこつ抑留所に「若草会」というグループができて、ここで草皆白影子を知ることになる。とあり、『続・シベリヤ俘虜記』P.77には、「若草句会」について、夜七時過ぎに集まり、翌日の作業を考慮して9時には散会するという月1回の句会があったと書かれている。
 筆者は初め抑留俳句について、個人でコツコツ編まれた作品が殆どだと思っていたが、ラーゲリ内で句会の形で俳句が親しまれてきたことに驚きを感じた。
 普段はノルマに追われ、飢餓や死の恐怖に苛まれ、政治教育による密告や吊し上げにより猜疑心や人を妬むような人間関係の中にあり、俳句は作者の心を開放し支える存在である。これに加え俳句に親しむ仲間と月に1回会うことで、お互いの存在を確認し励ましあい、一時の時間を共有することは、辛い収容所生活を生き抜く大きな力となったのだと考える。
                      
参考文献
『シベリヤ俘虜記~抑留俳句選集~』小田保編 双弓舎 昭和60年4月1日
『続・シベリヤ俘虜記~抑留俳句選集~』小田保編 双弓舎 平成元年8月15日
『カザック風土記~庄子真青海句集』卯辰山文庫 昭和51年4月15日
W・Tシャーマンの言葉:名言集 №1856  http://www5f.biglobe.ne.jp/~kimmusic/nihongo-meigen.html


【抜粋】〈俳句四季8月号〉俳壇観測199/平成回顧特集を並べて見る――平成を代表する俳句・俳人、そして平成俳壇とは何か  筑紫磐井

 五月一日を以て令和を迎えたところから多くの俳句総合誌が平成回顧特集を組んでいる。「俳句」は「さらば平成」と題して、巻頭随想を鴇田智哉が執筆し、九二人による俳人アンケートとそれを踏まえた座談会「平成百人一句」の特集を行っている。「俳壇」では「平成俳壇展望」として、一二人による次代に遺したい平成の俳句・俳書を掲げている。「俳句界」では「平成俳句とその後」と題して高柳・仙田・田中・生駒が座談会、若手によるエッセイ、平成を代表する七句選を行っている。「俳句アルファ」は特集がないが、これは昨年秋に「平成の暮れに」と言う特集を行っているためであろう。本当に何の特集も組んでいないのは「俳句四季」であるが、この雑誌はいつもこうしたきわものめいた特集を忌避しているのが特徴である。
 二か月遅れのこの月評ではむしろ遅れたことを生かして、各特集を横並びに眺めて見て、品評してみたい。
        (中略)
平成俳句論
 では俳句のランキングはそれとして平成の俳句とはどのような特徴を持っていたか。
「俳句」五月号で巻頭随想として鴇田智哉が「俳句の不謹慎さ、そして主体感」を執筆している。前半が鴇田の俳句経験、後半を俳句のありようとして論じているが、特に後半が鴇田の主張をはっきり出しているのでそれを見てみたい。多くの俳人の中でも鴇田は震災俳句を一番厳しく批判している。感情を伴う事柄を簡単な熟語(「震災忌」「フクシマ忌」のような)に還元してワッペンを貼るように俳句を作っていると批判する。こうした俳句の決まり事に違和感を覚えているのである。その結果、こうした一見真面目に見える決まりごとの世界を批判し、俳句の本質は不謹慎さにあるとまで言っている。もう一つは、若い俳人たちの新しい俳句の世界に主体感を感じ取ろうとしている点だ。言ってしまえば鴇田は、平成以後の俳句に新しい主体感のあらわれを感じているようだ。
 「古今のあらゆる句には、その句特有の主体感があり、私たちはそれをうすうすと感じてきたと思う。ただ、俳句が語られる時、それは今までの時代、あまり言語化されてこなかったと思う。主体感を感じ取る感性を育て、それを言語化して語ることは、これから俳句を読み、また作るうえでの鍵になるという予感が、私にはある。」
 前者(震災俳句)と後者(主体感)に直接のつながりはないように思うが、平成という時代の問題点と期待感と見れば分からなくはない。ただ鴇田がいう「主体感」はそれぞれの時代時代にある「情緒」であり、例えば伝統俳句の復興が叫ばれた昭和四〇年代の飯田龍太・森澄雄・能村登四郎、草間時彦らの清新な抒情作品には言外に現代性を感じさせる情緒が漂っていた。「主体感」などというと少し頭でっかちになりそうな気がする。
 多分、鴇田が批判しているのは、「俳句アルファ」三〇年秋号の「「平成」と俳句」と題した宮坂静生・長谷川櫂・対馬康子が行った平成回顧座談会に表れる俳句観であろう。この座談会は、長谷川櫂が終始主導しているから長谷川櫂の俳句観といってよいであろうが、彼は平成俳壇を「末期的大衆俳句」と言っている。
 両者の違いは鴇田が平成俳句を自らの(或いは自らの世代の)俳句として語っているのに対して、長谷川は平成を超越した俳人長谷川が平成俳句という流行を批判しているという点に尽きているように思う。鴇田に対して共感を持つのは、常に俳句を語るものは自分を語ってこそ正直となれるからだ。兜太の乱暴な造型俳句論も、それが是か非かは別として、実は同時代を語っていたのである。上から目線で見た俳句観ではない。だから人を動かす力を持てたのである。

 この違いは大きい。長谷川の視点から「令和の俳句」は暗い。明るく成りようがない。鴇田には薄明かりがさしている。
    *     *
 なお、ここで触れられなかった「俳句界」五月号の「平成俳句とその後」の座談会は両者の中間にあるといえよう。というより、こうした座談会は、過去の回顧にはいいが、未来の展望を語るには向いている形式ではないような気がするのである。

※詳しくは「俳句四季」8月号をお読み下さい。

2019年7月12日金曜日

第117号

※次回更新 7/26

特集・大本義幸追悼「俳句新空間全句集」

筑紫磐井編        》読む

■平成俳句帖(毎金曜日更新)  》読む

令和春興帖
第一(5/24)仙田洋子・松下カロ・曾根 毅・夏木久
第二(5/31)杉山久子・辻村麻乃・乾草川・池田澄子
第三(6/7)田中葉月・大井恒行・岸本尚毅・ふけとしこ
第四(6/14)前北かおる・坂間恒子
第五(6/21)浅沼 璞・網野月を・堀本 吟・川嶋健佑
第六(6/28)内橋可奈子・福田将矢・とこうわらび・工藤惠
第七(7/3)木村オサム・真矢ひろみ・水岩瞳・家登みろく
第八(7/12)内村恭子・林雅樹・神谷 波・北川美美・中村猛虎

■連載

【転載】仮想句合――十四音短俳句の可能性――    渕上信子 》読む

【抜粋】〈俳句四季7月号〉俳壇観測198
定型の錯覚・五七五の相対化 ――中山奈々の無謀な挑戦
筑紫磐井》読む

【抜粋】俳誌要覧2019年版
「結社誌・同人誌のあゆみ2018」 【俳句新空間】  》読む

寒極光・虜囚の詠~シベリア抑留体験者の俳句を読む~⑮ のどか  》読む

渡邊美保第一句集『櫛買ひに』を読みたい 
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句集歌集逍遙 木下龍也・岡野大嗣『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』/佐藤りえ  》読む

麻乃第2句集『るん』を読みたい
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13  『るん』句集を読んで/歌代美遥  》読む

佐藤りえ句集『景色』を読みたい 
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葉月第1句集『子音』を読みたい 
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「兜太と未来俳句のための研究フォーラム」アルバム

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およそ日刊俳句新空間  》読む
…(今までの執筆者)竹岡一郎・青山茂根・今泉礼奈・佐藤りえ・依光陽子・黒岩徳将・仮屋賢一・北川美美・大塚凱・宮﨑莉々香・柳本々々・渡邉美保 …
5月の執筆者 (渡邉美保

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…(主な執筆者)小野裕三・もてきまり・大塚凱・網野月を・前北かおる・東影喜子






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筑紫磐井著『女帝たちの万葉集』(角川学芸出版)



新元号「令和」の典拠となった『萬葉集』。その成立に貢献した斉明・持統・元明・元正の4人の女帝、「春山の〈萬〉花の艶と秋山の千〈葉〉の彩を競へ」の天智天皇の詔を受けた額田王等の秘話を満載する、俳人初めての万葉集研究。平成22年刊2,190円。お求めの際は、筆者までご連絡ください。

【転載】仮想句合――十四音短俳句の可能性――  渕上信子

 「鬼」はおよそ二年に亘り「七七句」(「十四音短俳句」)という「実験」に挑戦してきました(機関誌「鬼」38号、40号)。例会では現在、七七句の投句が義務付けられており、選句のルールは、良いと思う句を通常の五七五句と七七句の区別なく取るというものです。将来、通常の句を凌ぐ優れた七七句は生まれるのでしょうか。
 そこで、実際の句会の記録をもとに、通常の句と七七句を一対一で仮想的に競わせてみました。まずは作者名を伏せて。(以下で、「鬼特」、「鬼予A」および「鬼予」は、それぞれ、鬼ヶ城先生の特選句、予選A句および予選句。)

一番 平成廿八年九月十七日(会報No.234)
左 案山子のキャラか雀群がる  鬼予A
右 漣や岸より去らぬ精霊船
 左、「案山子のキャラ」が傑作。右、「船」は小さい「舟」か。きちんと写生されているが、題材への着眼がやや月並。左の案山子は雀を追い払うどころか惹きつけてしまうほど魅力的。左の勝ち。

二番 平成廿八年十月十五日(会報No.235)
左 十三夜ヘッド・ホンからボブ・ディラン  鬼予
右 稲架稲架稲架や単線をゆく 1位 鬼予
 左、「ボブ・デイラン」が動くかどうか。私自身は、あのBlue Moon は十三夜だったのかと妙に納得。右、行けども行けども稲架ばかり。単調な旅の長さを、十四音の短さでたっぷりと表現することに成功している。「1位」とは、この日の句会で五七五句を抑えての最高点句。11点を獲得。右の勝ち。

三番 平成廿九年二月十八日(会報No.239)
左 落椿死なぬつもりの人も居り
右 授乳をしたり春耕したり     1位 鬼予
 左、老いても死を気にせず、ぽっくり逝ければ、それは幸せのひとつの形。「落椿」は付きすぎか。右、子育てと野良仕事を両立させている若い母親の逞しさと幸福感。万葉集の短歌14-3465の続きの物語として読むと面白い。左右共に高点句、ことに右はこの日最高の10点句。右の勝ち。

四番 平成廿九年七月十五日(会報No.244)
左 ヒアリ クモ ヒト 皆毒をもち  鬼予
右 がん闘病夏の尾根のよう尖る骨  鬼予
 左、辛辣な表現。だが、生きることの根源的な悲しさを見つめる作者の眼差しは「やさしい」(角南範子)という鑑賞に同感。右、意欲的な表現を目指しているが、「夏の尾根のよう」という中七の字余りにもう一工夫ほしい。左の勝ち。

五番 平成丗年一月廿日(会報No.250)
左 短日や文字の大きな本を買ふ  鬼予
右 デカイマスクのアンナカレニナ  
 左、老いの一日が素直に詠まれている。ああそうですかという感じを俳味と評価するかどうか。右、深刻な悲劇のヒロインをこんな風に笑われ、トルストイは渋い顔。独創性を高く買って右の勝ち。

六番 平成丗年二月十七日(会報No.251)
左 菜飯よく嚼み淑女老いたり 1位 鬼特
右 蜆汁すすりて老老介護かな    鬼予
 左、この日の最高8点句。右、老老介護の大変さのみならず、「蜆汁」には肯定感も感じられるのが良い。どちらも老いの一場面を詠んでいるが、左の「淑女」、今なお美しいのだろうか、それとも…などと考えさせられて面白い。左の勝ち。

七番 平成丗年四月廿一日(会報No.252)  
左 蝶舞うように父徘徊す  1位 鬼予
右 シャボン玉若きケアマネ義母素直
 左、老化の進んだ父を蝶に喩えて、悲しいことが美しい詩になった。この日の最高7点句。右、ケアマネは男性か女性かなどと想像が膨らむが、三段切れ。どちらも老いを描いているが左の勝ち。

 以上の試合で、左と右は実は同じ作者です。(一:竹天。二:雪香。三:水木。四:尚子。五:木兆。六:安房。七:勝行。)種明しをしますと、七七句が勝つように意図的に、七七句より点数の低かった、同じ作者の五七五句を選んで対戦させたものなのです。
 このように、だれでも時には五七五句より高得点の七七句が詠めます。もし七七句を完全に否定するのなら、ここに挙げられた程度の五七五句も駄目なのでは。でも、私達は日夜山ほどの五七五の駄目句を生産し続けているではありませんか。七七句も弛まず多数作り続ければ、多くの人に愛誦される名句の生まれる可能性はゼロではないと思うのです。

月報「鬼」253号(2018年6月16日発行) より

寒極光・虜囚の詠~シベリア抑留体験者の俳句を読む~⑮  のどか

第2章‐シベリア抑留俳句を読む
Ⅳ 庄子真青海(しょうじ まさみ)さんの場合(1)
 庄子真青海さんは、大正15年5月17日、樺太大泊富内町に生まれる。本名庄子正視、会社役員。昭和20年6月末、樺太第88師団(通称要兵団)麾下(キカ)のこの年5月に再編成された歩兵第306連隊に現役兵として入営。程なく終戦のため樺太内路山中にて抑留の身となる。昭和23年5月樺太真岡港より函館港に帰還。※麾下(キカ)とは「ある人物の指揮下にある」の意味。

 以下*は、『シベリヤ俘虜記』『続・シベリヤ俘虜記』の作者随筆と庄子真青海さんの句集『カザック風土記』を参考にした筆者文。

『シベリヤ俘虜記』(望郷・抑留句抄)『続・シベリヤ俘虜記』『カザック風土記』から

   日ソ無名戦死碑建設
 「生きて虜囚の」茜砕きて斧振う(シベリヤ俘虜記)(カザック風土記)
*この句は、『シベリヤ俘虜記』に〝日ソ無名戦死碑建設”の前書きがあるが、庄子さんのカザック風土記には、前書きなしで載せられている。前書きなしでは、「生きて虜囚の辱めを受けず」の戦陣訓に呪縛され生き残ったことを恥と思いながら、夕焼けのなか強制労働をしていると解釈してしまう。
 一方、前書きのある句では、庄子さん自身も「生きて虜囚の・・・」の語句の重さに捕虜の身の複雑な思いを深くしながら、戦場整理と日ソ無名戦死碑建設に携わり、夕焼けに赤く染まる樺太の地に斧を振るい、戦に死んでいった人々の亡骸を埋め弔った事実が明らかになる。
 『続・シベリヤ俘虜記』の随筆には、樺太内路山中をさまよい、1945(昭和20)年8月23日に武装解除を受け、上敷香の旧日本軍の兵舎へたどり着いたとあり、そこでの出来事を庄子さんは、『続・シベリヤ俘虜記』P.73で以下のように書いている。

上敷香に凡そ3千人は終結させられたであろう日本軍将兵の大集団も
 9、10月にかけて将校集団がいずこかへ送られたあと、1千人単位の労働大隊の幾つかに編成替えされながら、北緯50度の旧ソ連地区を越え、ソ連領北樺太の第56狙撃師団の終結地になったというオノール・あるいはアレクサンドロフを経由、一部は沿海州に渡りシベリヤ各地の抑留地へ散ったという。この事実は復員後、戦友らの多くの証言によって知ったのであるが。
 そして最後まで残された私たち労働大隊も、激戦の場となった国境、古屯などの戦場整理に移動した後の11月末、それまで建立作業に従事していた「日ソ無名戦士の碑」の完成を待っていたように、新たなる苦役の地、泊岸炭鉱を目指し南下移動してゆく。
 9、10月にかけて将校集団がいずこかへ送られたあと、1千人単位の労働大隊の幾つかに編成替えされながら、北緯50度の旧ソ連地区を越え、ソ連領北樺太の第56狙撃師団の終結地になったというオノール・あるいはアレクサンドロフを経由、一部は沿海州に渡りシベリヤ各地の抑留地へ散ったという。この事実は復員後、戦友らの多くの証言によって知ったのであるが。 そして最後まで残された私たち労働大隊も、激戦の場となった国境、古屯などの戦場整理に移動した後の11月末、それまで建立作業に従事していた「日ソ無名戦士の碑」の完成を待っていたように、新たなる苦役の地、泊岸炭鉱を目指し南下移動してゆく。

   国立農場
 白夜耕す余力なき身に余力ため
*庄子さんが昭和51年4月15日に刊行した『カザック風土記 庄子真青海句集』卯辰山文庫のP.174~175には、無聊をかこつ抑留所に「若草会」というグループができて、ここで草皆白影子を知ることになる。草皆白影子こそは、真青海半生の無二の親友であって、ノーマル作業に苦しむ生来蒲柳の真青海を自分の作業グループに引き入れ、軽作業に回すなど庇護してくれたとある。
 さて、北極圏では夏至のころに白夜となる。日中にもノルマを課せられた上に、さらなる残業になったのか、ノルマが終わらず白夜のなかで、国営農場の畑を耕しているのか。蒲柳のとは「蒲柳の質」を省略したものか、体質がひ弱であった庄子さんは、もう力の残っていない体から絞り出すように力をためて一鍬一鍬耕すのであった。

 かさね臥し誰の骨鳴る結氷期(シベリヤ俘虜記)(カザック風土記)
*収容所(ラーゲリ)のベッドは蚕の棚のように段々に作られている。結氷期には、横向きに重なりあい、お互いの体温で温めあって眠る。寝返りにやせ細った四肢や骨盤を動かす音が聞こえてくる深夜である。

 昼寝覚め香煙硝煙いずれとなく(続・シベリヤ俘虜記)
*昼寝から覚めると焼香の線香の煙か火薬を爆発させた煙のいずれでも無い臭いがしているとあるが、誰にも機関銃の火薬の匂いであることは明白である。この煙を暗に香煙ということにより、誰かが死んだことを示している。この句の背景には、炭鉱の苦しい作業に耐えかねた仲間が、脱走を計ったが警備兵の機関銃に撃たれたエピソードがある。それについて、「続・シベリヤ俘虜記」P.75を紹介する。
 
 露天掘りで、炭層が露出するまでの厚さ2、3米から処によっては5、6米に及ぶ丘陵の剝土作業の辛さ。ことに冬将軍吹き荒れる12月から3月にかけて、石のような凍土の地表を発破をかけながらすすめてゆく。この発破をしかけるための穴掘り作業は修羅場である。沸らせた薬缶の湯を注ぎながら、長さ六尺ほどの鉄の棒を間断なく上下させては掘りすすめてゆく捕虜たち。日もすがら寒風荒ぶ丘陵に幾十人も点々と隔たりをおいての個の作業は、冬期でもあり、また冬期であるがために課せられるそれは、当然のように規定のノルマにはほど遠い。(略)
 そんな日々が続いた或日、この地獄の責苦に耐えかねてか、二人の捕虜仲間が深雪の中を腰まで埋めながら、白昼の脱走を計ったが,神は遂に二人に味方せず、山頂に据えられた警備兵の機関銃掃射の前に雪を鮮血に染めながら若い命を散らす事件が起きた。
 そんな日々が続いた或日、この地獄の責苦に耐えかねてか、二人の捕虜仲間が深雪の中を腰まで埋めながら、白昼の脱走を計ったが,神は遂に二人に味方せず、山頂に据えられた警備兵の機関銃掃射の前に雪を鮮血に染めながら若い命を散らす事件が起きた。

 借命や撃たれきらめく宙の鷹(シベリヤ俘虜記)(カザック風土記)
*警備兵の機関銃で撃たれきらきら光りを残しながら、落ちてくる鷹に、この世の命は借りの命であると洞察し、自分の運命に重ねるのである。
(つづく)

参考文献
『シベリヤ俘虜記~抑留俳句選集~』小田保編 双弓舎 昭和60年4月1日
『続・シベリヤ俘虜記~抑留俳句~』小田保編 双弓舎 平成元年8月15日
『カザック風土記~庄子真青海句集』卯辰山文庫 昭和51年4月15日


【抜粋】俳誌要覧2019年版(東京四季出版)「結社誌・同人誌のあゆみ2018」【俳句新空間】


【俳句新空間】
発行人=北川美美・筑紫磐井
創刊=平成26年2月
理念=新しい時代の俳句媒体誌として開始した超結社BLOG「俳句新空間」記事を活字にすること

  かつて「豈weekly」の巻頭言に高山れおなは「俳句など誰も読んでいない」と綴った。現在個人句集が続々と刊行される中、読まれない俳句のなんと多いことか。そこで小誌の母体「BLOG俳句新空間」では作者自身がプロデュースする句集鑑賞コーナーを設けた。二〇一八年は、西村麒麟『鴨』、黄土眠兎『御意』、辻村麻乃『るん』を採り上げ作者が原稿依頼から入稿までを担う方式。時に五〇を超える寄稿数の場合も。自身の句集を自らの依頼で開いえてもらうことになる。現在二〇一九年の連載予約も入る盛況ぶり。この鑑賞連載はしばらく続きそうだ。
   冊子は年二回発行。9号は金子兜太追悼特集、平成雪月花自選集。10号は創刊以降の自己精選集を掲載。また前号鑑賞を小野裕三、もてきまりが丁寧に論じる。前衛、伝統、世代を超え60名近い参加者。(文・選/北川)

どこからが国のはじまり春霞 筑紫磐井
朧夜につかんではなす豆腐かな 北川美美
うす墨となり雪原の川消ゆる 青木百舌鳥
春の木を敲けば応と兜太の声 網野月を
寝たあとの耳を慕いてアナタは蚊 池田澄子
金魚玉のぞけば赤の溢れだす 飯田冬眞
ピカピカの缶蹴りの缶空に虹 内村恭子
毎日を生まれて死んでピーナッツ 近江文代
万華鏡に満ちたる挽歌あけやすし 大井恒行
骨の軋むような常闇がくる 大本義幸
ほぼ空の大きさである初詣 小野裕三
西を向く頭蓋と頭蓋風花す 加藤知子
結界の外れにからすうりの花 神谷波
お辞儀するやうに体操蕗の薹 岸本尚毅
夏痩せの男全員島流し 木村オサム
河と川出会ひて滾つ青楓 五島高資
秋蝶やメルトダウンする真実 坂間恒子
永き日の空缶拾い(アルミだけ)佐藤りえ
蓮咲いて明日の吾をうつす水 下坂速穂
殺されて牛の肉喰む汗の顔 杉山久子
老い縮む国なり冬のスーパーも 関悦史
蛇を打ち殺せしイブのけだるさよ 仙田洋子
空蝉や音をたてずに崩れ去り 曾根毅
めくらみ登る炎帝の赤膚は 高山れおな
飲食はかなしきならひ天道虫 秦夕美
飛花落花鎖骨のくぼみさみしがる 羽村美和子
目嗔らせ千葉真一や寒稽古 林雅樹
手の中に真白き小石うららけし ふけとしこ
蛇好きですよ靴も財布も 渕上信子
風船を曳き魂は黒い汽車 堀本吟
風紋の果てに毛羽立つ枯草よ 前北かおる
噴水の芯に少年サンテグジュペリ忌 松下カロ
はくれんの蕊の暗がり予言の書 真矢ひろみ
揺れやまぬN個の個性土佐水木 もてきまり
水中花愛に言葉は不要かな 夏木久
レーニンの帽子の中の雪崩かな 高橋修宏
故郷に騙されていて春の風邪 中村猛虎
いつせいに亀鳴く昼のありぬべし 仲寒蝉
吊革に腕老いてきし十二月 渡邊美保
葬送や赤き満月押し上げて 福田葉子
いにしえの句読点あり雪月花 神山姫余
秋の蝶涙のあとを舐めにくる 田中葉月
大いなるものに引かれて花野かな 辻村麻乃
可愛がりすぎて兎が肥りけり 椿屋実椰
大ぶりにしてあをあをと汗拭 依光正樹
むかしから住んで木の枝払ひけり 依光陽子


※「俳誌要覧2019年版」より一部転載。