2021年1月29日金曜日

【連載通信】ほたる通信 Ⅲ(6)  ふけとしこ

 
   握手の形
新年を皇帝ダリアが見渡せる
ジオラマの人に影ある寒の入
道頓堀宗右衛門町雪こんこん
甘露煮の魚の眼抜けて久女の忌
手袋を握手の形に置いてみる

   ・・・
 晩年の父母が夕食の後向かい合って日記を書いていた。父は日記を付けることを習慣にしていたが、母にそれはなかった。おそらくボケ防止という意味もあって父がすすめたのであろう。二人とも十年日記を使っていた。書くことがあるとか無いとか言い合いながらペンを動かしていたものだった。母が先に逝き、三年後に父が逝った。最後の十年日記は父母共に使い切ることができなかった。
 私の今年の初日記はまさに名の通り、真新しい日記帳だった。十年日記を使っていたが、七十歳になった時に五年日記に替えた。それを使い切って五年日記も二冊目になった。
つまり、私は今年の誕生日をもって後期高齢者になるということだ。

 ためらはず夫は十年日記買ふ  ミドリ

  思い出した一句である。まだまだ生きるつもりらしいわ、とは作者の弁であった。

 穏やかな日と記しけり初日記   愛子

  昔の句会で出された句だが何故か憶えている。作者の愛子さん、今もお元気だろうか。
 今年の目標は? と聞かれた。「とりあえず新型コロナウイルスに感染しないこと」と答えた。本当に感染せずに一年間過ごしたいものである。
  それにしてもコロナとは……言葉が先行して今やウイルスだけのことのように言われている。
  理科の教科書に載っていた日食の写真、そして実際に皆既日食を見た時のあの感動、それだけでよかったのに……。

(2021・1)

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