アパートメントハウスより 小津夜景
この盤の音は絶えたり庭たたき構造をもつこと。それこそが喪失だつた。わたしはいつか骨のないかたちへと動いてゆくだらう。しげしげと、文字を見つめ尽くしたあとで。
秋の蚊にふと連弾の手を浮かす
みぞをちにひぐらし鳴くをドアに告ぐ
こゑが多すぎて小鳥が来られない
ごくまれにしづかに宵を狩りにゆく
音盤の匂ふはいつのいざよひか
もびいるの泛かぶるかなの月となる
来よやわが秋の閑居をひらくとき
在りし日の風立ち風に袖あるかな
忘れなむたれを棗の実の中で
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