2014年9月5日金曜日

【小津夜景作品】 No.37




アパートメントハウスより    小津夜景

構造をもつこと。それこそが喪失だつた。
わたしはいつか骨のないかたちへと動いてゆくだらう。
しげしげと、文字を見つめ尽くしたあとで。
この盤の音は絶えたり庭たたき

秋の蚊にふと連弾の手を浮かす

みぞをちにひぐらし鳴くをドアに告ぐ

こゑが多すぎて小鳥が来られない

ごくまれにしづかに宵を狩りにゆく

音盤の匂ふはいつのいざよひか

もびいるの泛かぶるかなの月となる

来よやわが秋の閑居をひらくとき

在りし日の風立ち風に袖あるかな

忘れなむたれを棗の実の中で












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