●LOTUS13号(2009年4月)
緑星はるかにⅢ
書くと句書き書かぬと句書きヨウ
伝えたきこと無き春は伝えがたき日
歩行より想える空のあけぼのや
ダダダダッダ眠気に寒気影叫び
蓮の実や父置き去りし母の家
紅椿触れぬ母の白き手の動線
ヨタヨタと爪先立ちで交差路や
旅反旅困難一字と鳥追い人
鳥追いて黒クッキーの家の灯よ
進むべき苦あり蓮華あり世は
音はずれ半音さがすは死の床か
シャツ・カバー裏返した夜記憶組む
眠りへとまぶたのうらの洗水盤
捨て子だった五つ又辻岐路消えし
さざんかの見知らぬ笑顔祝祭や
●LOTUS14号(2009年9月)
風の
台風一過畳十枚一家あり
春月やまどろむ身体静止せり
蓮池の端の泥にて芽ぶく青
病身のいたどり噛みき少年期
せり洗う泪の記憶洗う池
さざんか道捨て子恐き道咲き巡る
ひとりまた「青物」へ走る端境期
歩く夜やひとりのふたり風の宿り
日輪や首と手首とひまわりと
眼底の黒色混濁光の粒子
永遠や生死の境夜鷹燃ゆ
彼岸へと渡る橋板の下人柱
陽降る世や黄泉路の小石も温かき
今は昔吾子喰らう山婆よ
枯蓮やあるはずもない愛しみ金輪際
奥の
●LOTUS15号(2009年12月)
物狂い
神話食う紙魚いっぴき蛇の尾へと
無なしの森の
萩野原さまよう老婆よ翁面
夏萩や殺しそこねた日神我が子
青野走る殺しかけても児は走る
旅立つ日の黒白混濁光の粒よ
窓枠の光の帝国黒き樹々
背に触れたホラ父の骨忙しき冬
枯野原しゃがむ背後の岩鏡
虐待の光の国の聖母踏む
紅ほんのり髪つややかになじる母
アーフラよ愛などあげぬ山あざみ
詩人の名は北の根に眠る詩の明り
雪野原ナロード根っこへひた走る
『シベリアに逝きし46300名を刻む』書物
眼底や波紋となりし落つ涙
添い寝るは汚れ書物と天道虫
死の灰の赤きカンナも色音色
黒泥に飢餓やさしき男よろめく目
自殺などありやなしやと麦畑