2023年6月9日金曜日

救仁郷由美子追悼⑨  筑紫磐井

●LOTUS11号(2008年7月)


「緑星」遥かにI

朝焼けの光の直線発芽せよ

悲しみの萌える山河よ黄泉の樹々

雛共に写真立て置く眠り逝く

笑いつつ転ぶ風迫う梅林

幼児(おさなご)の月光青き花の木々

さくらちる雨滴はげしき泥の川

春霞ニーチエ枕の人類夢

まなざしとまなざしかわす海彼方

同行や愛しき指に(はちす)の実

恣意隠蔽平穏無事や四季の歌

殺傷や朝のお茶漬け終る頃

虐殺逃れ少女の飢餓よ日輪よ

瓦礫に木爆心地上蝉飛来

観作旧へ夜叉変化(へんげ)せり爆撃の村

すがめの君の自画像逆さもず鳴けり

日没の民反乱す新王や

地球自転敵後方に斜め横

裏切りの右肩疼く左翼(びと)

二十歳(はたち)の日暮中也悲しみ救済や

耕衣・浩司花野に笑う足裏かな


●LOTUS12号(2008年11月)

 緑星はるかにⅡ

明日となれ君は見上げる夏の空

無きがまま責なき責あり花いちもんめ

在るがまま責なき責負う寒満月

夢の世の泥に遊ぶやねぎぼうず

龍神の受胎告知か北の麦

泣き歩きはあーるのおがわは陽に遊ぶ

悲し声ぶなのこもれび楽し声

赤長靴雨雨降れ降れ母無き道

満月光赤目の子鬼出で翔けよ

百雷や生み出す力促す力

日と風と歩幅大きく夏大地

ひかりへと螺旋のぼりゆくいのちあり

老い肌の硬き爪立て老松硬し

彼方より明日開く本届きますか

暗闇夜光の粒へと鳴く鴉

しそしょうがとうふのかどの邪気の顔

夕やけや前方(まえ)跳びはねて和のリズム

光の渦へ夢追い追いてよだか星

永劫よ降りて晩夏の岩台地

青光の吸盤にて駆ける幼虫哉

虐殺は血に染められて地図一枚

黒林へ灰色樹林連なりし

日輪の民は逃げ逃げ夏萩原

黄泉の国逝く身の足元燈籠や

鬼子母詣り母となりえぬ産屋より

虫くいの蓮の花籠ささげましよう

れんこんや白骨となり切り落ちる

核の冬微毒毒々地球(テラ)点描

触れたから死の寝台の脚抱く

鷹ひとつ深山の淵より遊び