98.青白き麺を啜りて遠くゆく
「青白き麺」は青白く見えた麺、素麺のことだろうか。これも「流れる」句という分類に入ると思っている。麺を啜るのは、質素な中に粋がある日本の独特の文化である。「啜る」という行為がみじめであるし、それもこれから遠くへゆく、彷徨うのである。恰好の俳句の題材と思える。
隠者文学ともいえるこの美意識が『眞神』そのもののように思えてきた。
何故遠くゆくのか、遠く行かねばならないのか。自分の意思とは反して遠くゆくことを示しているようだ。なにやら明るくない雰囲気だ。麺が青白きことも、遠くへゆくことも溌剌(ハツラツ)としていない。暗い室内で麺を啜っている一人の男の姿を想像する。麺を啜ったのは自分の意思のように思えるが、遠くへゆくことは、意思とは反したことのように思えてくる。
人に追われたから遠くへ行くのか、それとも死を覚悟した遠く、黄泉の国のことなのだろうか。胃に何か入れてゆかないと遠くまでいけない、遠くへ行く覚悟ができている。その距離を作者は知っているのだ。
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