2013年5月3日金曜日

最新版!:日本気象協会「季節のことば37?選」

「二十四節気論争――日本気象協会と俳人の論争――」を4月まで連載してきたが、日本気象協会は、二十四節気見直しに関し、4月25日付で「季節のことば36選」を選定したと発表した。

http://www.jwa.or.jp/content/view/full/4979/

気象協会が発表している文書はHP内に複数あるので紛らわしいが、読んでみると次のようなことが書かれているようだ。

これに対する批判は末尾にまとめて書いたのでご覧頂きたい。

【発表内容(筑紫が抜粋)】

1.経緯

「日本気象協会では、平成23年(2011年)2月より、現代の季節感にあう「新しい季節のことば」を提案するための取り組みとして、「日本版二十四節気 専門委員会」を設置し議論を行ってまいりました。

その結果、いにしえより伝わる二十四節気の重みを重要視し、委員会名を「“季節のことば”選考委員会」と変更し、二十四節気とは別になじみのあることばや、最近の風物詩となることばを選び「季節のことば36選」を選定することにしました。」

「この冊子は、「季節のことば選考委員会」が厳選した“季節のことば36選、二十四節気ひとこと解説”や、自由な感覚で応募された“ことば”をとりまとめたものです。」

「今回の取り組みは、二十四節気を変えるものではありません。取り組み開始当初、「新しい季節のことば」には“日本版 二十四節気”とキャッチフレーズがついていたため、「従来からの二十四節気を否定する、変更しようとしている」というとらえられ方をされて取り組み自体に反対意見も多くでました。誤解を避けるため、取り組みを進める中で当初のキャッチフレーズは封印し、「季節を感じることば」を応募する方々の自由な感覚で記載していただきました。 
季節のことば選考委員会では、一年のめぐりを二十四の言葉で表現している「二十四節気」のひとこと解説もつくりました。伝統ある二十四節気はこれからも親しんでいきたい“季節のことば”の1つです。」

2.季節のことばの公募

「2012年8月~12月には、あなたが感じる「季節のことば」と題して、広く一般の方から季節のことばを募集しました。 
その結果、寒暖に関するつぶやきから、行事、服装など身近な生活のこと、食べ物、植物、動物、地名・人物名まで5000件を超えるご意見(春夏秋冬の各季節1200以上)、ことば数としては1588件(各季節400程度)のご応募をいただきました。」

3.37の季節のことば

「2013年3月、8人の委員とともに選考委員会を開き、人気のあることば(応募数の多い言葉)や、季節の先取り感をイメージできることばに焦点を当て、「季節のことば36選」を選定しました。「季節のことば36選」は、ひと月あたり3つのことばを選定したことにちなんだ呼び名です。(実際には、7月は3つに絞り込むことができず、4つのことばを選定し、全37個となりました。)」

では37の季節のことばをながめてみよう。ほとんど既存の季語のようである(少し表現が違うのは、「蛍舞う」「木枯らし1号」ぐらいであろうか)。

1月 初詣、寒稽古、雪おろし
2月 節分、バレンタインデー、春一番
3月 ひな祭り、なごり雪、おぼろ月
4月 入学式、花吹雪、春眠
5月 風薫る、鯉のぼり、卯の花
6月 あじさい、梅雨、蛍舞う
7月 蝉しぐれ、ひまわり、入道雲、夏休み
8月 原爆忌(広島と長崎)、流れ星、朝顔
9月 いわし雲、虫の声、お月見
10月 紅葉前線、秋祭り、冬支度
11月 木枯らし1号、七五三、時雨
12月 冬将軍、クリスマス、除夜の鐘

応募された季節のことばで比較的件数の多かったものが参考で掲げられているので示す。傍線を付したものは、「37の季節のことば」と厳密に合致するものである。言葉の問題であるので、「木枯らし」と「木枯らし1号」、「紅葉」と「紅葉前線」などは異なるものとして扱った。

●「春のことば」(数字は応募者数)

「入学式」(17) 「春一番」(17)「花粉症(くしゃみなど)」(15)「雪解け」(14)「春眠(春眠暁を覚えず、眠気など)」(13)「春がすみ」(12) 「ふきのとう」(12)「桜」(12) 「芽吹き」(11)「花祭り」(11) 「つくし」(10)「菜の花」(9) 「震災」(9)「おぼろ月」(8) 「花吹雪」(8)「春風」(8) 「鯉のぼり」(8)

●「夏のことば」(数字は応募者数)

「蝉しぐれ」(19) 「夏休み」(19)「入道雲、積乱雲」(17)「海水浴」(16) 「花火(16)」
「お盆」(15) 「七夕、七夕祭り」(13)「夕立」(11) 「雷、雷雨」(11)「夏祭り」(11) 「梅雨」(10)「ひまわり」(9) 「蝉」(9)「節電」(9) 「夏至」(8)「熱帯夜」(8) 「梅雨明け」(8)
「高校野球、甲子園」(8)

●「秋のことば」(数字は応募者数)

「紅葉」(18) 「運動会」(16)「落葉」(15) 「紅葉狩り」(14)「冬支度」(13) 「稲刈り」(13)
「台風」(10) 「秋分」(10)「いわし雲」(9) 「コスモス」(9)「夜長」(9) 「学芸会」(8)「小春日和」(8)「キノコとり」(8)「七五三」(8)「秋刀魚(サンマ)」(8)

●「冬のことば」(数字は応募者数)

「木枯らし」(16) 「クリスマス」(16)「冬至」(15) 「こたつ(こたつで丸く、こたつでみかん等)(14) 「雪かき」(13)「」(12) 「霜柱」(10)「白鳥、白鳥飛来」(10)「冬休み」(10)
「スキー」(9) 「マラソン」(9)「オリオン座」(8) 「冬ごもり」(8)「冬靴( 長靴等)」(8)
「鍋」(8) 「大掃除」(8)

4.新しい季節区分

気象的な区分と暦学や文学的な区分を両方掲げて、一つにまとめるという考え方は取らないこととした。

気象的な区分       暦学や文学
春  3月・ 4月・ 5月   立春(2月はじめ頃)~立夏(5月はじめ頃)
夏  6月・ 7月・ 8月   立夏(5月はじめ頃)~立秋(8月はじめ頃)
秋  9月・10月・11月  立秋(8月はじめ頃)~立冬(11 月はじめ頃)
冬  12月・ 1月・ 2月  立冬(11 月はじめ頃)~立春(2月はじめ頃)

5.新しい24節気の解説を「季節のことば選考委員会」で行っている。

6.著作権の扱いについて

今回発表された季節のことばについては、著作権等による制限があることは書かれていない。

7.補足的な委員の意見

暦の会会長 岡田芳朗氏「“今日の日本人の季節感にふさわしい新しい二十四節気を考えてみよう“という趣旨の日本気象協会の提案は、社会に大きな反響を巻き起こしました。特に暦や季語に関心をもつ人達は強い衝撃を受け、早速反発する人もありました。

しかし、東洋文化の精華であり、日本の伝統や文学の根源として、天与の存在のように考えられてきた二十四節気について、改めて現代の視点から考察し直す機会を生むこととなりました。

その結果、日本の季節を表すのにふさわしい言葉を一般から募って「季節のことば36選」となり、やや難解な古代漢語を易しい日本語で表した「二十四節気ひとこと解説」としてまとまりました。
これは、これから日本人が季節を考える時に大切な拠所となるものと思われます。」

   *

国立天文台暦計算室長 片山真人氏「オリオン座など星座を挙げた方もおられましたが、星座の多くは時間次第でほぼ1 年中見られますので、星座で季節を表現するにはいつ、どの方向に見えるかといった情報も必要です。たとえば、ふたご座の和名「かどぐい(門杭)」は旧正月の夜明け頃、ふたご座が西の空に縦になって沈んでいく様が正月の門飾りに似ていることに由来しますし、アークトゥルスが麦星・麦熟れ星・麦刈り星などと呼ばれるのは、麦が熟れる5 月下旬~6 月上旬頃に一晩中眺めることができる星だからです。」

【感想と批判】

①季節のことばは37である。公表した表題の「季節のことば36選」と齟齬があり混乱が生まれそうである。【注1】

②伝統ある二十四節気はこれからも親しんでいきたいとしている。また、個々の季節のことばはほとんど既存の季語と合致している。

③必ずしも応募で寄せられた季節のことばの上位が採用されているのではなく、「季節のことば選考委員会」が独自に提案したものが多い。また、その根拠も示されていない。【注2】

④季節を、「気象的な区分」と「暦学や文学的な区分」に分けたのは、この種の問題に相対的な視点を採用したもので適切であると思われるが、実は世界にはもう一つ重要な区分があるはずであり、それは「キリスト教や天文学的な区分」である(倉嶋厚著『日本の気候』などによる)。例えばキリスト教の重要な儀式の復活祭はこの区分によって行われている。多様化する国際社会の相互理解のためにもこうした慣習があることは示してもよかった。

春 春分(3月下旬頃)~夏至の前日(6月下旬頃)
夏 夏至(6月下旬頃)~秋分の前日(9月下旬頃)
秋 秋分(9月下旬頃)~当時の前日(12月下旬頃)
冬 冬至(12月下旬頃)~春分の前日(3月下旬頃)

⑤歳時記の季節区分とその考え方の整理は難しいものだが、今回の季節のことばでも十分な解説がないため理解困難なものがある(一般の人には冬支度等もそうであろう)。【注2】

冬:春一番
秋:木枯らし1号、時雨

⑥季節のことば選考委員会の行っている新しい24節気の解説はおおむねが分かりやすい通俗的な表現になっているが、一部で全く別の事項の解説をしてしまっているものがある。これは解説を超えており(4月5日の解説、5月21日の解説というならまだ分かるが)、「今回の取り組みは、二十四節気を変えるものではありません」と言っているにもかかわらず、二十四節気を変えてしまいたいようだ。小満、芒種は気象協会が日本版24節気を提案した時、常に批判していた在来の節気である。

清明:麗か(本義は、清浄明潔な春のよい時期の意味で、踏青のシーズン)
小満:若葉の輝くころ(本義は、陽気盛んで万物が長じて満つる時期という意味)
芒種:麦の熟れるころ(本義は、禾(のぎ)のある穀物を蒔く時期と言う意味)

⑦日本気象協会の作業はこれで終わりになるようであるが、気象協会メセナでの発言や今回の委員意見などから見ても、岡田芳朗氏が24節気見直し問題の発端を作られた張本人であるように思われるので、岡田氏は「日本人が季節を考える」道筋を今後しっかりと示される責任があろう。


【注1】
気象庁地球環境・海洋部帰国情報化予報官前田修平氏は、「1ヶ月を2つに分ける(24)節気は、現在気象庁では使わない。上旬中旬下旬という月を3分割した36(10日なので「旬」という)を用いる。さらに72に分けた「半旬」(5日)を用いることもある。」と述べられており、36区分は一応合理的と考えられる。しかしそれは、3つのことばが月内の厳密な季節区分になっている(当該月の上旬、中旬、下旬ごとに対応することばとなっている)ならば科学的であるということである。1月の特徴をなんとなく3つないし4つのことばで示すとすると余り気象学的な配慮が働いているとはいえないであろう。

【注2】
現代俳句協会は平成11年に新しい季節区分に基づく『現代俳句歳時記』を編纂したが、この時は5年間に渡り延べ60回の委員会を開催して矛盾点を洗い出した。たった1回の「季節のことば選考委員会」でどれほどの議が尽くされたのかやや不安である。

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