2013年3月1日金曜日

平成二十五年 春興帖 第一

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          筑紫磐井

野の霞やんごとなきも俳枕

春水に誰も知らずやオノマトペ

春の背広ボロボロに来て巴里へかな

   麒麟が結婚したといふ

ウエストを細くしてねと春曙

 

          藤田踏青

初凪の尖閣諸島地図の上

若水を供へ太くする心柱

初茜はるかなはるかに大東亜

一戸点し春灯という脚色

モノクロをはみ出してくる比良八荒

 

          福永法弘(「天為」同人、「石童庵」庵主)

春泥や姉と通ひし珠算塾

下目板張りの分校春氷柱

春の雪いま何もかも美しく

あらまほしきことをのみ見し春の夢

若菜摘む武よりも文に血は滾り

 

          早瀬恵子「(豈)同人」

去(い)ん候猫は猫色あたたけし

美姫の肺天に召されし胡蝶蘭

マカロンの「ジュテーム」めけり浅き春

 

          網野月を(「水明」同人)

春愉し弄って覚える電子機器

愉し春下の方から夜は温し

振袖に隠した尻尾春愉し

 

          田中悠貴(『狩』会員)

カーテンを洗へばびろうどの春か

一枚の異国の春衣となりぬ

白き貝積もるに任せて春の浜

 

          前北かおる(「夏潮」)

パンジーや赤紐とほすスニーカー

甲冑を脱ぎて四葩の芽なりけり

犬ふぐりに屈みゐたれば牛の声

 

          山崎祐子(「りいの」「絵空」)

立春の路地おはやうの声あふれ

さまざまな声を遠くに山笑ふ

桜餅生れたての句を持ち寄りて

 

          小川春休(「童子」同人・「澤」会員)

  蕪村の春興帖を思へば、画無き春興帖さみし。

春興帖はだか祭の画の欲しや

箸鳴らし箸さがしをり雲雀東風

如月や揚げてちぢみしたちのうを

 

          杉山久子(「藍生」「いつき組」所属)

亀鳴くやかなしきものに袋とぢ

春昼の煮詰めるものに牛の舌

蜷の恋苦手なものに自句自解

 

          後藤貴子(「鬣」)

試験管さくらの舌を零しける

俎の血豆や穢土の枝垂梅

桃の花ひとりふたりとけそうせり

 

          北川美美(「豈」「面」同人)

玉乗りが天職である春愉し

東西や百万匹の猫の恋

杭と杭つなぐ赤紐春の暮

春昼のオペラ★劇場支配人

 

          月野ぽぽな(「海程」同人)

島あれば港もありぬ猫の恋

馬と居て馬と目が合う春の草

うららかや丘から見える他の丘

 

          しなだしん(「青山」「OPUS」「豆の木」)

東京の端つこの海春立つ日

店の戸にすがつて亀の鳴く日暮

春泥のひかりの中にゐて尿意

 

          林雅樹(「澤」同人)

横切れば灯る玄関春の雪

春月に立ち食ふ蕎麦や秋葉原

アリーナに春の灯としてペンライト

 

          仲寒蝉

春水にまづ触れにけり薬指

春風や巨大神像から涎

春の闇人のかたちになれば抱く
 
 
 

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