ひそひそ
春光や頬骨高き女の絵
惜春やアッサムティーを濃く淹れて
暁暗をひそひそひそと幣辛夷
行く春を律儀に並ぶ碍子かな
命毛を失ふ筆と春の暮
・・・
個包装された菓子は、分け合うのに都合がよくて吟行中や句会の席などで配られることもある。
席題句会の時など、部屋中をキョロキョロしたり、仲間の持ち物に目を留めたり、配られた菓子は無論のこと、それを包んでいる小袋をしげしげと見ることもある。さもしいことではあるがヒントを得なければどうにもならないから。
ある時配られた菓子の袋に、表に蟻を図案化した可愛い絵、裏にちょっとしたお話が書かれていた。
〈(略)〇〇と△△は働きアリの中に休んでいるアリを見つけてアリンコと命名!(略)アリンコの一言「休むことも大事」〉とあった。別に命名なんて大仰に言わなくても、アリンコって昔から言われてるんじゃ……と突っ込みながら読んだのだった。
そういえば何年か前に働き蟻の何割かはサボっているという研究だったか論文だったかが話題になったことがあったような。詳しくは知らないけれど、そう言われれば確かに列から逸れていくものや、1匹だけでウロウロしているのも確かにいる。
随分前のことだが、ある大きな神社で長々と続く蟻の列を見つけたことがあった。どこへ何をしに行っているのだろうかと気になって、追ってみたことがあった。ずーっと続いていたのだが、地面が砂地から小石へと変り、草が増えてきた辺りから列が崩れて、蟻達の姿は見えなくなってしまった。潜って行くような穴も見当たらない。不思議だった。彼らは何処へ消えてしまったのだろう?
働いている! と思える蟻は獲物を運んだり、巣穴へ出入りをしている蟻達。大きな獲物を穴へ入れようとしている時には多くが集まって右往左往している。そうこうしながらも、いつの間にやら穴の中へと引っ張り込んでいるから何とも感心するばかりである。
巣の拡張工事でもしているのかと思えるのは、土の粒などを咥えて出てきてはまた元へと戻って行く彼ら。出入り口辺りへ積み上げられた土の粒は見る見るうちに乾いて白っぽくなる。そこへ地下から運び上げた黒っぽい土がまた加えられる。童話なら現場監督がいて旗でも振っているところだろうか。
熊谷守一画伯ならもっともっと詳しいことをご存じだっただろう。
ありんこに働き口のある晴天 としこ
(2025・4)