油滴天目
風少し欲しき白花さるすべり
油滴天目おはぐろはもう寝たか
朝涼やくれなゐ帯びて神樹の実
かまきりが雄の目玉を食み落とす
茗荷の子地を這ふ霧に尖りては
・・・
汕頭のハンカチーフのやうな嘘 行方克己
『肥後守』より
汕頭の白ハンカチの別れかな 栗林 浩
『あまねし』より
最近頂いた句集に見かけた俳句。2句続いたので心に残った。片や嘘、片や別れ……。ハンカチの存在感がポイント。汕頭とはスワトウ。その刺繍を施したハンカチのことである。ヨーロッパの白糸刺繍も美しいが、こちらは細かなカットワークなども用い、ごく薄くではあるが詰め物をしてより立体感を出している。繊細で丁寧な手仕事。高価になるのも頷ける品である。私の抽斗にも入ってはいるけれど。あまり出番がない。
それで思い出したことがある。
ある時「道端の草を訪う会」(現在私がやっている「草を知る会」の前身)に飛び入りの感じで参加した人があった。どなたかの紹介だったのだろうが、覚えていない。ワンピースだったか、ロングスカートだったかそれも忘れたが、エレガントな装いで参加した人があった。何が目的だったのか分からないままだったが、草木に興味があるようでもなかった。
そして困ったことに香水を匂わせていたのである。山歩きというほどなくても郊外へ出かける時には香水はつけないのが鉄則。匂いにつられてやって来る蜂や虫がいるからである。
さらに困ったことに、川沿いの道の草を観察しながら歩いていて、どこかで汕頭のハンカチを落としたというのである。「汕頭だけど、とても上等なのよ、安物じゃないのよ。いやぁ、どうしよう?」と……。
私にすれば、いい加減にして~と言いたい気分。場違いな格好して来て、場違いな物を持って来て、自分のミスの筈なのに「どこで落としたのかしら?」とそればかり。
私に訴えられても困る。同行者の中に私が探してあげましょうという紳士はいなかったし。
そんなことを思い出して何やら腹が立ってきた。
思い出し笑いならぬ思い出し怒り!
で、件の彼女はこの会へは一度限りで再び現れることはなかった。あれは何だったのだろう。
そういえば、汕頭に限らず薄手のハンカチを持ち歩くことが減った。鞄に入れてはいるが、大方は小振りのタオルを使う。吸水性もよく、アイロンかけの手間もいらず、手拭き、汗拭きとしては本当に楽なのだ。
ある小説(時間潰しのような推理物)を読んでいたら、このタオルが出てきた。いちいちタオルハンカチとこの作家は書いている。そこは汗を拭ったとか、ハンカチを取り出したとかで済む場面じゃないの? と突っ込みたくなった。
いや、ハンカチに限らず、身辺の物のことごとくに対して描写が細かすぎた。細かいなあ、と思いながらもその品々を想像するものだから、ストーリーを追う以上に時間がかかったことだった。と、これはつまらない思い出し笑い……。
(2024・9)