朝日俳壇(2014年2月17日朝日新聞)から
◆雪だるま黒き涙を流しをり (洲本市)高田菲路
大串章選である。洲本市は淡路島に位置している。淡路島は瀬戸内に在って気候は温暖なところと聞いている。であるから普段は雪だるまとは余り縁のない土地柄であろう。テレビか何かでご覧になったのか?それとも今年は二月になって二度の大雪があり、その際に身近に雪だるまをご覧になったのか?後者の様な気がする。雪だるまの目、鼻、口は木炭を嵌め込んで形作られるのがオーソドックスなものである。その木炭から黒い液が滲み出して「黒き涙」になったのである。一読して直ぐに解かる句意である。雪だるまの景を詠んだものの中に、作ったばかりの雪だるまの眼鼻立ちの凛々しさや、翌日の陽光に融けかかった無残な姿を詠んだ句にはよくお目にかかる。類想が多いのだ。が涙を流す雪だるまにはなかなか出遭わない。
句末を動詞「をる」の連用形「をり」にして雪だるまの状態を述べているのが、客観的な叙法となっている。例えば「けり」にした場合、「涙」の見立てと共鳴しているようであるが饒舌になって、あからさまな感情表現になってしまうだろう。
同作者の句は他に
◆雪をんな無人の筈の給油所に
がある。金子兜太選である。どちらも雪をテーマにしていて久しぶりに降った雪に興奮している作者が思い浮かぶ。
【執筆者紹介】
- 網野月を(あみの・つきを)
1983年学習院俳句会入会・同年「水明」入会・1997年「水明」同人・1998年現代俳句協会会員(現在研修部会委員)。
成瀬正俊、京極高忠、山本紫黄各氏に師事。
2009年季音賞(所属結社「水明」の賞)受賞。
現在「水明」「面」「鳥羽谷」所属。「Haiquology」代表。
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