檜の香
秋の日の鉋屑より檜の香
紅葉には早きと鑿を研ぎ上げて
触らせて貰ふ大鋸秋日和
鶺鴒の二羽に流れの青みたる
茗荷描くほんの少しの紅も溶き
・・・
蛇篭を編むところを見た。言葉は知っていたが実物を見るのは初めてだった。
〈夏から秋へかけての大雨などによる出水に備えて、河川を控えた地域では、護岸のために蛇籠を編む。これは、割った竹を直径60~70センチメートルほどの円筒状に編んだもので、長さは2メートルぐらいから10メートルにも及ぶ。使用方法は、その中に石をつめ込み、水流の直接当るところや石積みの崩れかけた部分に据えて補強する。(中略)最近の護岸の技術はコンクリートによって進歩しているのでこういう季節感を持つ風景は、ほとんど見られなくなっている。〉
昭和58年発行の『カラー図説日本大歳時記』(講談社)から引いた。広瀬直人氏の解説である。当時でさえもう見られなくなったというのであるから、現在は推して知るべし。
季語としては、歳時記により、春の部だったり夏の部に入れられていたりするが、ともかく村落の男衆総出の仕事だっただろう。
字数制限のある歳時記の解説からでは見えてこないが、実際の作業としては、真竹を縦4つ割りにして節を落とし、叩いて平たくしてから編むのだという。昔川原で編んでいた時、どうだったかは聞けなかったが、今は道路工事などで地面を固める機械、あれ(名前は知らない)を使用して平たくしているのだということであった。
こういった伝承技術を残しておかねば……と、NPO法人を立ち上げて活動されているグループの人達に教わったことであった。
たまたま行き合わせた植物園のイベントで見かけたことではあったが、ここで出合わなければ私はきっと知らないままだった。それにしても大きな物だ。水の勢いに負けないようにするには、大きく重くなくてはならないにしても。
私はどこで蛇籠を知ったのだろうかと考えてみると、歳時記以前に箸置きだったような気がする。竹ひごで編んだ中に小石を入れた3センチメートルほどの夏向きの箸置きで、蛇籠を模した物。きっとそれで知ったのだ。
(2023・10)