元EU大統領の考える「世界を救うhaiku」
EU(ヨーロッパ連合)の元・大統領であるヘルマン・ファン・ロンパイ氏がhaikuを愛好することはかなり有名な話だ。その氏を招いた小グループでのオンライントーク会(日本英語交流連盟主催)に、友人からの誘いで参加した。
御宿にて
the ocean is still
softly landing waves
a Pacific of peace
海原は穏やか / やわらかに打ち寄せる波 / 平和な太平洋
こんな句を日本で詠んだ氏は、会の前半ではウクライナを含む世界情勢と平和への思いを語り、後半では俳句を語った。その二つは決して無関係ではなく、「こんな世界情勢だからこそ、俳句の重要性は高まっています」と氏は言う。いささか夢想的とも思えるが、むしろそれゆえに今の世界には大切なメッセージとも感じた。その発言要旨を紹介する。
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今の世界は複雑に関連しあい、ひとつの不幸な出来事はすぐに世界全体に影響します。俳句のシンプルさはそれと対照的です。複雑な社会でも人生はシンプルになれるのです。もちろん、俳人が世の中の出来事に鈍感だということではありません。彼らはいつも身の周りに敏感で、「今、ここ」を自覚的に生きます。
彼らは、時に自然が人間に厳しい存在になることも知っていて、だからこそより強く調和を求めます。戦争や暴力に反対し、平和を求めます。私には、俳人が戦争に行く姿など想像できません。嫉妬、貪欲、競争、怒り、いじめ、侮辱、などの否定的な感情と俳句は相容れません。
俳句は自己中心的なものではなく、いわば他者中心的なものです。俳句はわれわれをよりよい人間にします。俳人は何よりもまず慎み深いのです。さらに俳句の短さやルールの単純さゆえに、誰もが容易に参加して交流できます。このような他者中心性こそが、分断・多極化し不寛容な今の世界に必要です。
時に、俳句はTwitterと比較されます。でも、Twitterはいつも対抗的な意見を述べ、しばしば否定的で攻撃的になります。一方で、俳句はうぬぼれや虚栄心とは無縁で、Twitterとは真反対です。
世界には例えば四つではなく二つの季節しかない地域もありますが、それが俳句の妨げにはなりません。それぞれの地域の自然と季節の巡りに従った美しい俳句は可能です。世界中のほとんどの言語で、十七音を使って感覚的で美しい俳句が作れます。世界各地で、「俳句」という呼称の元に異なった解釈や実践もされています。でも、それも「俳句」です。私が世界のどこに行っても、俳句を作る人たちに出会ってきました。俳句は真の意味でグローバルなのです。
※写真はKate Paulさん提供
(『海原』2022年12月号より転載)