2023年8月25日金曜日

救仁郷由美子追悼・追加➀  大井恒行・筑紫磐井

  救仁郷由美子全句集のため、私(筑紫)の手元資料でまとめていたが、さらに大井恒行氏に琴座の不足資料を集めていただいたので追加として掲載する。

 これらは「豈」66号でまとめて掲載したいと思う。


●琴座 昭和62(1987)年1月号・422号

以下、耕衣選会員欄「琴座集」より

黒髪のむかしコスモス咲きにけり

火祭や少年固き頬もてり

風吹けり街を移せる酒瓶よ

温もりを肩にふれさす神無月


●琴座 昭和62年2月・423号

子の咳にめざめし部屋に(あかり)あり

大晦日吾子の泣きたる険しさよ

日溜りの白き冬薔薇恋しかり

吾子たちの裸足は白し霜柱


●琴座 昭和62年3月・424号

うたたねに冬日浴びたる黒表紙


●琴座 昭和62年4月・425号

暗闇のシグナル今は昔かな

老夫婦重なる手と手風の春

去年の傷赤き瑕瑾は風に病む


●琴座 昭和63年2月・434号

木々生きしなお緩慢に刻印(こくしる)

木々朽ちて死骸斜めにたたずあり

暗き島ひそひそと声連座する


●琴座 昭和63年3月・435号

寒風に赤き糸干す部落あり

降誕祭ぼんやり街が見えている

凍夜なりあえぬあえずと影を踏む

地球にて折笠美秋自転せり


●琴座 昭和63年4月・436号

まなざしはいのちを愛でる屠殺人

芽ぶくいま親のなき子の処女懐胎

 野原にて乞食のすする白き麺


●琴座 昭和63年5月・437号

地を這いて遊びし吾子に花なずな

確執は振りほどけども菜種梅雨

春の雪あすこすみか隠しおる


●昭和63年6月・438号

五月いま植物園を棲家とす

桜道呼べど応えぬソフト帽

満天星の花は静穏落涙せり

縁側に花瓜草と足の裏


●琴座 昭和63年7月・439号

黒猫は(から)の巣箱を追憶す

満月と黒き猫とが影をうむ

恋猫よ仮の宿での宙ぶらり

緊密に恋猫一夜を鳴きとおす


●琴座 昭和63年8月・440号

六月に逝くは船長の喉仏

悲しみ故ふたつながらも分かちえぬ

黄水仙ナルシスいまも花弁なり

五月死す薔薇の深紅とアフロディテ

土に臥すゴッホの頭上鶫飛ぶ


●琴座 昭和63年9月・441号

昼下がり抜歯サディズムと思いけり

人肌のとどかぬ温み記憶せり

半島に灯火反映す黙すひと

鳳仙花朝鮮咲きし子守歌


●琴座 昭和63年10月・442号

すだれさげ戦争語る八月よ

盆が来て母の笑顔は遠かりし


●琴座 昭和63年11,12月合併 443号

まどろみて昭和ののちの首都の雨

野に死して怒れる喉に痛みあり


●琴座 昭和64年1月・444号

生臭い肩先の冷えとけぬ日々

夢盗人泥地の海に潜んでる

夕映えに夢をかぞえて貼りつけし

何は無しプルトニウムと地獄絵師


●平成元年2月・445号

乾いた空眠れぬ夜明けの呼吸する

玄米の一膳飯と暮らす仲

宙返りの風のたまりに狐鳴く


●琴座 平成元年3月・446号

年越しに年男年取りて待つ忘却

老醜はスタンプなりし詩人を愛す

冬富士の見やる乞食も重ね着し

暖冬も飢えをかかえて眠る山羊

子は眠る明日は幾重も与えたし


●琴座 平成元年4月・447号

空虚空間白い光・は埋めがたし

座蒲団に(ヨル)もろともに沈殿す

人生きて言語の呪縛刺繍哉

夢を喰い東西南北走りゆく

裸身ただ私のために号泣す


●平成元年9月(452号)

夕暮れと犬の瞳が静止する

底辺の身すぎ世すぎに夢を張る

錠音の恋しき夜やこがねむし

少年のゴム長靴と積乱雲

死二カケコオロギ靴ノナカニ居ル


●平成元年10月(435号)

人肌が交じり合う丘祝祭す

靴底の律動(リズム)に生きる(カラー)たち

ダンシング食物たちのつつましさ

猫を抱く肥大する感触遊ぶ疲れ

待つ忘る夜の呼吸が深くなる


●平成2年2月・456号

琴座集

二ツ影一筋の道シリウスよ

カシオペアと語る道元案内人

うろうろと夕ぐれ時の冬木立

不可解な横着貼ってすれ違い


●平成2年 3月・457号 

這賊集

つれそうてきたゆめかいな暖かですか

瑠璃色の更紗持ちたるつたなき指

美しき瞳を結ぶ金星食

二つ影ひとすじの道シリウスよ

カシオペア語った道元案内人


●平成2年4月・458号

這賊集

湯ぶねに浮かぶ記憶の父の薬指

甲ぬぐ無言の昼のねぎぼうず

来ん春と首都は煙りてかゆの朝

国境に足踏み夢踏み影を踏む

ダダダダだ直接性を生きた兄

琴座集

大寒と靴下の穴板を踏む

窓ごしの沈丁花揺れ遠かりし

ねぎ切ってツグミ啼く朝恋うるひと

生活句句苦と笑いて逆さ富士


●平成2年5月・459号

這賊集

    折笠美秋の死

美秋亡く地上の朝は寒風や

ひとりゆく美秋の(くち)の赤き血よ

肩の影肉体に棲むしかないよ

呼べ呼べ言の葉震え涅槃へ届く

情を切った包丁転がる夏座敷

琴座集

空間と時の座標に友すわる

校庭の空は真空ボール蹴る

雛供に父の消した春がすみ

銀河よ死の灰積もる青き空

死滅の影に何億年と自浄せる


●平成2年6月・460号

(きびす)きびきびぐるり回って遠くの列車

山査子をおしえてくれる日約束げんまん

まっすぐに運命線たどる朝

五月雨に黒猫消えて抱くものなし

青葉若葉ただすみれ色のパラソル振る


●平成2年9月・463号 

這賊集

四ツ頃のマダラガガンボ厠の死

日輪に無知なることを愛されて

野に転びてゆきあいの空眺めし裸軀

黒繻子と黒子沈めし真夏日よ

大星雲讃歌に寝入る宇宙かな

琴座集

月蝕に意味づけですよ鳴くふくろう

地底都市冷シ冷シテ福笑イ

白々ト見入ル極楽地獄哉

向日葵畑まどろみて眩暈少年兵


●平成2年10月・464号 

「這賊集」(これより這賊集のみ)

アメリカンポップスに各駅停車見送る朝

ガラス箱無機質となる薔薇職人

夕日照る日螺旋階段に見つけた真理

夏の少年よ自転車の影弧を描く

世紀末時計の針はゆるり落下


●平成2年11.12月・465号

日没に私は羊はぐれけり

父は亡く独楽描きて盆の月

中秋にヒトガヒトデアル白キ団子

彼岸中日参る墓なき人外地(じんがいち)

脳髄に届かぬ私信無明かな


●平成3年1月・466号

(平成2年度同人自選欄作品3句)

林根は未央の体内へ降下せり

月蝕に意味づけですよ鳴くふくろう

日輪に無知なることを愛される

這賊集

瘋癲と芋の葉落とす秋の空

枯れ草やおいてけぼりの緋の輪舞

松葉杖ゆうらりゆれて地を叩く

悔し涙お手てつないで暮れ初む

松の木に半分の背丈車椅子


桜茶や一期一会の湯気にあう

盲て後薔薇数本の恋慕かな

無月哉月光水系ヲ直下セリ

口径に煮え立つスープ月下なり


●平成3年2月・467号

水魂に三日雨降り行方しらず

いきうるもゆくも天啓霜月夜

雑踏に失くした刻の玻璃絵かな

神無月の蚊のスローテンポの飛翔なり

振り向いた指切りげんまん新月や


●平成3年3月・468号

透いた月失くした日輪格子窓

戦争が遠く並んだ炬燵あり

世紀末うかれごころよ地獄絵図

命・生・物見守る岸辺無音絶叫

反戦は戦争の尻尾雪野原


●平成3年4月・469号

殺戮サ無防備ノ肩春ノ月

少年ノ一筋ノ放尿大西日

昔黒い畦道をぶらさがった片腕

東方に土地肌の山の山火事

ナーバスに航海者油まみれの朝


●平成3年5.6月・470号

脳髄が雑念に縛られるや静止駒

昼寝覚黒塗りの皿の桜餅

皆みんな東西南北忘却日

肩連ね詐欺師蔑む贋金作り

緑の西天使に成りそこねた婆ひとり


●平成3年7月・471号

青キャベツに問うチェルノブイリの不明確

放射能検知器の針振れ(クウ)無常

陽は透けり汚染未だに手配中

五感感知不能成麦畑

相生の萌ゆる時空や墓にて十四(トセ)


●平成4年1、2月(474号)

(平成4年より、隔月刊、耕衣、左大腿骨骨折により、平成4年10月~12月休刊)

夕闇に白色つみつつ暮れる雪山

夢巡る凍土深く種子の内包

萩の野に生酔無死の小屋一軒

身の丈の花と遊びし泣き虫子

満月に解決不能はびこれり


●平成4年5、6月・476号

青空の真大の記憶石仏

杏咲く歴史が問いかける私事

バロックの気取りに嵌まるコーヒーの香

向きなおって日本茶すするおとし穴

地球自浄三億年後の春夏秋冬


●平成4年9、10月・478号

青海が死刑執行行使する

水包む少年のうつぶせのゆらめき

少年ノ死沖縄二波ヲ打ツ

脳髄よ少年の死を生きる罪科

生誕の災禍を担う青い女


●平成4年11、12月・479号

昨日の続き今日であることの一番星

ミルクに溺れるアリ飲んだアフリカ

紺青の森失ないて後止血

ふとった春毛虫が残す脂道

月明りにポロンと自刃転がせり


●平成5年1、2月・480号

白布巾尻切れとんぼの枕元

月は黒い鳳仙花の黒い泥

ぼったりと土に包まる核の冬

川面写る手と手といろはにほへとかな

毒・毒・と夢の手ざわり死線越ゆ


●平成5年3,4月・481号

うそ話千夜続いて首括る縄

手懸りは白い光と日々が過ぎ

直線に肉体の痛み梅の花

舟形の月おとぎばなしへ北半球


●琴座 平成7年11・12月(496号)

日輪と根っこ野仏眺めたり (訂正)