救仁郷由美子全句集のため、私(筑紫)の手元資料でまとめていたが、さらに大井恒行氏に琴座の不足資料を集めていただいたので追加として掲載する。
これらは「豈」66号でまとめて掲載したいと思う。
●琴座 昭和62(1987)年1月号・422号
以下、耕衣選会員欄「琴座集」より
黒髪のむかしコスモス咲きにけり
火祭や少年固き頬もてり
風吹けり街を移せる酒瓶よ
温もりを肩にふれさす神無月
●琴座 昭和62年2月・423号
子の咳にめざめし部屋に
大晦日吾子の泣きたる険しさよ
日溜りの白き冬薔薇恋しかり
吾子たちの裸足は白し霜柱
●琴座 昭和62年3月・424号
うたたねに冬日浴びたる黒表紙
●琴座 昭和62年4月・425号
暗闇のシグナル今は昔かな
老夫婦重なる手と手風の春
去年の傷赤き瑕瑾は風に病む
●琴座 昭和63年2月・434号
木々生きしなお緩慢に
木々朽ちて死骸斜めにたたずあり
暗き島ひそひそと声連座する
●琴座 昭和63年3月・435号
寒風に赤き糸干す部落あり
降誕祭ぼんやり街が見えている
凍夜なりあえぬあえずと影を踏む
地球にて折笠美秋自転せり
●琴座 昭和63年4月・436号
まなざしはいのちを愛でる屠殺人
芽ぶくいま親のなき子の処女懐胎
野原にて乞食のすする白き麺
●琴座 昭和63年5月・437号
地を這いて遊びし吾子に花なずな
確執は振りほどけども菜種梅雨
春の雪あすこすみか隠しおる
●昭和63年6月・438号
五月いま植物園を棲家とす
桜道呼べど応えぬソフト帽
満天星の花は静穏落涙せり
縁側に花瓜草と足の裏
●琴座 昭和63年7月・439号
黒猫は
満月と黒き猫とが影をうむ
恋猫よ仮の宿での宙ぶらり
緊密に恋猫一夜を鳴きとおす
●琴座 昭和63年8月・440号
六月に逝くは船長の喉仏
悲しみ故ふたつながらも分かちえぬ
黄水仙ナルシスいまも花弁なり
五月死す薔薇の深紅とアフロディテ
土に臥すゴッホの頭上鶫飛ぶ
●琴座 昭和63年9月・441号
昼下がり抜歯サディズムと思いけり
人肌のとどかぬ温み記憶せり
半島に灯火反映す黙すひと
鳳仙花朝鮮咲きし子守歌
●琴座 昭和63年10月・442号
すだれさげ戦争語る八月よ
盆が来て母の笑顔は遠かりし
●琴座 昭和63年11,12月合併 443号
まどろみて昭和ののちの首都の雨
野に死して怒れる喉に痛みあり
●琴座 昭和64年1月・444号
生臭い肩先の冷えとけぬ日々
夢盗人泥地の海に潜んでる
夕映えに夢をかぞえて貼りつけし
何は無しプルトニウムと地獄絵師
●平成元年2月・445号
乾いた空眠れぬ夜明けの呼吸する
玄米の一膳飯と暮らす仲
宙返りの風のたまりに狐鳴く
●琴座 平成元年3月・446号
年越しに年男年取りて待つ忘却
老醜はスタンプなりし詩人を愛す
冬富士の見やる乞食も重ね着し
暖冬も飢えをかかえて眠る山羊
子は眠る明日は幾重も与えたし
●琴座 平成元年4月・447号
空虚空間白い光・は埋めがたし
座蒲団に
人生きて言語の呪縛刺繍哉
夢を喰い東西南北走りゆく
裸身ただ私のために号泣す
●平成元年9月(452号)
夕暮れと犬の瞳が静止する
底辺の身すぎ世すぎに夢を張る
錠音の恋しき夜やこがねむし
少年のゴム長靴と積乱雲
死二カケコオロギ靴ノナカニ居ル
●平成元年10月(435号)
人肌が交じり合う丘祝祭す
靴底の
ダンシング食物たちのつつましさ
猫を抱く肥大する感触遊ぶ疲れ
待つ忘る夜の呼吸が深くなる
●平成2年2月・456号
琴座集
二ツ影一筋の道シリウスよ
カシオペアと語る道元案内人
うろうろと夕ぐれ時の冬木立
不可解な横着貼ってすれ違い
●平成2年 3月・457号
這賊集
つれそうてきたゆめかいな暖かですか
瑠璃色の更紗持ちたるつたなき指
美しき瞳を結ぶ金星食
二つ影ひとすじの道シリウスよ
カシオペア語った道元案内人
●平成2年4月・458号
這賊集
湯ぶねに浮かぶ記憶の父の薬指
甲ぬぐ無言の昼のねぎぼうず
来ん春と首都は煙りてかゆの朝
国境に足踏み夢踏み影を踏む
ダダダダだ直接性を生きた兄
琴座集
大寒と靴下の穴板を踏む
窓ごしの沈丁花揺れ遠かりし
ねぎ切ってツグミ啼く朝恋うるひと
生活句句苦と笑いて逆さ富士
●平成2年5月・459号
這賊集
折笠美秋の死
美秋亡く地上の朝は寒風や
ひとりゆく美秋の
肩の影肉体に棲むしかないよ
呼べ呼べ言の葉震え涅槃へ届く
情を切った包丁転がる夏座敷
琴座集
空間と時の座標に友すわる
校庭の空は真空ボール蹴る
雛供に父の消した春がすみ
銀河よ死の灰積もる青き空
死滅の影に何億年と自浄せる
●平成2年6月・460号
山査子をおしえてくれる日約束げんまん
まっすぐに運命線たどる朝
五月雨に黒猫消えて抱くものなし
青葉若葉ただすみれ色のパラソル振る
●平成2年9月・463号
這賊集
四ツ頃のマダラガガンボ厠の死
日輪に無知なることを愛されて
野に転びてゆきあいの空眺めし裸軀
黒繻子と黒子沈めし真夏日よ
大星雲讃歌に寝入る宇宙かな
琴座集
月蝕に意味づけですよ鳴くふくろう
地底都市冷シ冷シテ福笑イ
白々ト見入ル極楽地獄哉
向日葵畑まどろみて眩暈少年兵
●平成2年10月・464号
「這賊集」(これより這賊集のみ)
アメリカンポップスに各駅停車見送る朝
ガラス箱無機質となる薔薇職人
夕日照る日螺旋階段に見つけた真理
夏の少年よ自転車の影弧を描く
世紀末時計の針はゆるり落下
●平成2年11.12月・465号
日没に私は羊はぐれけり
父は亡く独楽描きて盆の月
中秋にヒトガヒトデアル白キ団子
彼岸中日参る墓なき
脳髄に届かぬ私信無明かな
●平成3年1月・466号
(平成2年度同人自選欄作品3句)
林根は未央の体内へ降下せり
月蝕に意味づけですよ鳴くふくろう
日輪に無知なることを愛される
這賊集
瘋癲と芋の葉落とす秋の空
枯れ草やおいてけぼりの緋の輪舞
松葉杖ゆうらりゆれて地を叩く
悔し涙お手てつないで暮れ初む
松の木に半分の背丈車椅子
桜茶や一期一会の湯気にあう
盲て後薔薇数本の恋慕かな
無月哉月光水系ヲ直下セリ
口径に煮え立つスープ月下なり
●平成3年2月・467号
水魂に三日雨降り行方しらず
いきうるもゆくも天啓霜月夜
雑踏に失くした刻の玻璃絵かな
神無月の蚊のスローテンポの飛翔なり
振り向いた指切りげんまん新月や
●平成3年3月・468号
透いた月失くした日輪格子窓
戦争が遠く並んだ炬燵あり
世紀末うかれごころよ地獄絵図
命・生・物見守る岸辺無音絶叫
反戦は戦争の尻尾雪野原
●平成3年4月・469号
殺戮サ無防備ノ肩春ノ月
少年ノ一筋ノ放尿大西日
昔黒い畦道をぶらさがった片腕
東方に土地肌の山の山火事
ナーバスに航海者油まみれの朝
●平成3年5.6月・470号
脳髄が雑念に縛られるや静止駒
昼寝覚黒塗りの皿の桜餅
皆みんな東西南北忘却日
肩連ね詐欺師蔑む贋金作り
緑の西天使に成りそこねた婆ひとり
●平成3年7月・471号
青キャベツに問うチェルノブイリの不明確
放射能検知器の針振れ
陽は透けり汚染未だに手配中
五感感知不能成麦畑
相生の萌ゆる時空や墓にて十四
●平成4年1、2月(474号)
(平成4年より、隔月刊、耕衣、左大腿骨骨折により、平成4年10月~12月休刊)
夕闇に白色つみつつ暮れる雪山
夢巡る凍土深く種子の内包
萩の野に生酔無死の小屋一軒
身の丈の花と遊びし泣き虫子
満月に解決不能はびこれり
●平成4年5、6月・476号
青空の真大の記憶石仏
杏咲く歴史が問いかける私事
バロックの気取りに嵌まるコーヒーの香
向きなおって日本茶すするおとし穴
地球自浄三億年後の春夏秋冬
●平成4年9、10月・478号
青海が死刑執行行使する
水包む少年のうつぶせのゆらめき
少年ノ死沖縄二波ヲ打ツ
脳髄よ少年の死を生きる罪科
生誕の災禍を担う青い女
●平成4年11、12月・479号
昨日の続き今日であることの一番星
ミルクに溺れるアリ飲んだアフリカ
紺青の森失ないて後止血
ふとった春毛虫が残す脂道
月明りにポロンと自刃転がせり
●平成5年1、2月・480号
白布巾尻切れとんぼの枕元
月は黒い鳳仙花の黒い泥
ぼったりと土に包まる核の冬
川面写る手と手といろはにほへとかな
毒・毒・と夢の手ざわり死線越ゆ
●平成5年3,4月・481号
うそ話千夜続いて首括る縄
手懸りは白い光と日々が過ぎ
直線に肉体の痛み梅の花
舟形の月おとぎばなしへ北半球
●琴座 平成7年11・12月(496号)
日輪と根っこ野仏眺めたり (訂正)