今回は『兜太 TOTA』から特に筆者の興味の惹かれた項目をピックアップして記すこととする。
*金子兜太 生インタビュー(1)
黒田杏子・井口時男・坂本宮尾・筑紫磐井に藤原書店社長・藤原良雄を加えた5人が聞き手となり、熊谷の兜太邸「熊猫荘」で行われたインタビューの書き起こし。
生育歴順となる俳句初心の「成層圏」の話題に始まり、戦争、石田波郷について、秩父についてなど多岐にわたる話題が取り上げられている。
内容については既に世に出ているトピックもあるが、村上一郎の話題や、トラック島での俳句のその後、波郷・草田男についてなどを本人の肉声として読むことであらためて感興があった。“ドストエフスキーと柔道”は何か象徴的なエピソードとも思える。
*誰にも見えなかった近・現代俳句史——虚子の時代と兜太の時代/筑紫磐井
近・現代俳句史を方法論の推移を中心にひもとく文章。
「配合論」と「音調論」、「配合法」と「思案法」、「諷詠派」と「表現派」、「詞」の詩学と「辞」の詩学、そして「造形俳句論」に至る兜太の思考を整理していく。
ホトトギスを中心に据えた「人のながれ」による歴史ではない、方法論の反駁に焦点をあてた整理は、今後の昭和・平成の俳論・方法論の再検証にとっても重要な視点である。
歴史とは現在からの絶えざる問い直しであり、こうした視点がその新たな呼び水となるのではないだろうか。
*兜太と珊太郎——月光仮面のように/坂本宮尾
兜太が「成層圏」に参加するきっかけとなった人物・出口珊太郎についての項。
本稿に詳しいが、出口珊太郎は星新一の父・星一の庶子として生まれ、旧制水戸高校で兜太と出会う。
「成層圏」初期の事情、成層圏東京句会のことなど、珊太郎自身の句をまじえ、背景が丁寧且つ精緻に綴られている。この文章を読んで筆者はすっかり出口珊太郎のファンになってしまった。
戦前戦中の青年が俳句に関わるということ、その実態を鮮やかな筆致が描き出していて大変興味深いものである。もっと長い尺で読みたい一文だった。
『兜太 TOTA』vol.1(藤原書店)2018年9月刊
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