面117号「動かぬ象」2014年7月1日
春昼の観覧車より見る売地
たなびくは春山火事と白シーツ
アダムにも前妻はあり春の土
夏至の夕吐く息少し長くとる
夏来る動かぬ象に集まる子
紫黄忌の机上に置きし石ひとつ
伸びて寝る猫の喉元紫黄の忌
瓢箪の暗きを覗く鯰かな
水流れ行きつく穴や涼新た
水澄むや山本紫黄の小さき文字
面118号「噛み跡」2015年4月1日
雪解水樋の外側つたいけり
海の水少しまじりし蜆汁
西東忌音消している消防車
噛み跡は鮎の歯型や藻の盛り
赤と白遠泳の列沖へ出る
頭蓋とは蓋になる骨曼珠沙華
寄生木を狼も見し奥の山
廊下堅し夜寒の底のくらがりに
枯草の折れ曲がりつつそよぐかな
人といてさびしき時を輪投げかな
面119号「夜の水路」
文鎮は紙をとらえて立夏かな
七月の沼に空あり雲育つ
夏山やおとこの息とすれ違う
杖の柄で茱萸の赤いの引き寄せる
車窓まだ山中にあり昼寝覚
幽霊はだいたい女紫黄の忌
赤紫蘇に水染まりゆく母の留守
秋灯が点から線になつてゆく
紺屋まで夜の水路を秋の水
崩落の崖留めている枯木の根
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