面114号「黙礼や」2011年12月1日
愛(け)しけやし椿一枝にみられたり
黙礼やすずなすずしろ苦き草
天地のあいだ縮まりあら霰
青嵐人の妻には近づかぬ
新緑のお宮見下ろす大野歯科
抱かれ癖ある人形を見てしまう
荒梅雨や傘のさせない路地に入る
号泣のあと濡れてゐる女かな
階段の下は奈落や明け易し
紫黄忌のすこしこぼれる昼の酒
面115号「日暮まで」2013年4月1日
夏野から去年の返事を待ちわびる
光茫の夏野に誰も入るまじ
夏の野に赤い眼をした犬をみた
濁流や夏野の脇をとおりけり
割れたての石の息吸う夏野かな
父に似た夏野に寝転ぶ日暮まで
夏野にて空の淋しさ見ていたり
やわらかき夏野に鎖あずけおく
夏の野のうねりにおろす櫂ひとつ
水のある星が生まれて夏野あり
面116号44句「或る向日葵と」2013年12月1日
青林檎そこにも夜がきていたり
満月に少しほぐしておく卵
人の高さに赤蜻蛉群れそわか
少女らの中に美少女金木犀
まぼろしの大樹をのぼる蔦かずら
(まぼろしの船が出てゆく芒原)
出生祝に卵一箱とあり寒露
氷柱から氷柱の伸びて信濃かな
一卓は飲食のため寒稽古
穴釣や箱椅子に座す箱男
寒鯉の骨まで太つてしまいけり
東京に住む家が欲しポンカン買う
金曜の静かな町の棕櫚の花
蒲公英の絮に四隅をあてはめる
濃紫陽花紺屋の脇の用水路
よもすがら浮こう浮こうと水中花
蓮浮葉それぞれ濡れていたるかな
母という人と居るなり半夏生
産卵し後は死ぬのみ澤の蟹
枇杷の実の突かれながら熟れるかな
蜘蛛ひとつ回りつづける糸の先
水中の女掻き分け瓢箪忌
スリットは腰まで裂けて紫黄の忌
ある径の或る向日葵と凸面鏡
馬頭観音にダリア大小立ちて咲く
同じ団扇持ちて集合改札口
幽霊も頬かむりして踊りの輪
さびしいとさびしい幽霊ついてくる
鶏(にわとり)を乳白色に煮て白露
霊柩車先頭にして急ぐ秋
極楽にこぼれてゆけり露の玉
片しぐれウェールズより異母姉来
柿熟し静かに耐える空気かな
鹿革は江戸好みなる温め酒
抜歯するほかに手はなし秋の暮
初鏡母が後ろに立つている
鶴の羽休めるごとく初浅間
割つて出る魑魅言霊寒卵
一斗缶叩き眞神を呼び起こす
白泉忌砂浜消失していたり
薪あらば鉈置いてあり霜夜なり
暗渠より出てくる水も春の水
松葉雲蘭膝つきて愛でにけり
瑛九の旧居訪ねる春の暮
結婚という潔白やマグノリア
紫陽花を猫だと思う猫である
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