ウクライナ問題
コロナが一向に収まる気配もない状況の中で、さらに世界は様々な問題を抱えてきている。そうした中でロシアがウクライナに侵攻したというニュースは衝撃だった。国連や世界各国はこの侵攻を非難している。こした中で、日本の文学の世界でもこれに呼応した動きが出ている。
●文芸家
3月10日に日本ぺンクラプ・日本文藝家協会・日本推理作家協会連名で「ロシアによるウクライナ侵攻に関する共同声明」が各団体理事会および有志による声明文として出されている。
●歌人
3月17日には現代歌人協会理事有志が「ロシアによるウクライナ侵攻に対するメッセージ」を寄せている。ここでは17人の理事のうち14人が、各人の言葉でメッセージを書いている。
なおもう一つの大きな歌人団体である歌人クラブは今のところ声明などは出していない。
●俳人
3月21日、現代俳句協会幹事会が「ロシアのウクライナへの侵攻についての声明」を発表している(その後、理事会・総会の議案説明会で出席の理事のからも賛同)。
なお俳人協会、日本伝統俳句協会は特に今のところ対応していないようである。
それぞれ作家たちの良心にかかわる問題であるとともに、果たして文芸家の団体としてどこまで関与するかは難しい問題である。それなりに団体で考えられた結論であろう。
だから団体ごとに対応は微妙に異なるようで、一応の組織決定となっているもの、有志による声明となっているものと異なる対応がある。いずれも団体の総意でまとめることはできていない。おそらく流動的な状況の中で、団体の総意をまとめることが難しかったためであろうと思う。
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ここで俳人関係の声明について考えてみたい。
現代俳句協会で幹事会声明が出されたのは、俳人協会が創設されたとき、昭和36年12月16日付で出された「現代俳句協会幹事会声明」以来60年ぶりだと思う。この時の内容は、現代俳句協会を非難した中村草田男幹事長への糾弾を主な中身とするものであった。
少しさかのぼると、昭和35年7月に安保に関する声明が出されているが、この時は「現代俳句協会民主主義を守る会」名で出しており(たぶん「有志」という意味だと思う)、中村草田男以下在京有志66名の連名で出されているようだ。現代俳句協会で出せなかったのは、一部反対の会員がいたためと言われている。
今回の声明の中で、侵攻の非難、核使用への危惧は他の文芸家たちと共通だが、「私たちはウクライナ、ロシアに俳句を通して多くの友人がおり、今後も絆を大切にしていきたいと思っています」と述べているのは、ウクライナ、ロシアの人々が俳句を通じて交流していることにかんがみたためである。ウクライナ、ロシアのすべての人びとが生命と生活の安全を保障され、不当な差別や迫害を受けることがないことを希求しているのである。
百年前の文学者の活動
文学者の戦争に対する意見表明は色々な評価があると思うし、歴史的には古くからあり国策を推進することに利用されたこともある。正岡子規も日本主義であった時代であったのだから不思議ではない。ただこうした中でどれほど理性的であり得るのか、だ。
第一次世界大戦開始時にも、ドイツと英国では文学者たちがそれぞれ自国を支援する声明を発表している。
1914同9月には「英国の文学者は英国の戦争を擁護する」(British Authors Defend England's War)、10月にはドイツで「93人のマニフェスト」(Manifest der 93)が出されている。英国のそれはコナン・ドイル、ジョン・ゴールズワージー、トーマス・ハーディ、キップリング、H・G・ウェルズが署名し、ドイツのそれは名だたるノーベル賞学者やレントゲン、ヴィルヘルム・ヴントさえ加わっている。時代を代表する知性たちの活動である。
そうした中で、英国の声明は少し変わっている。こんな一節があるのである。
「我々の多くはドイツに親愛なる友人がいる。我々の多くはドイツの文化を最高の敬意と感謝の気持ちで見ている。しかし、どの国もその文化を他の国に押し付けるための野蛮な力による権利を持っていること・・・を認めることはできない」
確かにドイツ政府を非難しているが、ドイツ国民とは別だと考えているのである。英国文学者らしいエスプリが見える。
(下略)
※詳しくは「俳句四季」6月号をお読み下さい
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