インドhaikuの風景
ここ数年、俳句や詩を書くインドの人たちと幾人か知り合った。南国の鮮やかな自然や、その中で地域の風習・信仰に沿って暮らす人々の姿がhaikuで描かれる。もの珍しさとふしぎな懐かしさを併せ持つその魅力に心を動かされた。
そんなインドのhaikuの現状や歴史を少し調べてみた。
home coming—
swinging in the mango tree
mother’s lullaby Sandip Chauhan
里帰り / マンゴーの木に揺れる / 母の子守唄
incessant rain . . .
the smell of coriander
getting drenched Paresh Tiwari
絶え間ない雨 / コリアンダーが匂う / びしょ濡れになり
日本とは異なる季節の巡りや植生からくる異国情緒を感じさせつつ、その一方で日本にも通じるアジア的風土も漂わせる。また、次のような日常生活の句も、インドの独特な風景を提示しつつ、どこか郷愁めいたものも感じさせる。
cloudy afternoon —
munching sunflower seeds
with coffee Angelee Deodhar
曇った午後 / 向日葵の種を頬張る / コーヒーを飲みつつ
そんなインドだが、広く一般にhaikuが普及しているわけではなさそうだ。例えば英国などのように初等教育に広くhaikuが採用されているわけでもない。
それでも、少なからぬインドの詩人や文学者たちがhaikuに注目してきた。有名なのはノーベル賞詩人のタゴールだ。彼は一九一六年に日本を訪れ、旅行記も著して芭蕉の俳句も紹介した。後に自身でもhaikuに似た短い詩を書いた。
インドのhaikuは、先入観もあるのかも知れないが、どこか亜大陸ならではの自然のダイナミズムも感じさせる。
end of summer
colors fade away
with the butterflies Kavya Kavuri
夏の果て / 色は消えゆく / 蝶とともに
インドは多言語国家であり、二十二の州公用語がある他、英語も準公用語とされる。なので、それぞれの固有語でhaikuを作る人も英語でhaikuを作る人もいる。英語は有力な共通言語で、日本の俳句の紹介が英訳を元にした各言語への再翻訳であることも多いようだ。インドの人に、英語で書かれたインドのhaikuウェブサイトを教えてもらって見たが、インド外の英語圏のhaikuや俳人も混じり合って活動する様子に感心した。英語とインターネットという世界共通の二大プラットフォームとよくも悪くも向き合いながら世界のhaiku文化は今後進化していくのだろうし、多言語国家インドでのhaikuの動きはその先駆とも思える。
※掲句はKala Ramesh「A HISTORY OF INDIAN HAIKU」The Haiku Foundation、「Haiku from India 」Terebess Asia Onlineより引用。
(『海原』2023年9月号より転載)