2024年2月23日金曜日

第42回皐月句会(10月)

投句〆切10/11 (水) 

選句〆切10/21 (土)  


(5点句以上)

9点句

鯖雲や人と疎遠になるはやさ(仙田洋子)

【評】 この時期の雲の動きを良く見上げている。少し切ないような鰯雲と人とずっと同じ関係ではいられない事実との取り合わせがうまい。──辻村麻乃


8点句

私を探す放送秋の暮(中村猛虎)

【評】現在地は、遊園地?デパートの屋上?ショーサンク刑務所?ダム湖の畔の特養?聞き覚えのある名が連呼されているのだが、つるべ落としの光陰に聞き流してしまおう。──妹尾健太郎

【評】 普通は放送で探されるのは認知症の老人。作者はボケた振りして世の中を茶化しているのかもしれない。──仲寒蟬


6点句

馬追のしづかに柱から梁へ(岸本尚毅)


糸蜻蛉風の終はりといふところ(依光陽子)

_【評】地味な句だが「風の終はり」ということに気付いた感性が素晴らしい。その終着点にいるのが糸蜻蛉という繊細な生命。──仲寒蟬


5点句

つり革にすがる男や秋の蝉(松下カロ)

西鶴忌藻を舐め尽くす赤き魚(篠崎央子)

月光の中に右手は置いてきた(中村猛虎)


(選評若干)

梨を剥く帰れぬ故郷持つ人に4点内村恭子

【評】 帰れぬ故郷とはどんなにか悲しい事情を持っているのだろう。まあ、ひとつ、梨でも食べて・・・。──仲寒蟬

【評】 感情を盛りすぎず「梨」がほどよい。──依光陽子


秋しぐれゲラを戻せど秋時雨 1点 飯田冬眞

【評】 「豈」の編集をしている真っ最中なのでギックリとした。原稿を送っても一向にゲラを戻さない、校正をしても2校ゲラがなおっていない、などなど苦情は尽きない。作者もそういう気分なのだろうなと思う。

しかし、こちら編集者にも愚痴がある。校正なのに全編書き直してくる猛者もいる、2校、3校、4校と無限ループが続く時間観念のない者もいる、ゲラを修正液で塗り消して直してくる非常識な者もいる。こちらもボランティアなのだと言いたくもなる。

俳句の鑑賞なのに、愚痴になったが、投稿者と編集者の関係は「秋時雨」だというのには至極納得した。──筑紫磐井


秋刀魚を値踏みする鏡をふいている 3点 山本敏倖

【評】 女性は、毎日のように鏡を拭いている。その続きのように秋刀魚を値踏みしている。ぴかぴかに磨いた鏡のような秋刀魚を買いたいものである。──篠崎央子


袈裟懸けに結んで細き秋思かな 3点 佐藤りえ

【評】 主語と目的語との関係をさりげなく外してある、とでも申すのか、わざと言葉遣いをズラしたような作り方。一つの技だと思います。──平野山斗士


斬りの恋や甘藷に歯を立てて 1点 篠崎央子

【評】 人斬り以蔵、人斬り半次郎・・・人斬りと言われた人たちは哀しい生涯を背負っている。その恋とは。甘藷は半次郎や田中新兵衛を念頭に置いたものか。──仲寒蟬


柘榴割れ督促状の届きけり 3点 水岩瞳

【評】 熟して赤く裂けた柘榴の実。それと何の催促だか解らないが、督促状が届く。割れた柘榴と督促状の配合美。──山本敏倖


鳳仙花はじけて劣化ウラン弾 1点 水岩瞳

【評】 はじけると爆弾では即き過ぎと思いつつもこの語呂のよさと勢いに負けた。──仲寒蟬


銀漢や妻につむじが二つある 3点 望月士郎

【評】 勝手な想像ですが、数十年の時を経て気づいた新事実なのでしょう。いつから二つなのかは計り知れません。嘗ては三つだったのかもしれません。──佐藤りえ


すすきはら日暮れて潜水艦浮上 2点 望月士郎

【評】 銀の穂波が影を深める頃。この時を図ったかに浮上する潜水艦。質感の異なる二物の出会いは何か始まる予感を漂わせる。秋の暮ゆえに不穏。──小沢麻結