2023年7月28日金曜日

救仁郷由美子追悼⑫(最終回)  筑紫磐井

 ●LOTUS 30号(2015年4月)

   葎生

鳥族の巫覡恋しき摘草や

山立娘連(いのししれん)多塔物塔へ突撃す

六十年後桃の老木乙女()

独神(ひとりがみ)出であちらにも出で心うらら

葉桜の木の間漂う宇宙母顔

幼年(おさなどし)摘むは路傍の野襤褸菊

唐門の囲いの巾より娑羅の花

母は月父は娑羅樹と御喋り児

唐門前修羅の脇ゆくごんぎつね

三角地一くわ一くわと土返す

夏旅の七人村へと葛折り

雲海の(たなごころ)這い水子神

山ん中悶絶僻地常無念

飛龍とて未完の神ぞ弦の月

相俟って星糞峠諸同(ほしくそとうげもろかえ)

降る雪や眼ることなき山毛欅林

窓秋氏詩神力すらはにかむや

木の家の詩人の記憶花譜となる

枯蓮の水底(わざ)に満ち満ちて

修羅に添う異境の旅の夏木立

巨樹樹透黒き蛇迫う黒つぐみ

闇に()れ石女明日は婚姻す

山又山産婆走りに山姥よ

鬼門角追われ払われ乞食女(こつじきめ)

天ん邪鬼の水の神様救い求る

門前のずり這う赤子掬い上げ

共喰ぞ悪喰ともどもなる地獄

弔いの摺り足ずるっと秋時雨

北の地震(なえ)洪水南の志都歌や

男鹿の海祈る両手(もろて)の白雲よ


●LOTUS 38号(2018年4月)

   吉村鞠子追悼句

雲白きときどき連なり墓処の空



●BLOG「大井恒行の日日彼是」(2022年4月16日)

安井浩司へ 俳句無の時々(1)水仙(4・16)

救仁郷由美子から、安井浩司死去の直前、エッセイの原稿をブログに載せてくれるか、という声掛けがあり、あろうことか、ほぼ同時に、安井浩司の訃報がもたらされた。安井浩司『自選句抄 友へ』の救仁郷由美子によるエッセイの連載は、とびとびながら、残る3句となっていたが、自身、文章は、もう無理みたい、書けない・・・。俳句なら、少しは書けそう、と言ってきたので、『自選句抄 友へ』の代替えということにもならないが、句ができたら、その都度公開することにした。諸兄姉、お許しあれ。


   厠から育む月日(げつじつ)如月仏の縁      由美子

   水仙と三度(みたび)別れの媼おり

   侵入者夜音(やおん)立て来るやって来る 



●BLOG「大井恒行の日日彼是」(2022年4月22日)

安井浩司へ 俳句無の時々②  


 文学における俳句形式のαとωは、幾たびの試練を経てなお永遠に問われよ(『句篇』ー終わりなり、わが始めなりー安井浩司・帯文より)

 ギリシャ語の最初の文字がアルファ、終わりがオメガであることから、最初から最後までを意味するが始原へと辿り返すならば、終わりなり始めなりと俳句形式を問う。


  オメガアルファの春雲形(うんけい)蛇間に陽光(ひかり)射し