【解説】
このブログがアップされる日は、北川美美の1周忌に当たる。
「豈」の北川の作品をすべて見終わったところで、次は「俳句新空間」の作品を掲げようと思ったが、忌日を偲び、すこし北川の「豈」以前を、あるいは「豈」以外の作品を紹介しておきたい。
「『21世紀俳句選集』より」は俳句新空間第6号に掲載された、過去の作品分である。いつからの作品なのかはわからない。北川の精選十句集になる。
これ以外で、「週刊俳句」「詩客」「俳句四季」(Y子は吉村鞠子ではないかと思う)に発表した作品も掲げた。
この外に「面」に発表した作品があるはずであるが、これはまだ調べていない。読者で北川の作品を見たことのある方がいらっしゃればご連絡いただきたい。「豈」では次号で北川の特集を考えているのでその資料としたいと思っている。
北川の、筆者への最後のメールは事務的な連絡から始まっている。
「2020/12/16 (水)
11:12
筑紫さま
すぐに回復したようで何よりです。
永らくご無沙汰してますが病状が良くありません。7月末に急変し8月の一か月を慈恵に入院し退院後療養に努め新たな治療に通院したのものの10月末から再び急変して間に合わず地元の病院に入院。現在も入院中で2ヶ月経過しましたが嘔吐、腹水を繰り返し回復せずにいます。
ご連絡できず申し訳ありません。
詳しい病状を伝えたのは筑紫さまのみです。
余命はわかりませんが良くないことは確かです。
皐月句会は携帯から設定しています。万が一連絡不能になっても難しい設定ではありません。千寿関屋さんもいらっしゃるので安心していますが。
ひとまずご連絡まで。
状況が良くなったらまたご連絡します。
内容は、北川が開設した「皐月句会」(千寿関屋さんの協力を得て開設できた)の不具合の問い合わせに対する回答である。つまらないメールで煩わせてしまったと後悔している。
北川の病床は、こんな近況であった。「余命」の言葉が重い。そして、状況は良くならなかった。このメールから1か月で北川はなくなっている。
●俳句新空間第6号 『21世紀俳句選集』より
夏野から去年の返事を待ちわぶる
光茫の夏野に誰も入るまじ
夏の野に赤い眼をした犬をみた
濁流や夏野の脇をとほりけり
割れたての石の息吸う夏野かな
父に似た夏野に寝転ぶ日暮まで
夏野にて空の淋しさ見てゐたり
やはらかき夏野に鎖あずけおく
夏の野のうねりにおろす櫂ひとつ
水のある星が生まれて夏野あり
●週刊俳句 2013-09-29
さびしい幽霊 北川美美
満月に少しほぐしておく卵
少女らの中に美少女金木犀
まぼろしの大木をのぼる蔦かずら
さびしいとさびしい幽霊ついてくる
鶏(にわとり)を乳白色に煮て白露
肉塊入スープ澄みゆく秋は金
幽霊も頬被りして踊りの輪
露吹かれこぼれて消ゆる故郷かな
鹿革は江戸好みなる温め酒
抜歯するほかに手はなし秋の暮
●詩客:2013年02月22日
信濃 北川美美
いつせいに穴開けにゆく氷結湖
穴釣や箱椅子に座す箱男
一卓は飲食のため寒稽古
風花や水底の文字読んでゐる
氷柱から氷柱の伸びて信濃かな
薪あらば鉈置いてある霜夜なり
割つて出る魑魅言霊寒卵
寒鯉の骨まで太つてしまひけり
公魚のからだ虹色暮なずむ
如月の湖底の水は凍らざる
白鳥の舟揺れはじむ雨水かな
●俳句四季 2019年9月号
Y子忌 北川美美
ひとたまと数ふる玉菜重かりき
襞あらば影なすひかり白シャツの
恐ろしく尖る鉛筆青嵐
一瞬の闇長かりし新樹光
夏蜜柑ほんたうはまだ海辺にゐ
十薬の上を弄れば爪に土
夜夜を雨と十薬照らされし
桜桃の種を押し出す舌の先
曲線の繰り返しつつ半夏生
夕立の匂ひ太古へさかのぼる
夏の夜の耳の後ろに道のあり
螢火やホの文字川に溢れ出す
打水の飛沫に消ゆる人のあり
夏の雨肌理の勾配伝ひゆく
胸の上で手を組む眠り明易し
投げ入れし紅花積もるY子の家
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