ざんぶと
トマトトマトざんぶと水を浴びたまへ
百日紅かつては村に青年団
木の匙で掬ふ白粥朝の蝉
行平に薄き焦げあと日雷
削蹄のあと夕立のしぶくかな
・・・
何年か前、紳士服メーカーの大きなポスターを見かけた。モデルはプロ野球選手の数人。多分阪神タイガースの主力達。多分というのは私が全くの野球オンチで、ユニホームを着ていればタイガースの選手だと分かるが、そうでなければ、顔も名前も覚束ない有り様だからだ。だからタイガースというのも、だろうな、というだけのことだ。
その写真の人達は当然のことながら、ピシッとスーツを着こなしていた。
「キャッチャーの太腿」ふとその言葉が浮かんできた。そして、視線は彼らの腿へと。そうなんだ採寸も仮縫いも大変なんだ、と思いつつそのポスターを見たのだった。
誰かが置き忘れた小説を手にしたことがあった。書いた人もタイトルも忘れたが、プロ野球選手とその妻が主人公だった。矛盾だらけの展開ながら何とか事件を解決してゆくという話。一応推理小説の分野になるだろう。
その選手というのが万年二軍暮らしのキャッチャー。そして、妻の方は節約を心がける可愛い奥さんという設定。
細かいことは覚えてもいないが、夫の方が何かの晴れ舞台に臨むことになり、この可愛い奥さんが奮発してスーツを新調、プレゼントするという流れがあった。その採寸の場面で、腿の太さに仕立て屋が悩むとのエピソードが挿入されていた。
こんな大筋から離れた場面だけを覚えているのが私の常。
だから、野球選手がモデルを務めている写真を見た時に、こんな小説の中のことを脈絡も無く思い出したりするのだ。
(2026・7)