2023年1月20日金曜日

救仁郷由美子追悼③  筑紫磐井

  「琴座」同人となっても救仁郷由美子(大井ゆみこ)は毎号作品を発表しているわけではない。追悼作品集ではあるが、とびとびの作品しか掲載していないのはこのような理由である。また、私の手元にも「琴座」のバックナンバーがすべてあるわけではないので益々不完全ではある。しかし、いずれ救仁郷由美子作品集を豈でまとめたいと考えているので、それまでの努力として「俳句新空間」を活用したいと考えているのである。ご容赦いただきたい。


●「琴座」6年1・2月 486号

             大 井 ゆみこ

夏みかん食べ頃でした兄は逝き

過去は過去にコーヒー飲む老木の椅子

からまりし銀の指輪にからすうり

青ざめた空か気候となった街

うそばっかりふった七味の色模様


●「琴座」6年3・4月 487号

             大 井 ゆみこ

正面を見つめなおして寒桜

天地爆風水草振れて個体は死

四肢泥土零れては涙朝霧となる

すでに青空重金属に犯されし

日の丸や上目使いの晴れ晴れ日


●「琴座」6年5・6月 488号

            大 井 ゆみこ

ほら貝と同じくらいに陽ざし浴び

愛しき手ざわり冥府の五月かな

わたくしにはよろしき朝と尾長鳴く

寝台と物語りにくるまれて休日

薔薇聖水全身にそうひとり言


●「琴座」6年7・8月 489号

            大 井 ゆみこ

垂直に流るる現世死の水平線

現世の縦線死の横線と交わる日

死して天心を真空せし身体

無辺の闇夜の淵をくぐる鳥

晦日来る人生ひとつひねりましよう


●「琴座」7年3・4月 492号

            大 井 ゆみこ

一本の白髪と我が陽だまりに

冬に座すひざの硬さよ青畳

嗚きガラス六差路ぐるりと日を仰ぐ

あやとりにかくれたのです幸不幸

チカチカとあの銀紙の星の過去