俳句新空間6号(平成28年9月)
閉づる
見ゆるものすべてまぼろし薄暑光
夏至の日の砥石に当つる刃先かな
川音や青柿育つ青の中
水無月の地球は水をこぼさずに
灰となる文字を鋼の板に打つ
白塀を蟻一粒の下りけり
巡礼の岩に砕ける清水かな
明易のまだ黒黒と山の影
かの夏の焔となりし木の火筒
山越えて帰る国なし青大将
日の入りのはじめに点す蚊遣香
ひとりづつ金魚に水を足しにゆく
首垂れて顎で交はる汗の玉
幽霊と金魚はいつも濡れてゐるか
掴み出す夏の鮪の立方体
夏の水叩くと玉になるつぎっぎ
堤防にかがめば映ろ晩夏かな
香水の蘇りくる記憶閉づ
握手して霊入れ替はる星祭
全身詩人透き通る木槿かな
21世紀俳句選集(既に前出)
俳句新空間7号(平成29年3月)
美しすぎて
蜂蜜を透かして冬の日を見しや
土はまだ乾いてもゐず榠櫨の実
人深く息ついてゐる炬燵かな
林檎の芯くり抜くことを仕事とす
愛日をまはる振り子の置時計
この町に和菓子屋多し餅配
箱に箱重ねて棚や十二月
元朝のいつもの町に他ならず
初声の消えゆく風の波間かな
風呂敷の結び目を解く賀客かな
ひとり牡蠣フライ定食来るを待つ
鳥の死を知らずに盛土凍つるなり
さびしさを後ろに告げば葱畑
捨てらるる畳のごとく葱売らる
東京は雪の降るらし風匂ふ
また今度逢へるのいつか雪達磨
きさらぎの東京にゐて髪を切る
春立つと美しすぎる司祭あり
老犬が小屋のまはりに日永かな
俳句新空間8号(平成29年12月)
世界名勝俳句選集 景勝7句
軽井沢
冬ざれの浅間山荘事件の碑
群馬三都
前橋の緑雨の中の競輪場
暴力映画観て高崎より北が霧
沼にある桐生競艇クリスマス
東京都港区
三田一丁目クスリ屋の角秋の暮
東京都練馬区
石神井の愛人宅は薔薇盛り
三浦三崎
紫黄忌の三崎の果ての浜で待つ
夏から秋へ
玉紫陽花これより先は森の道
まなじりは青葉若菜のかたちかな
返り梅雨卓球台の広きかな
布かけて夜が来るなり箱庭に
太陽の今日は隠れて椿の実
瑠璃色の風鈴に入る硝子棒
品川やビル屋上に海豚の尾
欄干に日焼の腕を押し当てし
すぐそこに小さき山あり残る蝉
山を出で海に出るなり蝉の殼
曼珠沙華一本道は長かりき
コスモスの揺れるだけ揺れ骨となる
鶏頭花しばらく坐る家の裹
芒刈る父のゐた日を思ふかな
秋灯のギイと音する手術室
鳥皮や栗と棗を腸に
小鳥来る麺麭でポタージュ掬ふとき
秋の夜のさけるチーズの曲がりけり
捨てらるる案山子と俳句同人誌
空といふ果てしなき穴昼の月
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