蛇の衣
ありくひの尾が掃いてゐる夏落葉
貌上げる河馬の筋力雲の峰
蛇の衣見に行けといふ行つてくる
草は穂にほつそりとゐる雀かな
囲はれて水はみづいろ夏の果
・・・
古い古い本が出てきた。古書店でも捨てられてしまいそうな文庫本である。変色もひどいし、何だか埃っぽい感じでどこをどう持とうかしら、と思案するような古さ。誰の本だったのかしら? いつから私の本棚にあったのだろう?
『愛の妖精』(プチット・ファデット)岩波書店版である。作者は勿論ジョルジュ・サンド。訳者は宮﨑嶺雄。第1刷は昭和11年9月5日。そして、この本は第16刷だろう。昭和27年11月30日第16刷発行とあるから。臨時定価120円。このへんの事情に疎いから、臨時定価というのがよく解らないのだが、取り敢えずこの値段にしておきます。値上げするかも知れませんよ、ということだろうか。昭和27年といえば私は小学1年生。本当に古い話だ。
私が初めてこの物語を読んだのは多分中学時代。少女雑誌に載っていたダイジェスト版ではなかったか。その頃、綺麗な挿絵付きで、色々な物語が掲載されていたから。私は物語もさることながら、その挿絵画家たちに憧れていた。特に藤田ミラノ(現在パリ在住)の描く少女が好きで、真似て描いたりしていたものだったが……。どう頑張ってみても、理想通りに描けるものではないと思い知って、そのことが悲しかった。そんなことを改めて思い出して、少ししょんぼりしている。全く、今更ながら、なのだけれど。
話を戻すと『愛の妖精』は、その後、世界文学全集か何かで読んでいるはずだ。
で、この古ぼけた本、どうしたものかと思案したが、懐かしさもあって捨てきれずにいる。紙質も良くないし、漢字も仮名遣いも戦前のもの、当て字というか当て読みというか、まあ、これでそう読ますの~? と言いたいようなことがそこここに。差別用語とされている表現も次々に出てくる。今ならどう訳されるのだろう? と余計なことを考えながら読んでしまった。
実家から持って来た覚えもないし、もしかしたら義母の本だったのかしら。晩年の義母は芥川龍之介ばかり読んでいたけれど……。
(2021・8)
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