月桃
明易や垣に月桃咲かす家
薄暮なる青パパイアの実をひとつ
ミストシャワー蝉が潜つてゆきにけり
夏が逝くきれいな皿にきれいな種
モンステラの葉の隙間より秋の風
・・・
整理をしていたら、キスリングが描いたミモザの絵葉書が出てきた。バックのブルーが鮮やかである。すっかり忘れていたが展覧会に出かけた時にでも買っていたのだろう。ミモザのことをあれこれと思い出すきっかけになった。
私にはかつてミモザの花に憧れていた頃があった。早春に咲き始めると遠くからでも目立つ。街路樹になっている一角があって、その時期には遠回りしてもその道を歩いたものだった。庭に咲かせている家があると、どんな人が住んでいるのだろう…と想像したりした。
大倉陶園にミモザ柄のティーカップがあることを知り、どうしても欲しくなって取り寄せたことがあった。大切にしていたのだが、平成7年の阪神淡路大震災で他の物と同様に割れてしまった。残った1客は今や思い出の品となってしまった。時々紅茶を淹れて楽しんでいる。
ある時、黄色の刺繍糸と生成り木綿を買ってきた。ミモザのいっぱい咲いた枕カバーを作ろうと思ったのである。六本取りにして緩めのフレンチナッツステッチで埋めてゆけばミモザらしくなるのではないだろうか……。葉は緑色の濃淡。アウトラインステッチで、と、頭の中ではああしてこうしてこうなって“細工は流流”であった。葉の方はさっさと刺せたが、花の方は結構根気のいる仕事だった。しかし、やり始めたら最後までやらねばならない。出来上がりを想像して頑張った。
仕上げまでこぎつけていそいそと枕に掛けた。ミモザ色の夢でもみるつもりだったのだが、そうはいかなかった。目覚めたら頬っぺたがボコボコのブツブツ、穴ぼこだらけになっていたのである。何ということ! 結局カバーの上にタオルを置いて寝るという情けない顚末に終わったのである。ああ、サテンステッチにでもするべきだった。
そんなミモザに対する我が執着もいつの間にか薄れてしまっていた。それが、つい最近地下街で少し迷って、迷うのも偶にはいいかな……とそのまま歩いていたら雑貨屋に行き当たった。そこで、麻地にミモザを刺繍したコースターを見つけた。3枚しか残っていなかったので、その3枚を買った。ささやかな物ではあるが、まさに衝動買いであった。
(2022・7)
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