「船団」の心斎橋句会にずっと参加させていただいた。ふけとしこさんの草花に対する情熱に魅かれたことと、実作者としての柔軟な言葉選びを、もっと身近で学びたいと思ったからだ。句会では、時間の許す限り席題や袋回しなどにも付き合ってくださった。そして「船団」の集大成である『船団の俳句』(二〇一八年刊)の編集も、ふけさんたちと共に作り上げたことなど、「船団」が散在した今では、いい思い出として残っている。
今回の第五句集『眠たい羊』では、鳥のさまざまな生態の表現が強く印象に残った。
嘴で争うて二羽天高し
空気が澄んで真っ青な大空の中、二羽の鳥が争っている姿を捉えた。その生々しさを「嘴で争うて」と表現したことにより、嘴の鋭さがアップされ、そのぶつかり合う音まで聞こえてきそうな迫力が生まれた。「天高し」は爽快感のある季語だが、取り合わせに争いを持ってきたことに意外性があると思う。
嘴の痕ある椿ひらきけり
この句も「嘴」がポイントとなるが、「嘴の痕ある椿」は、見過ごして通り過ぎる人がほとんどではないだろうか。俳人の眼がきらりと光った句である。赤い椿に嘴の傷跡がちょっと痛々しいが、下句の「ひらきけり」の平仮名表記がやさしく、椿の艶やかさが伝わる。そして作者の植物に対する愛情が滲んでいるようでもある。
黒く来て黒く去る鳥春浅し
何の鳥とも言わず「黒く」のリフレインで、鳥をシンプルに捉えた。「春浅し」は、「春色ととのわず」と歳時記にあるが、鳥の飛ぶ様子をモノクロとしたことにより、春が立ってまだ日の浅いころの光景が映像としてくっきり浮かんでくる。黒く去っていく鳥を「春浅し」の季語を用いたことにより、情緒的な余韻が残る。
春寒やぎつしぎつしとゆく翼
春とはいえ、まだ肌寒い日の空を鳥が飛んで行く。その鳥の翼の様子をクローズアップした。鳥の翼が風に逆らい大きく羽ばたきながら「ぎつしぎつしと」行くのだ。このオノマトペがとても印象的である。「春寒」のほのかな明るさの中、大空をゆく翼にみずみずしい生命力が感じられる。
万緑や鳥に鳥の子蚊に蚊の子
この句は「鳥の子」を題材としているが、夏の緑一色を詠嘆し、その緑の木々に鳥の子がいることを認識して、そこから畳みかけるように「蚊に蚊の子」ときた。この展開に誰もが「えっ?」と驚くだろう。「蚊」も季語だが、この句では「万緑」が強い。鳥の子を先に出すことにより、蚊も飛ぶことができる仲間のような感覚に陥る。誰にでも出来る技法ではないと思う。ほわっとしたユーモアも感じられるし、子が育つ時が万緑だ。
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