2016年8月26日金曜日

2016こもろ日盛俳句祭参加記 前半 / 北川美美



今年2016も恒例の「こもろ・日盛俳句祭」に参加した。

今年の実施日は、2016年7月29日、30日、31日と昨年よりも暦上では5-6 日ほど早いことになるが、例年に比べると今年の参加日の暑さは気のせいか昨年よりも穏やかに感じた。実際の真夏日は一週後だったため行動しやすかったのは確かだったようだ。刺さるような痛い日差しがやはりこの俳句祭には合っている。ともあれイベントは無事終了し盛況だった。




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少々、日記風に個人的観点にて…。

●2016年 7月30日(土曜日)   晴  小諸・気温 最高32度 最低22度


私が参加したのは、30日シンポジウムからの二日間。小諸到着は11時頃だった。昨年は、句会場の慶興寺に向かいながら、行けども行けども迷ってしまい、どうしても辿りつけなく、ベルウィンの総合受付に戻り、道案内をしていただいたなどの事があり、大汗に更に大汗をかいての投句となったため少々早く出発。

しかし、車中で流していたDVDが気になってしまい、佐久平パーキングエリアにて映画のラスト20分くらいを集中して観てからの到着…なんとも句会に臨む心得としては不謹慎極まりないところで虚子先生にお詫び申し上げる次第だ。

さて、会場に到着すると、佐久が本拠地(現在は神戸が発行所)の「里」の世話役されている森泉理文さんと受付で会う。せっかくなので、吟行と称し、一緒に小諸動物園に行くことに。小諸城址に隣接する動物園だ。

昨年、刊行された、高柳克弘さんの『寒林』のどなたかの推薦句と自選句に下記があった、というのが理由としてあった。


日盛や動物園は死を見せず  高柳克弘 『寒林』


確か、こもろ・日盛俳句祭で投句されたのではという記憶がある。


動物園に行ってみると、なるほど、となる。 


ライオンの雌が一頭、端居しているような姿で静かに鎮座していたが、どうもパートナーだった雄が他界したようなのだ。村上春樹がこのライオンに会いに来るとかで、(檻にそう書いてあった)、残る雌ライオンも小説に出て来たりするらしい。

歩きながら理文さんに「一日目はどうだった?」 などと感想を求めたところ、一日目の「講演会」が非常に面白く、今迄知らなかった子規の一面やら、踏み込んだ話が聴けて、有意義だったという感想だった。 


一日目は下記の講演が組まれていたのだ。

「講演会」(7/29)
講師 久保田 淳 先生
演台「子規を読む-句集と歌集を中心に-」

寝たきりの子規なので想像の句が多いんじゃないか、と例句をあげての話や、当時の遊郭の話などがあったとかで…明治の風俗の話も絡め学者先生からそういうお話を伺うというのは、さらに子規に興味が湧いて来る。「子規は脊椎カリエスとどう向き合ったのか」と思いながら…、心身ともに健康だったと思える子規がどう病と向き合ったのか…かつての大河ドラマの『坂の上の雲』の子規役だった俳優・香川照之の姿を思い出しながら理文さんの話を聞いていた。

講演は拝聴できなかったが、理文さんの話を伺ってなんとなく子規の隠れ話に興味が湧いてきた。


7月29日 講演 久保田 淳 先生


帰ってからクプラス(第2号は子規特集)を読み直すと高山れおなさんの「根岸の一夜」は子規の性欲云々に思いを巡らせる内容だ。碧梧桐の回顧談『子規の回想』が妙に生々しく熱帯夜に迫る。…と久保田淳先生の講演を聞けなかった分、クプラスを読むというカラクリになった。



動物園にいるポニーや羊をじっーと見つめていても句は出来ず、少々飽きて、小諸城址から富士山が一望できる(その日は見えず)ところで一休みする。と、どうも、前に座ってらっしゃる方は、青木百舌鳥さんらしい。 あれ?と声をかけてみるとやはり百舌鳥さん。今年も写真班でスタッフとして参加されていて、しばし歓談。小諸には頻繁にいらしているようだ。 茶屋で「冷やし飴」なるドリンクで喉を潤す。 百舌鳥さんは、午後は山城館句会だということだった。

7月30日 山城館句会 (撮影:青木百舌鳥)


さらに、城址を歩いていて、小屋らしきも展示室を覗いてみると、<木の火筒>を発見し感動。 戦国時代に使用されたものがそのまま展示されているのか、レプリカなのかは確認できなかったが、三回火薬を発射させるともう使用できないという説明が書かれていた。薬玉を入れる火薬筒も傍にあった。というのも三橋敏雄句に<然る春の藁人形と木の火筒>があり、目に留まったという次第だ。朝、佐久平PAで油を売っていたように観ていた映画『逆噴射家族』はマンザラ不易ではなかったのだと自分に言い聞かせる。(火筒→逆噴射という連想のカラクリ。)


逆噴射したら怖いですね…木の火筒
然る春の藁人形と木の火筒 三橋敏雄 『眞神』



7月29日 慶興寺句会場


さて、句会。今年も慶興寺を選んだ。 今年は、迷わず到着でき、本堂が会場となっていた。スタッフは高田正子さん、藤本美和子さん、小林貴子さんが担当された。夏潮の柳沢木菟さん、柳沢晶子さんご夫妻、御厨早苗さんが同会場で、「あらー!」と顔を合わせ再会を喜ぶ。今年は、夏潮の皆様にお会いするために、何か湘南らしいものを身に着けて行きたい、と思い、油壷シーボニア近くにあるWATTS のバックを持って行ったのだが…。(と、説明をしたのだが、何? ワッツ? と通じなくショック。夏潮の御用達かと思っていた。)

慶興寺本堂には虚子先生が小諸を離れる時に送別句会を開いたところのようで、虚子先生を囲み11人(確か)の本堂前での記念写真が飾ってあった。

黒蝶の何の誇りも無く飛びぬ 虚子  『続・小諸百句』より 
夏蝶の簾に当り飛び去りぬ 
秋晴の名残の小諸杖ついて 

※小諸百句・続小諸百句は 市立小諸高濱虚子記念館にてお取り扱い中 詳しくは》こちら

高田正子さん、藤本美和子さんは、午前中に真楽寺を訪れたようだ。神秘的な沼がある。

さて句会。いくつかの句をご紹介しておこう。

(7月29日 慶興寺句会)


(※お名前の表記が不確実な可能性があります。)

汗の玉命しづかにつなぎつつ 高田正子
龍神を待つ山清水あふれしめ 
軽鳬の子に水面やさしくなりにけり  
涼風や水鏡へと身をかがめ 小林貴子
汗引くや小諸の風に他ならず  
水中の日向日蔭も土用中 藤本美和子 
水輪ただ広ごるのみの泉かな 松枝まりこ
けふ何か生まれ逝きたる泉かな  
汗乾ききつて蕎麦屋に辿りつく 小玉和子
川底の赤錆色や夏落葉 
本堂の西側葭簀立て掛けて  
店番が昼寝している骨董屋  和田桃
向日葵は日を追ひ我は信濃行き 
塔浮かせ山百合の香の傾れをり 小倉京香 
汗拭ふ村一番の子沢山 塩川正 
薄暗き隧道を抜け蝉時雨 御厨早苗 
老鶯の小諸ここよと鳴きくれし 中村みきこ
朝涼や外階段の湯屋遠く 柳沢晶子  
首垂れて顎で交わる汗の玉 北川美美



北川が特選に選んだのは、藤本美和子さんの「水中の」の句。もちろん光の陰影の様子が目に浮かんだのだが、縦書きの句を拝見したときに一行のデザインが幾何学的に目に入ってきた。また水、中、日、向、蔭、用、 言葉同士の不思議な引力があると思える句だった。



句会後は、本会場のベルウィンに戻り、シンポジウム会場に向かう。

(つづく)


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●7月29日(金曜日)  記念募集句   藤本美和子選

特選 
虚子庵の午後蠅の声あるばかり  本井 英 
入選 
雨あがりの虹追ひかけて小海線  塩川 正 
通散湯苦し崩るる雲の峰  野中 威 
蚊を打つて一つ年取る心地かな 久保千恵子 
乙女なる駅名過ぎて朝涼し  藤田恵里 
手紙読むための机や白木槿  中村恵理子 
何の鳥の一声山を涼しくす  大矢知順子 
嘆息のたび熱帯魚裏返る   仲 寒蝉 
川筋に鳥の集まる炎暑かな 窪田英治 
吊り鐘人参揺るるは鐘を鳴らすとき  荒井民子


 1日目 スタッフの先生方
(撮影:青木百舌鳥)




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