刊行された『鴨』の初めての読者が私であることを思うたび、つい頰が緩んでしまいます。
数年前、麒麟さんのお宅と私の実家の最寄り駅が同じであるご縁で、麒麟さん・A子さんご夫婦と親しくなりました。近所のカレー屋さんやイタリアン・レストランに行ったり、お花見や忘年会をしたり。
たいていたわいないおしゃべりに終始して、俳句の話が出ることもたまにあるけれど、「麒麟さんって推敲とかします?」「あんまりしないんですよ」「私もしなくって」などとのんびりしたもの。吟行と称して会っても、書き留めた句を見せ合ったことはなく、でもたしかに句は残っています。
A子さんはいつも麒麟さんの横でほほ笑んでいます。A子さん自身は俳句を作らなくて、ただただ麒麟さんの俳句を大好きなのが伝わってきます。
あの日は麒麟さんのお宅に遊びに行っていましたね。
三人で炬燵に入り、A子さんの絶品おでんと私の林檎ケーキを食べながら、いつものようにおしゃべりしていると、ピンポンとチャイムが鳴って玄関先にドカドカと十数個の段ボール箱が置かれ、その一個目の封が開けられて、一番上の一冊をいただいたのが私でした。
そのあとはなんだかもう胸がいっぱいになってしまって、はしゃぎすぎてお皿を下げるのも忘れて帰ってしまったこと、ごめんなさい。
お詫びといつものお礼をかねて『鴨』から「愛妻10句」を選んでみたので、お二人で楽しんでくれたら嬉しいです。
二家族同時にわつと初笑
笑いのツボが同じってことがまずはめでたいなぁと。
白団扇顔のみ妻の方へ向け
出会った当時は体ごと向けていたと思うけれど。
鰻重の蓋開けてゐる妻の顔
変わっていく表情がいとおしい。
端居して妖しきものかいや妻か
いや、妻って妖しいものなのでは。
踊子の妻が流れて行きにけり
もう戻ってこないような切なさも。
向き合つてけふの食事や小鳥来る
おのずと向き合う時間をもてる幸せ。
帰宅して気楽な咳をしたりけり
外用の咳と家用の咳。
アロハ着て息子の嫁を眺めをり
これ以上ない気の置けなさ。
妻留守の半日ほどや金魚玉
自由でさびしい時間。
無花果や妻の幼き頃の本
懐かしいような、新しいような。
麒麟さん、『鴨』出版おめでとう。
それから、A子さんと出会えたこと、改めておめでとう。
では、また近いうちに。
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