完成
はつあきの赤きテープを巻かるる木
川船の波とどく辺に種を採る
秋半ば展示の銀器曇りゐて
台風圏サンドイッチの角が反り
人ひとり立たせ花野の完成す
・・・
「今度の台風はこの辺を通りそうだから、台風の目の中に入るかも知れないよ」理科の先生がそう言った。「昼間だったら目の中に入った時には青空が見えるから、その間は風も止むし見ておいた方がいいよ」と続けた。
何しろ昔の、昭和三十年代の話、今のように詳しい気象情報が入ってくるわけではない頃のことだ。
当日学校は臨時休校になり、何となくわくわくしながら台風を待った。
風がパタッと止んだ。慌てて庭へ出て空を見上げた。
「本当だ!」楕円形に青空が見えていた。台風は北の方へと移動してゆき、また強風が吹いた。本当なんだ!
日食を見たときよりも驚いたかも知れない。今でもくっきりと憶えているが、その後、台風の目の中へ入るという偶然というか経験は無い。
これも思い出話だが、何人かで稲光を見ていた。真直ぐ光るのもあれば、途中で枝分かれするような形の光もある。細く短いのもあれば、太くて山に届きそうな長いものもあった。横へ流れるようなものもある。きれいだなあ……。
稲光は美しかったが、雷のゴロゴロという音は好きではなかったし、押し入れに隠れるほどではないにしても、やっぱり恐ろしかった。
突然、ゴロゴロどころかバッキン! ガッシャーン! と凄まじい音がした。今のは落ちたなと皆で言い合った。近所の屋敷裏の森のようだった。それは近くだったこともあり、本当に凄い音だった。雨が止んだ後で様子を見に行ったわんぱく坊主が「木が裂けている」「カミナリが逃げた穴がある」と知らせてくれた。女の子たちも怖い物見たさでついて行った。
大きな木は中程から見事に裂けていた。根方の土に確かに十円玉より少し小さい程の穴が開いていた。それが雷が逃げた穴かどうかは分からなかったけれど……。
(2022・9)
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