【戦後俳句を読む】
【現代俳句を読む】- 文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む25~社会性俳句総括③~最終回】
- 【俳句時評】 禅寺洞から遠く離れて
【編集後記】
十代の愛国とは何銀杏散る 長野 松井冬彦
寒晴やあはれ舞妓の背の高き 句集『寒晴』1990(平成2)年6月
漲りて一塵を待つ冬泉 〃
男らの汚れるまへの祭足袋 〃
初夢のなかをどんなに走つたやら 「俳句」1990(平成2)年1月号
今度こそ筒鳥を聞きとめし貌 「俳句」 〃 7月号
今こそ口語俳句を!――編集部の与えてくれた題の「今こそ」に注目する。今、現在とはどういう時空の中の「今」なのか。
二〇一一年三月十一日、東北地方に大震災・津波が発生、それによって原子力発電所の爆発までが起き(中略)トラブルの完全収拾には数十年の時間を要すると分かりながら、なお原発推進を企む政治勢力も存在するという日本の現実、つまり「今」がある。
俳句のみならず、あらゆる文学、芸術は、こういった反人間的、反社会的な行為・傾向に抗う精神の営みをいう。(「態度の問題」)
〈3.11以後の俳句〉を戦後俳句の延長線上にテーマ化している僕自身、(中略)このテーマは、被災句を書くとか、書かないといったこと以上に俳句革新の根源の問題を孕んでいるのです。僕は昭和一桁後期の生まれ(平成天皇と全く同じ)、いわゆる疎開学童世代に属します。敗戦と今回の「3.11」は体験を超えて"思考〟として受け止め、この"二つ〟を重大なるものとして、俳句という自己表現の底に埋めておきたいと考えています。
朝市のもの並び替えては少年寡黙
鼠追い込み軍国少年のことば出てくる
妻を更けさせつくつく法師聴いている
増水の川見てきて自分までおそろし
かなしい楽器だな 妻に吹く法螺は
揺れながら物食ひ寝ながら揺れる関
関曰く揺れない方が変なのだ
関揺れる揺れてない場所さがしつつ
注意しろ関が余計に揺れだした
三度目の揺れはおそらく関のせい
本日はお日柄もよく関揺れる『関揺れる』のあとがきのなかで、御中虫は自らを被災者ではないと言い、「虫は我が身のこととして 東日本大震災を ひきうけられはしない人格の持ち主である」としたうえで、次のように述べる。
ただし関悦史さんという被災者がゐた。
関さんとはたった二度ではあるけれどもリアルにお会いして、またふだんツイッターでの彼の知性とユーモアと機転、人柄などなどにはとっても魅力を感じてゐるし、虫がつらいときにツイッターでとおくからやさしいこえをかけてくださることもしばしばあり。個人的には親しみを感じてゐるのね、先方はどうだかわかんないけどww
正木は「わたくし」に加え、超季的なモチーフのために、季語を運用したわけだが、ここで最も重要なのは、そこに季語を、季節感を信用しすぎていない何かが、正木にはあるということだ。季語以外の主題のために季語を運用する。その残像をあるいは、私は「俳句甲子園組」に見たのだろうか。とすれば、彼らもまた「わたくし」という主題に取り組むのは、よく納得できる。(前出「拡散してゆくわたし」)
白蓮白シャツ彼我ひるがえり内灘へ 古沢太穂
2013年10月12日(土)-2014年1月13日(月・祝)
群馬県立館林美術館
木星号遭難す鯖焼きをれば 青玄 27・6 日野晏子※「木星号」は「木犀号」の誤り。
妻と粥啜りあげつらふ太宰の死 暖流 23・8 島津次郎【横光利一死】
死面描けるわづかの線の寒かりき 惜命 石田波郷【久米正雄死す】
久米氏逝くと妻に告げたるあと咳こむ 青玄 27・5 日野草城【茂吉死す】
啓蟄の蒼天のこる茂吉は亡し 寒雷 28・4 加藤楸邨【ガンジー死す】
冬の星高さは距離かガンジー死す 寒雷23・5 秋山牧車【近衛氏自殺】
近衛家へ悔み使僧や門時雨 ホトトギス 21・3 下村快雨【スターリン死】
友ら護岸の岸組む午前スターリン死す 俳句研究 28・5 佐藤鬼房【女王戴冠】
女王戴冠蛙の国のことでなし 俳句28・8 島田洋一【松川事件】
滾る銀河よ真実獄へ想ひ馳す 俳句 29・4 佐藤鬼房【燃ゆるバス】
火だるまのバスに鵙鳴き猛りけり 曲水 27・2 大塚鶯谷楼それがさらに日常的な題に拡張してもそうした共感が寄りそう。社会性にあって、日常の事実は決して本質が変わることはなかった。
飛機が撒くD・D・Tカンカン帽を手に 鼎 青池秀二
D・D・T乳色の空やや冷ゆる 寒雷 23・3 吉利正風
D・D・Tの広告塔や灯取虫 ホトトギス 25・1 上田南峯
ストマイどんどん打つてやりたいじつとり盗汗 道標 27・2/3 岩沢道子
ペニシリンに妻よ肺炎の吾子託せ 浜 27・6 川島彷徨子
結核に新薬土用芽吹きけり 浜 27・10 森遊亭
ツベルクリンの反応赤く秋始じまる 氷原帯 27・11 藤島孤葉
パスをのむ声がかすれて秋の風 雲母 28・1 山岸墨綿子
勤めより戻りてはパスを飲みて冬 浜 28・1 森田豆子
新薬を飲む指冷えの夕焼か 浜 28・3 沖原比沙子
ストマイに額縮まるや雪に雨 氷原帯 27・3 関根花右門
寒雷に飲む真白きヒドラジッド 風 29・5 細見幸子
マイシンを射たる一叢の風ひかる 麦 29・6 山崎誠之助