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2020年10月16日金曜日

【読み切り】赤野四羽の怒涛の俳句パッション 豊里友行

 赤野四羽さんの怒涛のパッションに圧倒される。
 本書のあとがきから赤野さんの言葉を拾ってみる。

  富澤赤黄男は「針」と言い、寺山修司は「鍵」と呼んだ「俳句」。
  第34回現代俳句新人賞の言葉のなかで、私はそれを「沈黙のつぎに美しい詩型」と呼びました。


 この賞は、孤高に俳句創造し続ける赤野四羽を大いに励ましてくれていたのだろう。
 現代俳句の優れた俳人の俳句世界の創造へのエールに呼応するように赤野四羽は、俳句創造への試行錯誤、四苦八苦の険しい道を着実に切り拓いてきた。
 赤野さんの言葉をもう少し引用したい。

   もちろん、俳句には「季語」「切れ」「五七五」など、いろいろな特徴がありますし、それぞれに重要な役割があるものと思います。ただ、どれか一つ、というなら、私は俳句の「短さ」にこそ本質があるのではないかと感じています。
   切り裂く「剣」ではなく「針」、打ち破る「棒」ではなく「鍵」、それは小さく短いことが強みだということでもあります。


 前置きがながくなりましたが、俳句の形式は強みにもなり、呪縛のように表現の縛りにもなる。
 俳句とは何かを問いながら俳句創造のいばらの道を切り拓く赤野四羽の俳句飛翔は、地を這うように地道な俳句実験が果敢に、たくさん成されている。
 先ずは、その刃の切っ先とでもいおうか、平成28年度第34回現代俳句新人賞受賞作「命を運ぶ」は、この句集の軸を成して現代俳句独楽が、無数に回転しているので御堪能あれ。
俳人・赤野四羽の飛翔は、この俳句の省略を埋めるだけの強靭なバネを巻き、俳句文学の「なにか」を弾く。

真っ青な海に倫理が滴れり
鉄線花譲るべからず濡れ歩け
油照兵士は壁と壁になる
水浸しの紫陽花父盲いたり
侮辱せよ真白い夏服に着替え
百合の木や生は沈黙ならざりき
神のみが水母正しくおそれけり
ページ繰る音の軽くて秋の蛇
あらばしり幸福語らしめる夜
失われたものは還らぬ山葡萄
ゆるゆると歩め鶫は遅れくる
悔しさのような病や銀杏散る
熟したるおとが零れる星月夜
茄子の馬とうとう姉の夜がきた
少しだけ約束してよ虫篭に
月を知る鳥は夜には従わぬ
毛皮きて少女はきんいろに濡れる
雪女祝うひかりの濃い淡い
誠実に鼬の罠は降りてくる
吸殻のようなからだで鮃食う
もう何度ストラップの熊よみがえる
短日や視線たがいに縛りあう
君だけの時間にもまた雪が降る
悦楽や凍蝶重なりあわず落つ
掘りつづけ枯野の果ての自由かな
あまい指からだのなかに遠蛙
下萌や昏いところにある兆し
意志はさて飛んでいくのか蜆汁
永き日に肩甲骨のみぎひだり
ホットドッグ頬張り赤い花種蒔


 二〇一一年からの五九一句の赤野四羽の怒涛の俳句パッションに今後も期待を込めて。
私性を軽やかにかろやかに詠う。
 感性の原石の絶え間ない研磨。
 社会的な題材を丸呑みする蛙のような詩的昇華は、見事な神業。
 現代俳句の岩をずるりっと動かす共鳴句たちに今後も期待している。

鍵かけてともに無言の夏蜜柑
合歓の花終わりの日にも咲いている
黒猫の目玉万緑みつけたよ
サキソホン絶唱夏の五体かな
花野蹴って蹴って転ぶそんな昼
人体に無花果ありて愛らしき
蟋蟀や快楽がなにより大事
目と目があう秋雨の夜の手術台
いっせいの曼珠沙華とし戦えり
缶詰に未来があった春でした
吸いとられ永訣なれや桜貝
置きどころ困るくじらの処刑台

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