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2020年11月27日金曜日

【中村猛虎第一句集『紅の挽歌』を読みたい】4 無題  ほなが 穂心

 中村猛虎氏  その名前からすると、熱烈な阪神ファンかな?
 氏の略歴を存じ上げなかった時期は、そうした俳号からの先入観さえあった。
 ロマネコンテ俳句ソシエテへの投句を拝見する機会が増え、言葉の選び方、取り合わせの妙に独特の世界観を持った方だと尊敬の念を抱いた次第である。
 猛虎氏の第一句集「紅の挽歌」が上梓され、小生宛に送られてきたのは、表紙がレールの断面図と表題の太く黒い漢字の間に、えんじ色の帯紙と同色の「の」の字を挟んだ印象的な装丁の本だった。期待に胸膨らませ本を開く前に、目に留まった帯紙の表紙側の一句は

 順々に草起きて蛇はこびゆく

 夏草の間を滑るように進む蛇であるが、見方を変えると、夏草が鞭毛運動で蛇を運んでいるように見える程、蛇とその周辺の静かな動きを見事に表現した句で、この句がここにある理由が良く分かった。
 このような句が内蔵されていると思うのが普通だが、予想は見事に外れた。
 「紅の挽歌」からは、「生」と「死」に正面から向き合うエネルギーと、同時に読み手を引き込む「生かされている」ことへの喘ぐような息苦しさも感じてしまう。帯紙の後面に記された自薦12句は氏の奥様への思い、上梓への思いだった。
 数多くの作品から上梓のための選句をされた訳だが、構成と句の配列に相当苦心されたのでしょう。見出しごとの句数も疲れない数でまとまっている。
   モノローグ~永いお別れ   24句
   遠い日の憧憬        52句
   家族の欠片         54句
   左手の記憶         56句
   さよならの残骸       46句
   前世の遺言         55句       合わせて 287句
は物語を成しているような感じさえするほどだ。
 猛虎氏より句集の評を依頼された時は正直困った。句会での選評は作者が判らないから、思ったまま言える訳だが、作者が分かった上での句評は、『忖度』と受け取られかねない。正直苦手なジャンルも交じっていた。
 一読目はモノローグの心の重さに引きずり込まれそうになり、感情が鑑賞力を奪いそうだった。氏はその為に上梓された訳ではあるが・・・。
 二読目は敢えて「遠い日の憧憬」から読み始めた。すると、氏の自然界への洞察力、生命に対する尊厳を感じることが出来、自然の営みの中で、自分も「死」に勇気をもって向き合えそうな気がしてきた。

  私が気に入った句、気になった句を、順に寸評を混ぜて20句記す。
  (順々に草起きて・・・は既評済みのためそれ以外)

  脊椎の中の空洞獺祭忌       季語「獺祭忌」は付き過ぎ?
  遺骨より白き骨壺冬の星      季語の斡旋が素晴らしい
  鏡台にウィッグ遺る暮の秋    「ウイッグ遺る」が全てを語る
  この空の蒼さはどうだ原爆忌   「長崎の鐘」の唱と反核への思い 
  どこまでが花野どこからが父親   自分への叱咤「ボーッとしてるな!」
  白菜の葉と葉の隙間不信感     広がった葉は切り落とされる
  朧夜の肩より生まれ出る胎児    何としてもと言う生への執着
  犬ふぐり母は呪文で傷治す     痛いの痛いの飛んで行け
  子の一歩父の一歩に春の泥     親子の情を感じさせる。生の躍動
  ハムスター回り続ける寒夜かな   生きる意味を問い続ける
  高射砲傾けている霜柱       反戦の小さな力をそこに見た
  夏シャツの少女の胸のチェ・ゲバラ Tシャツの柄に革命家?立体感!
  死に場所を探し続ける石鹸玉    シャボン玉の割れるのも「死」
  水紋の前へ前へと水馬       水馬の動きをしっかり観察
  寒紅やいつか死にたる赤子生む  いつかは死ぬ子?何時か死産する女?
  身のうちの澱みのなかより薄氷   心のもやもやが殺気となるかも
  傷口のゆっくり開く春の夕     治りかけているのに、また~
  空蝉の中の未熟児泣き続く     空蝉に例えた保育器の中の子の執着
  鬼灯を鳴らす子宮のない女     子の産めない身体になった女の心理
  ポケットに妻の骨あり春の虹    生かされている内は共に歩みたい!
                                    以上 

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